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それは、いつかの



※死ネタ注意


12月25日。
クリスマス当日に、僕はクリスマスイルミネーションで有名な場所に来ていた。
目の前にある大きなツリーを見上げる。
着飾ったもみの木は、例年通り変わる事なく綺麗だった。
辺りは恋人や家族連れで賑っている。
ふと小包を抱えて嬉しそうに駆けていく青年が目に入った。
見るからに恋人へのプレゼントだろう。
微笑ましい光景が自分の姿と重なって見えて、小さく笑みを浮かべた。
コートのポケットの中に手を突っ込んで、包装された小箱の存在を確認する。
しっかりと握り締めて笑みを深めると、僕も恋人の元へ行こうとツリーに背を向けて歩き出した。

毎年クリスマスは恋人のなまえと過ごしている。
同棲を始めて数年。
家に帰ると家の中までクリスマスに染まっていて、思わず笑顔になる。
なまえが頑張って飾り付けたのだと思うと愛しかった。
ただいまと声をかけるとなまえは夕飯を作っている最中で、愛用のエプロンをつけておかえりと出迎えてくれる。
もう一度ただいまと返す代わりに、なまえの頬に口付けた。
テーブルに並べられたなまえの手料理を前に、用意していたプレゼントを渡す。
顔を綻ばせて喜ぶなまえが可愛くて、愛しくて、大事で、その気持ちも含め温かい家庭を築けていた。

「ただいま、なまえ」

今年も変わらず声をかける。
そしてなまえが出迎えてくれる。
あの頃と何も変わらない。
変わってなんかいない。

先程までいたツリー前とは打って変わって、静かな墓地でなまえと向かい合った。
みょうじ家と彫られた墓石が、僕には輝いて見えた。
まるでイルミネーションに彩られたように。

「プレゼントを持ってきたんだ。喜んでくれるかい?」

ポケットの中から用意していたクリスマスプレゼントを差し出す。
包装を解いて小箱を開けると、ダイヤが散りばめられたエンゲージリング。
そっとなまえの前に添えて眺めた。
じっとひたすら眺める。

「思った通りだね。なまえにとてもよく似合う」

満足してなまえに向かって微笑んだ。
この指輪を渡す前になまえは他界した。
今年はちゃんと渡そうと心に決めていたので、こうして無事に渡せて満足だ。
この世になまえがいなくても、僕はなまえのものだし、なまえは僕のものだ。
想う気持ちは変わらない。
今までも、これからも、いつまでも手を繋いで歩いていきたいのはなまえだけ。
喜びも、悲しみも、いつか分かち合い微笑み合える日がくる事を想ってる。
また、いつの日か。

手を伸ばして出来るだけ優しくなまえに触れた。
堪らず口付ける。
冷たい石の感触に、一粒涙が零れた。

「メリークリスマス、なまえ」

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B'z「いつかのクリスマス」を引用して書かせていただきました。
2013年クリスマス。