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あなただけを見つめてる



上を向けば雲一つない青い空。
辺りを見回すと一面黄色で埋め尽くされている。
ここはどこだと疑問を感じたユアンは、答えを求めひたすら歩くものの景色が変わる事はない。
夏を感じさせる爽やかな空気に悪い気はしない。
燦々と輝く太陽に照らされて、喜びを表すように顔を上げるひまわりに囲まれてユアンはいた。
何故自分がこの場にいるのか理解出来ずに、止める事なく足を進める。
何かアクションを起こせば、答えに繋がるヒントを得られるのではないかと考えた為だ。
足早には動かない。
ゆっくりと一歩を確かめるように進む。
見逃す事があってはならないので慎重だ。
その慎重さが功を奏したのか、後方からガサッと物音が聞こえた事にユアンは気付いた。
動物が横切っただけか、それとも他に人がいるのか。
真意を確かめるべくユアンが振り返ると、ワンピースに身を包んだなまえが佇んでいた。
音の正体は彼女であったのだとか、何故ここにいるのかだとか、そういった謎は最早ユアンにはどうでもよかった。
大事なのはなまえが目の前にいるという事実、それだけだった。
会えると思っていなかっただけに、こうして対面出来た喜びは大きい。
膨れ上がった喜びに任せて両腕を広げ、ユアンは自分の元へとなまえを誘った。
幾日も会えずにいたユアンに、つい衝動にかられてしまった行動だと言われても仕方のない事だろう。
彼のうちにある想いが分からない訳ではないと同時に、気持ちの大きさの表れのようにも感じた。
腕を広げたユアンに嬉しそうに笑みを返すなまえ。
笑顔と共にユアンへと駆け寄る彼女もまた、彼を好いているのだろう。
あと少し、一歩なまえが踏み込めば目指していた腕の中。
表情の変化が分かりにくく常に無表情と言われるユアンの口元が緩んで見えた。
やっとなまえを抱き締められると、想いが叶い実現する様が見て取れる。
空へと一直線に向かって咲くひまわり畑が幸福感で満たされる。
そう思っていた。
二人の笑顔は交差していると思っていたのだ、ユアンを通り過ぎ横切っていくなまえを見るまでは。
彼女が駆けて向かった先はどこであるのか。
そうだ、ユアンは知っていた。
なまえの幸せがどこに存在し、誰と共存する事を選んだのかを。
分かってはいても胸の痛みは止まらず目を見開いた。
無理もない、自分の元へ来ると信じて疑っていなかったのだ。
光の加減で髪そっくりなプラチナに見えるヴァイオレットの瞳は、しばらく閉じる事もなく、現実を受け止めるべく開かれていた。

開眼されてからどれほどの時間が経ったのか。
気付けばひまわり畑は消えて、鮮やかな黄色が見えなくなっていた。
目の前にはアイボリー色の天井。
ゆっくりと左右を見れば見慣れたアンティーク家具。
住み慣れたユアンの自室だった。
カーテンを閉め切った部屋は薄暗く、暗さにまだ慣れない開きっぱなしだった目をそっと閉じるとちらつく黄色。
そうか、また夢かと溜息を吐いて寝返りを打った。
アレクと共になまえがリングランドを去ってから、毎日なまえの夢を見てはこうして起こされる。
なまえを包むのはユアンではない。
そう思わされながら迎える朝。
辛くないと言えば嘘になる。
けれど夢の内容がどうであれ、なまえに起こされるというのも悪くないと考える。
悪くないと思い込まなければ精神が崩壊しそうだと、ユアンは無表情に思った。
夢に習って両腕を広げ抱き締めてみる。
感じるのは冷えた己の体温と、なまえがいない実感。
彼女を笑顔にさせるのはユアンではない。
彼女に幸せを与えられるのもユアンではない。
決してユアンのものになりえないなまえ。
それでもユアンにとってはただ一人の、可愛い可愛い、愛しい人。

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ひまわりの花言葉…あなただけ見つめてる
アレクパールルートのその後の話。8月の誕生花がひまわりなので思い付いたのだけども決して幸せな話にはならずにユアンに謝る事になったわユアンごめん。