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15



いつものようにバイト帰りに氷室と並んで歩く帰り道。
今日はいつもと違って寄り道をしていた。
夜遅いので辺りは静かで、誰もいない公園のベンチに、歩いてきた時と同じように二人で並んで座っている。

「今日これから時間ある?なまえに話があるんだ」

バイトが終わって氷室と合流すると、お疲れ様の次に言われたのが寄り道のお誘いだった。
私に話とはなんだろうと首を傾げたが、珍しい彼からの誘いを受けてこうして公園に来ている。
何かあったのだろうか。
氷室は高校三年生、受験生だ。
進路で悩んでいて、その相談だろうか。
しかし後輩の私に進学の悩みを持ち込むとは思えず、だからといって他に彼が抱えている悩みが思い付かない。

「あのね、なまえ」

うーんと唸っていると、名前を呼ばれて隣を見た。
私を呼ぶ声がなんだか硬い気がしながら顔を向けた先には、真剣な表情の氷室がいる。
彼のこんなに真剣な顔は初めて見る。
知らず息を詰めた。

「俺、なまえが好きだよ」

呼吸が止まるかと思った。
話とはこの事か?
だとしたら私の予想は全くの見当違いだった訳だ。
彼は一体いつから私を女性として見ていたのだろう。
友達ではなかったのか?
そもそも私のどこがよかったのか、私のどこに惹かれたのか、分からない。
いや、待て。
氷室の事だ、天然な彼からの行為を恋情と決め付けるのはまだ早い。
友愛として言っているのなら私だって氷室が好きだ。

「今更改まって何です?私も辰也先輩好きですよ」

好意は嬉しいが、困る。
茶化せば乗ってくれるかと期待も込めてはぐらかした。
けれど真剣みを帯びた氷室の目は変化なく私を見る。
目から熱が伝わってきそうだった。
そんなまさか、氷室が私を好きだなんて。

「友達としてなまえを好きだと言ってるんじゃないよ」

そうだと言ってほしかった。
氷室の言葉を肯定するように、二人きりの公園に風が吹く。
まるで氷室に宿った熱を煽るかのようだ。
次第にどくんどくんと心臓が喚き立てる。
これ以上は聞きたくない。
逃げ出してしまいたい。
なのに氷室の熱い眼差しが許してくれない。

「I love you more than anything in the world.」

未だに止まない風が私の心をも掻き乱す。
氷室の気持ちは嬉しい。
そう言ってもらえるとは思わなかった。
嬉しいけれど、でも、その言葉を与えてほしかったのは貴方ではない。
氷室では、ない。

見開いた目の閉じ方が分からなくなって、しばらく無言で見つめ合った。
指の一本さえ動かせなくて、身動きが取れなかった。
そんな中で唯一動いたのは、知らずに流れた一筋の涙だけだった。