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ちょうどいい身長差



現代文の授業で出された課題をこなす為に、私は今図書室に来ていた。
150cmにも満たない低身長の私には、天井に届きそうな程に高い本棚は敵だ。
ただでさえ敵なのに、私が探していた本が丁度届くか届かないかというギリギリの高さにある。

課題の内容はこうだ。
対象問わずに読んだ本の感想をレポートして提出しろ。
つまりは読書感想文である。
そんなもの夏休みだけでいいだろうに、何故一年に二度も書かねばならないのか。
本を読むのは嫌いではないが、レポートとはなんて面倒な。
面倒は少しでも減らしたいので、よく読んでいたお気に入りの本を選ぼうと思った。
親しんだ物語ならすらすらと難なく仕上げられると思ったのだ。

そうして探し当てたらこの始末。
辺りを見回しても見えるのは壊れた脚立のみ。
このタイミングで壊れていなくてもいいではないかと溜息を漏らした。
どうやら自力で取るしかないようだ。
頑張れば取れるかもしれないし、やれるだけやってみようと爪先で立って思いきり腕を伸ばした。
もう少しで届きそうなのに届かない。
せめて150cmあれば届くものをと自分の身長に悪態をついた。
くそっと内心舌打ちをしていたら、後ろから伸びてきた手に目的の本を取られて呆気に取られた。

「この本ですよね?どうぞ」

取っていった奴はどこのどいつだと振り返ると、丁寧語と一緒に取ろうと頑張っていた本を手渡してくれたのは、同じクラスの黒子だった。
あまり話した事はないが、何かと目立つ火神とよく話しているので自然と覚えた。

「ありがとう、黒子君。助かった」

「課題の本ですか?」

「そう。でも届かなくて困ってたの。この低すぎる身長嫌になっちゃう」

ぷくっと頬を膨らませて抗議した。
黒子に言ったところでどうにかなる問題でもなければ、彼には迷惑極まりないだろう。
しかし言わずにはいられない悩みというのはあるもので、つい居合わせた黒子に不満を漏らした。
この身長のおかげで本に手が届かなければ、ハードカバーだと大きくて片手では納まらないので両手で抱えなければならない。
片手で持とうと思えば持てるが、重さに耐えきれず結局両手で抱える事になるのだ。
大体の人を見上げなければ話も出来ないので、今も黒子を見上げている状態だ。
なんて不便な身長なのだろう。

「僕はいいと思いますよ、その身長」

「え?」

「悔しいですけど、僕もそこまで背が高い方ではないので、 みょうじさんとの身長差が丁度良く感じます」

今までの体験を元に目測すると、黒子の身長は170cm前後だと思われる。
私の身長は140cm後半。
数値にして約20cm程の差がある。
これを丁度良いと言うのだろうか。
差がありすぎなような気がして、改めて私と黒子の身長を見比べた。

「黒子君の思う丁度良い身長差ってどれくらい?」

何度見てもやはり見上げなければ顔が見えない黒子は、私からしてみれば充分高くてとても最良の差だとは言い難い。
まぁ、私に言わせると大体の人が巨人並みに大きいのだが。

「個人的にすっぽりと覆えるくらいの身長差が好きです」

言われて気付く。
私の頭の位置が丁度黒子の胸辺り。
確かにすっぽりと納まってしまいそうだ。
想像したところでまた一つ気付いて黒子を見た。
私は今とても恥ずかしい事を言われていないだろうか。

「ほら、僕たち丁度良い身長差でしょう?」

やはり恥ずかしい事を言われていたようだ。
途端に熱が上がった気がする。

訂正しよう。
低すぎるこの身長悪くないかもしれない。
すっぽりと納まってみるのも悪くないかもと思えるのだから。

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お題提供:10mm.「丁度良い身長差」