the seal of love
携帯電話の液晶画面を眺めては溜息を一つ。
悩んでもなかなか決まらない。
「溜息なんて吐いてどうしたの?ずっと携帯眺めてさぁ」
仲の良い友人がひょいと顔を覗かせてきた。
ディスプレイに映っているのはカレンダー。
眉間に寄った皺を伸ばそうと、人差し指でぐりぐりとマッサージしながら答えた。
「もうすぐ彼氏の誕生日なんだけど、プレゼントどうしていいか分からなくて」
もしかしたらのろけに聞こえるかもしれないが、私は真剣に悩んでいる。
当たり前だが、私は女で彼は男。
同性ならまだしも、異性となると何を渡したらいいのか見当がつかない。
こうしている間にも彼の誕生日は刻一刻と迫っている。
「あんたの彼氏って氷室君でしょ?氷室君ならなまえから貰う物何でも喜びそうだけどねぇ」
「そう言われても…」
だからといって本当に何でもいい訳ではないだろう。
悩む時間がなくなってきていて焦っている。
また一つ溜息が零れた。
「もう本人に直接聞いてみたら?」
本人に欲しい物を聞いた方が確実に喜んでもらえる訳だし、それも考えた。
でもやっぱり内緒にしておいてサプライズ感を出したい。
少しでも喜んだ顔が見たいじゃないか。
日にちが迫っている今そうも言っていられないので聞くしか手段がない気もするが、いやでもしかしと同じ悩みを繰り返す。
うんうん唸っても何も問題は解決しないと分かってはいるが、これと思えるプレゼントが思い付かない今、唸る事しか出来ないでいた。
「ねぇ、なまえ。悩みがあるんだって?」
二人でランチを楽しんでいた昼休み。
氷室から切り出された話題に思わず咳き込んだ。
どうして氷室が知っているのだろう。
しかも氷室本人にはまだ知られてはならない内容だ。
思い当たるのは相談に乗ってもらっていた友人一人。
全く、余計な事をしてくれたものだ。
背中を押してくれていると分かっているので、結局何も言えないのだが。
「辰也、何か欲しい物ある?」
観念して友人に言われた通り本人に直接聞く事にした。
はぐらかそうとしても氷室がそれを許してくれるとは思えないし、友人がくれたせっかくの機会だ。
このままぐだぐだと悩んでいても仕方がないのも事実。
「欲しい物?」
「もうすぐ辰也の誕生日でしょ?何をあげたらいいのか悩んでたの」
悩みってそれだったんだね、と優しく笑う彼にどきっとした。
ありがとうなんて、まだあげてもないのに言う事じゃないと可愛いげのない返しをした私の顔はきっと赤いんだろう。
「欲しい物か…あ、一つだけある」
「何が欲しいの?」
やっと彼に贈る物が決まりそうだ。
明るい顔で氷室を見ると、そっと右手を取られた。
何をする気だろうとじっと氷室を見ていると、取られた右手の薬指に寄せられた彼の唇。
声にならない声が悲鳴となって口の中で響いた。
「ここ。なまえの右手の薬指が欲しい。いいかな?」
いいも何も、あげて困るものでもないし、その指は氷室にのみ誓う指。
答えは決まっているものの、突然やってきた恥ずかしさに負けてぱくぱくと金魚のように口を動かす事しか出来なかった。
「今はまだ左手の薬指は予約しか出来ないから、右手の薬指を貰うよ。なまえには俺の薬指をあげる」
氷室の誕生日祝いだというのに私を喜ばせてどうするのだ、この人は。
本人立っての希望だし、まぁいいかとお互いの指を絡めて手を繋いだ。
「指輪、一緒に選ぼう」
「辰也の誕生日の日にね?」
やっと決まった贈り物は、私にまで幸せをくれる。
彼の誕生日は、これから記念日になりそうだ。
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お題提供:瑠璃「the seal of love(愛の印)」
2013年の氷室の誕生日に。