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やっぱり、好き



中学時代から私はずっと赤司が好きだった。
こうして京都まで彼の後を追ってついてきてしまうくらい好きだった。
恋人になれたらいいと思った事なら勿論ある。
人を好きになれば誰もが思う事だろう。

赤司の態度から嫌われていないのは分かっていた。
いや、もしかしたら彼には嫌うという感情はないのかもしれない。
赤司にとって周囲の人間は駒であり、使えるか使えないかの二択なのかもしれない。
あくまで私の推測なので本意は分かりはしないが、なんとなく今まで赤司を見てきた限りそう思う。
それならそれで構わなかった。
恋人として使えるのなら傍に置いてほしいと思っていた。
赤司にとって価値のある人間であれば、それは私にとって喜び以外の何でもない。
だからこそ、ついてくるかと問われた時は嬉しかった。
私の答えは一つしかなかった訳なのだから、考える必要なんてなかった。
遠くても何でもよかった。
そこに赤司がいればそれだけでよかった。
きっと赤司も私はついてくると分かっていたんだと思う。
聡い彼は私の気持ちも分かった上で京都へ誘ったのだろう。
全て理解して承諾した事だった。

「恋人として僕と付き合ってほしい」

高校生活が始まってからしばらく。
夢見ていた恋人という関係になれるチャンスが舞い込んできた。
私が断らないと分かっているからこそ、赤司は時期を見計らって告げてきたのだろう。
だが、貴方は知っているだろうか。
夢というものは常に姿形を変えるものなのだと。
時が移ろえば想いも変わる。
ずっと同じものなんてないと言い出したのは一体誰だったか。
上手い事を言ったものだ。

「ごめんなさい」

真っ向から向き合って真っ直ぐに赤い瞳を見つめた。
流石の証も断られるとは思っていなかったらしい。
色違いの両の目を大きく見開いていた。

過去を振り返ると、赤司が振る事はあっても振られる事はなかったように思う。
私が赤司を振った第一号かと思うと、それはそれで気分がよかった。
信じられないと物語る赤い瞳を見ると胸が痛むので、いい気分もすぐに消沈してしまったが。

「何故、と聞いてもいいな?」

納得がいかないのも頷ける。
だって私は今でも彼の事が好きだ。
矛盾していると思われても仕方がない。

「私ね、やっぱり赤司君が好きなんだ」

ずきずきと痛む胸を堪えて笑った。
こう言って分かってもらえるかは定かではないが、赤司に伝わらなくても別段困らなかった。
何を言われても、何回想いを告げられても、私は赤司と付き合う気はない。
好きだからこそ、私は恋人という関係になる気はなかった。

彼は日本屈指の名家の出だ。
将来家の名を背負っていく赤司と、平々凡々な一般庶民の私とでは身分が違いすぎる。
一言で言えば釣り合わない。
仮に付き合ったとしよう。
何度想像しても付き合ったその先が見えてしまって、付き合うという選択肢は私の中から消えていった。
好きだからこそ、足枷になんてなりたくはない。

「知っていたよ。ありがとう」

穏やかに笑う彼に私の気持ちは伝わったのだろうか。
それ以上は深く聞いてくる事もなければ言ってくる事もなかった。
いつも通りの日常の中で、ふと最後に漏らした赤司の台詞を思い出す。

「僕は、そんな君だから付き合おうと言ったんだ」

私にとって最高の言葉だった。
涙が出るかと思ったが、それでは赤司にも迷惑だし私自身が許せない。
涙を見せるのは一人になってからがいい。
赤司には満面の笑顔を見せていたかった。
貴方への感謝の意を込めて。

今も中学から変わらず赤司の隣に私はいる。
いつか隣に立つ人が変わろうとも、今があればそれでいい。
不必要になるその時まで、どうか私を使ってほしいと願いながら過ごす日々は悪くない。

今も、昔も。
やっぱり貴方が…。