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Che ballo!



目にした瞬間誰なのか分からなかった。
服装から要職に就いている人なのだろうと勝手に推測して、目の前からやってくるその人を横目に通り過ぎようとした時、名前を呼ばれて初めて知人であると気付いた程度には一目で誰であるのか判断が出来なかった。
聞き覚えのある声に足を止めて相手を確認しようと目を向けると、きっちりと制服を着込み普段とは違う帽子を身に付けているその人の姿に目を丸くした。

「ノエルさん!」

「ひどいなぁ、無視しようとしたでしょ?」

「だ、だって、いつもと違うものだから…」

私服で仕事をこなすノエルさんの制服姿を見たことがある訳もなく、無遠慮だと思いながらもまじまじと眺めてしまう。
緩くラフに私服を着ているノエルさんからは、想像出来ない姿だった。
服一つで女性の印象は変わるとよく耳にするが、男性にも当て嵌まるらしい。
元々の性質なのか、あるいは服がそう見せているのかは分からないが、制服を身に纏ったノエルさんは硬派な紳士にしか見えず、私服姿のあの緩さはどこへ行ってしまったのかと疑いたくなる。

「えーっと、熱烈な視線とっても嬉しいんだけど、ちょっとだけ見過ぎじゃない?」

指摘にはっとしてノエルさんを見ると、気恥ずかしいのかつばを摘み帽子を深く被り直していた。
隠れた顔からは表情を伺えないが、配慮に欠けていた事を申し訳なく思い、素直にごめんなさいと謝罪をして頭を下げた。
それでもいつもと雰囲気が違うからか、仕草の一つ一つから目が離せずに、すぐに頭を上げて顔が見えないノエルさんをじっと見つめる。
まるで引き付けられるかのように、こんなにも目が離せないでいるのは何故だろう。
自分でも理解出来ないが、縫い付けられた視線を動かす事が出来なかった。
どうしてここまで気になる。

「そんなに見られると、俺だって照れちゃうよ」

少しだけ顔を上げてこちらを見るノエルさんと目が合った。
いつもと同じ笑顔。
ただ微かに朱に染まった目元だけがいつもと違っていた。
釣られて私まで恥ずかしくなってきて、伝染した熱が体中に広がっていく。
すみませんともう一度、先程より深く頭を下げて無礼を詫びた。
視界からノエルさんが切り離され、熱を帯びた頭が少し冷えて落ち着いたところで気付く。
どうやら私は制服姿のノエルさんに見惚れていたらしいと。
そんなまさかと口元を手で覆う。
自覚してから尚熱が上がった気がして、ノエルさんの視線を頭上から感じるものの、なかなか頭を上げられずにいた。

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今回参考にさせていただいたイラストは、フォロワー様のものではないのですが、野月真名様の描かれたノエルのイラストです。
あまりにも素敵なノエルだったものですから、まだ配信されていないというのにフライングで妄想と捏造炸裂なものを短いですがつい書いてしまいました。
タイトルはイタリア語で「なんて素敵!」という意味です。
ノエルさんの配信楽しみですね!