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はじまりは突然



私の幼馴染みである赤司征十郎はバスケ部に所属している。
ずっと一緒に育ってきた幼馴染みが入部するならと私もバスケ部に入った。
女の私は実際プレイする訳ではないが、同じ部員の一員として共に精を出している。
マネージャー業もなかなか大変なのだ。

部活が終わる時間は夜も遅いので、毎日幼馴染みに家まで送ってもらっている。
嫌味一つ言わずにしっかり家まで送り届けてくれるのだから、昔と変わらず彼は優しいままなのだろう。
皆は彼を怖いと口を揃えて言うのだが、どこが怖いのか私には分からない。
こんなに優しいのに、どこが怖いと言うのか。

「桃ちゃん、好きになったら積極的だよねぇ」

今日もいつものように送ってもらっている帰り道。
たまたま寄り道したコンビニでアイスの当たり棒を貰ったら黒子が好きになったという同じマネージャーの桃井の話をしていた。
誰が見ても分かりやすい積極的なアピールに私は呆然としてしまったのだ。
恋の力って凄い。

「恋の始まりって、突然だね」

何がきっかけであれ、友人である桃井には頑張ってほしい。
黒子が好きになったと打ち明けられた時、頑張れと心からのエールを送った。
せっかく抱いた恋心だ、実ってほしいじゃないか。
私も出来る範囲で応援する所存だ。

「何がきっかけで始まるのか、分からないからな」

何か引っかかる言い方だ。
もしや彼にも好きな人がいるのだろうかと思ったところで、そういえば幼馴染みとは恋愛に纏わる話をした事がないと気付く。
これは好機だ。
もしかしたら彼にもいるのかもしれない恋のお相手を探ろうじゃないか。

「ふうん、征十郎も経験した事あるんだ?」

「あるさ。なまえはないようだけどね」

いちいち一言多いが、予想した通り彼には好きだと言える人がいるようだ。
ただ過去にいたというだけで今でも想っているのかは分からない。
深く掘り下げてみようと好奇心が湧き上がってきた。

「その人の事、今でも好きなの?」

「あぁ。だが、想いを伝えた事はないな」

つまり幼馴染みの片想いらしい。
聞く限りではある程度長い間想っている事が伺える。
どうして告白しないのだろう。
脈がないのだろうか。
幼馴染みの私が言うのもなんだが、完璧人間と言える彼が脈がないなんて考えられない。
もしそうなのだとしたら、世の中にはいろんな人がいるものだ。

「征十郎のきっかけは何だったの?」

桃井のきっかけはアイスだった。
他にも聞きたい事は数多くあるが、山ほどある質問の中から厳選して尋ねてみようと思った。
下手に質問をすると返り討ちに合いかねない。
相手はあの赤司だ、慎重にいかねば。
まぁ、そう思った所で好奇心には勝てない訳だが。

「笑顔だ」

「笑顔?」

「初めて会った時、挨拶された時の笑顔が頭から離れなくてね」

それは、いわゆる一目惚れというやつではないだろうか。
初めて聞く事ばかりでなんだか新鮮だ。
あの幼馴染みがねぇ…としみじみと思っていると違和感を感じた。
彼にしてはやたらと素直に話してくれる。
妙だなと首を傾げていると次に言われた台詞に思考停止させられた。

「あの時のなまえは可愛かったな」

彼は今なんて言ったのだろう。
私の聞き間違いでなければ私の名前が出された気がしたんだが、気のせいだろうか。
驚きすぎて勢いよく幼馴染みに顔を向けたが、言葉がなかなか出てこない。

「…今、なんて言った?」

「あの時のなまえは可愛かった、と言った」

やっと出てきた言葉は覇気がなく気の抜けたものだったが、なんとか声になったものの返ってきたのは寸分違わず繰り返されたもので、今度こそ口をぱくぱくと動かす事しか出来なかった。
言いたい事は沢山あるのに声にならない。

「桃井に習って、俺も積極的になってみようと思ってね」

開いた口が塞がらないとはまさにこの事か。
こんな形で体験する日が来ようとは思ってもいなかった。
後から聞いた話だが、それこそ彼は分かりやすい態度だと皆が言う。
知らないのは私だけで、周りの皆は分かっていた事だというのか。
気付かなかった私が馬鹿みたいではないか。

「これから覚悟しておくんだな」

まさか幼馴染みに告白されるとは思ってもいなかった。
にやりと勝気に笑う彼から逃げられる気がしない。
これからされるであろう彼からのアピールを想像して騒ぎ出した胸を押さえた。
本当に、恋の始まりとは突然やってくるようだ。

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お題提供:雪華「はじまりは、突然」