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18



助言をくれた紫原を置いて、私は先にバイト先を出た。
心が決まった今、早く氷室に返事を伝えたかったのだ。
告白されてから数日が経過している。
これ以上待たせたくなかったし、私の気持ちを聞いてほしかった。
真正面からぶつかってきてくれたからこそ、私も嘘偽りない返事をしたかった。

バイト先を出れば、いつものように部活を終えた氷室が私を待っていた。
紫原の話では、部活には顔を出したものの氷室の違和感に気付き、自主練習を切り上げて私に会いにきたらしい。
あの紫原が、随分と変わったものだ。
氷室は通常通りに自主練習に取り組んでいたようで、もうすぐ来るでしょとポテトを頬張りながら言っていた紫原に感謝した。
今度礼としてお菓子を献上しにいこうと決めた。

「お疲れ様、なまえ」

「辰也先輩も、お疲れ様です」

昨日の事など何もなかったようにいつも通りを装う。
様子がおかしいと言っていたが、見た限り氷室もいつも通り。
私の答えを聞いてもいつも通りでいてくれるだろうか。
ぎゅっと拳を握った。
これから先どうなろうと言わなければならない。
お互いが前に進む為にも。

「辰也先輩、寄り道していきませんか?」

以前寄り道した公園を指差した。
私から誘うのは初めてだな、なんて思いながら真っ直ぐに氷室を見る。
吹き抜けていった風が背中を押してくれているように感じた。

「話が、あるんです」

「…いいよ、行こうか」

少しの間を空けてから貰った承諾の返事は、優しい笑顔と共に放たれた。
優しさの中に見えた切なさは見間違いではないだろう。
分かっているのかもしれない、私の答えを。

前と同じベンチに、前と同じように並んで座る。
秋田を離れても忘れられない場所になりそうだ。
ここは、私が初めて人から想いを告げられた場所。

「それで、話って何かな」

そして、これから想いを告げる場所。
膝の上で力強く手を握った。
顔を上げて氷室を見る。
沢山悩んで出した答えだ、もう迷わない。

「告白嬉しかったです。ありがとう」

まずは礼を言った。
ずっと想ってきた私が人から想われたのは初めてだ、好きだと言われて嬉しくない訳がない。
喜びを笑顔で表す私に、氷室も笑顔を返してくれた。

「俺の気持ちを伝えただけだよ」

「それでも嬉しかったんです」

「なまえに喜んでもらえたなら、よかった」

本当に嬉しそうに氷室が笑う。
やはり彼の笑顔は綺麗で、好きだと思った。
初めて会った時から惹かれた笑顔だ。

「喜んでもらえたついでに聞かせてくれないか、なまえの気持ち」

笑顔から一変して、熱を孕んだ目が私を貫く。
私はこの熱を知っている。
昨日実際に肌で感じた。
そして多分私も持っているんだ、氷室にも劣らない程の熱を。

「ごめんなさい、辰也先輩の気持ちには応えられません」

「理由を聞いてもいい?」

未だに冷めやらない熱が私を捕らえる。
簡単に引いてはくれない氷室から、視線を逸らす事はしなかった。
氷室がそうであるように、私にも引けない想いがある。
ずっと秘めていた想いは、並大抵のものではない。
気付かせてくれたのが紫原だというのが釈然としないが。

「私には好きな人がいます。ずっと前から」

お互い目を離せずにしばらく無言で見つめ合った。
私の心を今でも話さず支配するのは、他の誰でもない、生まれた時から共に過ごしてきた、今は遠く離れた幼馴染みだけ。