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遠距離恋愛



12月になると、世間はクリスマス一色に染まる。
飾られたオーナメントやイルミネーションが可愛らしい。
そしてこの時季急激に増えるカップルの姿。
手を繋いだり腕を組んだりして、楽しげに歩く姿をちらほら見る。
綺麗に彩られた街中を一人で歩く度に、羨望の眼差しを向けては溜息を吐いた。
吐いた息が白い。
まるで寂しい私の心のようだった。
心にぽっかりと穴が開いて真っ白な私の心。

中学から付き合っている私の彼氏である赤司とは、高校に進学してから住まいが離れた。
私は東京、彼は京都。
行き交う恋人達のように、この時季を満喫出来る訳がなかった。
12月といえばクリスマスだが、私にとって12月のイベントはそれだけではない。
12月は赤司の誕生月だ。
満足に祝ってあげる事さえ出来なくて、寂しい気持ちは膨らむばかり。
仕方のない事だと言い聞かせて、夜の街を照らすイルミネーションの中を歩いた。

せめて一番に誕生日を祝いたくて、帰宅後飽きもせずに延々と携帯電話を眺める。
日付が変わるまであと数時間ある。
電話だろうがメールだろうが、祝うにはまだ早い。
どのタイミングで連絡をしようかとうんうん唸っていた時だった。
突然手の中で携帯電話が鳴って、慌ててディスプレイを見ると着信を知らせている。
表示されている相手の名前は赤司征十郎。
なんてタイミングがいいのだろう。
意中の相手からの着信に驚きと喜びが入り混じって、勢い良く通話ボタンを押したはいいが声が上擦ってしまった。
恥ずかしいったらない。

『随分元気がいいな。安心したよ』

「う、うん。元気だよっ」

くすくすと笑われて恥ずかしさがなかなか引いてくれないが、ここで動揺し続けてはからかわれてばかりになってしまうので、なんとか平静を取り戻して言葉を返す。
なんて言われようが、久しぶりに声が聞けて嬉しい。
例えそれが機械越しだったのだとしても。
会えない分、電話を通して聞く声は貴重だった。

『ところで、なまえは今部屋にいるね?』

「え?うん、いるけど…」

どうして赤司は私の現在地が分かるのだろう。
ある程度は何でもお見通しな彼だが、さすがに把握しすぎだ。
時間的に自室にいると分かったのだろうか。
だとしたら頷けるが、私の行動をそこまで把握している赤司は流石というか、なんというか、凄い。
それとも、私の行動パターンがそれだけ分かりやすいのだろうか。

『少し外に出てきてくれないか?会いたいんだ』

どういう事だ。
まるで近くにいるような言い方だ。
いや、近くというか、私の家付近にいるような言い方。
まさかとカーテンを開けて窓から外を見ると、赤い髪が見えた。
赤と金の綺麗なオッドアイがこちらを見ている。
私を、見てる。

どたどたと荒くなる足音を気にも留めずに玄関に向かった。
どくんどくんと跳ねる心が体を急かす。
大きな音をたてて扉を開けると、嘘でも幻でもなく、会いたくて焦がれた愛しい彼がそこにいた。

「な、んで…?」

「東京で試合があって帰ってきたんだ。東京に来たなら、やっぱり会いたいじゃないか」

微笑みを浮かべて私を見る赤司の目はとても優しい。
そんなの一言くらい言ってくれたらいいのにと思うものの、会えた喜びが募って言葉が出ない。
あまりの嬉しさに泣きそうになって唇が震える。
こんなに幸せな事があっていいのだろうか。
浮かべた笑みを深めて静かに広げられた両手を見たら、いてもたってもいられず赤司の腕の中に飛び込んだ。

「会いたいと思っていたのはなまえだけじゃない」

抱き付いた私を優しく包み込んでくれる赤司が、私の頭を撫でながら言った。
久しぶりに感じる赤司の温もりに、自然と涙が浮かぶ。
顔も、声も、温かさも、全部全部本物だ。
離れてから一年も経っていないが、離れていた時間がとても長く感じた。
やはりこうして彼を感じていたい。

「僕も、なまえに会いたかったんだ」

そっと顔を上げさせられて見つめ合うと、ゆっくりと唇を重ねた。
冷たい空気に晒されて体は冷え切っているはずなのに、重ねた唇は温かく感じた。

「少し早いけど…誕生日おめでとう、赤司君」

「願ってもない誕生日だよ」

にっこりと微笑んで、どちらともなく再びキスをした。
特に何をした訳でもない。
ただ抱き合ってキスをしただけ。
だけど、それだけで幸せで、特別な日のように感じた。

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2013年の赤司の誕生日に。