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01



揺れる事もなく静かに発車した新幹線に君と俺の二人。
飛び乗ってすぐに閉まった扉にもたれ掛かって袖で汗を拭った。
駅のホームで冷やかすクラスメイトたちの声はもう聞こえない。
とりあえず発車時刻に間に合ってほっと息をつくけど、走って乱れた息はまだ整わない。
数度荒く呼吸を繰り返して、目の前にいる君を見る為に顔を上げた。
信じられないと言ったように見開かれた目が瞬きもせずに俺を見てた。

これがラストチャンスだと思ってもなかなか言葉が出てこない。
沈黙が続いてしばらくお互いを見つめ合った。
無言の空気を遮ったのは車内アナウンス。
次の停車駅の案内だった。
時間がない。
決意を新たにぐっと拳を握った。

「黄瀬くん?」

「ねぇ、みょうじさん」

話しかけたのはほぼ同時。
少し大きめの声で強めに名前を呼ぶ事で無理矢理発言権を獲得した。
出発してから一度も逸らされる事がなかった目をこれまでのように…いや、今まで以上に強く見つめた。
離さない。
意思が伝わったのか、みょうじさんが視線を逸らす事はなかった。
緊張で乾いた唇をゆっくりと開く。
水分を求めてごくりと喉を上下させた。

「もう隠さない事にしたんスよ」

他の乗客の話し声や再び流れるアナウンスがどこか遠くに聞こえる。
今しっかりと耳に入ってくるのは、自分の心臓の音と、俺と君の二人分の呼吸音。
昨日までの自分とはここに来る前に別れを告げてきた。
だからこそ俺は今ここにいる。
そうだ、もう隠さない。

「俺、みょうじさんが好きだよ」

時が止まった気がした。
動いているのは窓から見える景色だけで、ここには俺と君の二人きり。
二人だけの特別な空間のように感じた。
丁度ボール1個分ほどの君との距離。
意気地のない俺がありったけの勇気を出してここまで詰めた。
あともう一歩、ボール1個分近付く為に右手を差し出した。

走り続けていた電車の速度が緩やかになっていく。
あぁ、別れの時が近付いている。
例えここで別れても、どんなに離れる事になっても、君の一番近くにいるのは俺でありたい。
ずっとずっと好きだった。
だからお願い、どうか俺のこの手を掴んでみせて。