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ご褒美をください



私にはお気に入りの製菓店がある。
チョコレートにマドレーヌやフィナンシェと、様々なスウィーツを取り扱っている店だ。
リュカとお茶をする時にも、茶菓子として用意する事が多い。
私が勧めてから、リュカも口にする姿を目にするようになった。
私の好きな物をリュカにも気に入ってもらえたのならとても嬉しい。
その製菓店で限定チョコが発売されるらしい。
次の休日限定で売り出すようで、買いに行きたくて今からうずうずしているのだが、残念ながら私にはブルーベルでの仕事がある。
住まわせてもらってる上にこうして仕事まで与えてもらっているのに、菓子を買いたいから休みをくれなんて言える訳もなく、気になって仕方のないチョコレートを諦めた。
ブルーベルでの仕事は楽しいし、自分が淹れた紅茶で生まれるお客様の笑顔を見ているのが大好きだ。
落ち込む事など何もないと気合を入れ直して仕事に没頭した。

そうして夢中になって働き終えた夜。
ドアベルが店内に響き渡った。
弊店の時間に誰だろうと扉に顔を向けるとリュカが手を振っていて、嬉しくなった私はぱたぱたと小走りで駆け寄った。
どうやら私を迎えに来てくれたらしい。
リュカの気遣いに心が温かくなって、手を繋いで帰ろうと手を伸ばした所でリュカが紙袋を持っている事に気付いた。
貰い物だろうか。
本人に自覚はないようだが、リュカは大変モテるので、女の子からのモーションがなかなか激しい。
リュカに好意ある女性からの贈り物だとしても何もおかしくない。
ただ、少しの嫉妬心が生まれるが。

「ねぇ、リュカ。その紙袋は?」

「これ?これはね…はい、あげる」

「え、私に?」

「うん。あげたくて買ってきたんだ」

何を買ってきてくれたのか見当もつかず、首を傾げながら差し出された紙袋を受け取った。
中を覗いてみると、私の大好きな製菓店のロゴが見える。
これってもしかして、と勢いよくリュカを見れば優しい笑顔。

「欲しがってたよね、その限定チョコ」

私の代わりに買ってきてくれたというのか。
言葉に出来ない喜びが込み上がってきて、リュカがくれたチョコレートを紙袋ごとぎゅっと抱き締めた。
ありがとうと心を込めて感謝すると、どういたしましてって笑ってくれたリュカ。
好きが溢れて零れそう。

「今度お礼しなきゃだね」

「お礼はいいから、ご褒美が欲しいんだけど、いい?」

お遣いのご褒美が欲しいと頬をほんのりと染めてリュカが私を見る。
何をねだられるんだろうと考えながら、何が欲しいのか聞き返した。
とりあえず、思わずリュカが照れてしまうようなご褒美をねだられるであろう事が分かって、私まで顔が赤くなってしまう。
なんだかドキドキする。

「キスのご褒美が欲しい」

私からリュカにキスを送った事はない。
初めての事にドキドキが大きくなっていく。
緊張のし過ぎで上手く呼吸が出来ない。

ごくりと喉を鳴らすと、背伸びをしてそっと顔を寄せた。
ご褒美という名の感謝と好きを、貴方へ。

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2014年バレンタイン