novels | ナノ

10



新学期が始まったと思ったらもう冬休み。
時間が経つのが早い。
体を動かしていると本当に早く感じる。
せっかくの長期の休みだ、夏休み同様毎日のようにバイトに励んだ。

クリスマスも過ぎた年末。
もういくつ寝るとお正月だという折に、家族から連絡が入った。

『帰ってくるのよね?いつ帰ってくるの?少しはゆっくり出来るんでしょう?』

久しぶりに聞く母の声に少し元気になれた。
なれたけれど、バイトがある為帰れそうになかった。
学生だという事を考慮して融通をきかせてくれている。
実家に帰るので1週間休みます、なんて我が侭言えるはずもなかった。

「お母さん、ごめんなさい。帰れそうにないの」

受験真っ最中に母と交わした会話を覚えている。
年末には帰るから賑やかになると言ったら、騒がしいの間違いだと一蹴された。
口約束とはいえ約束だ。
それを破る事になる。
心苦しくて申し訳なさでいっぱいだ。

しかし母の声は明るかった。
そんな事だろうと思っていたらしい。
私がバイトを始めた報告をした時から薄々分かっていた事だと言う。
帰れないなら帰れないでもっと早くに連絡しなさいと怒られる始末だ。
すっかり忘れていた私に非がある。
ごめんなさいともう一度謝った。

『バイト頑張りなさい。帰ってきた時にでも奢ってもらうわ』

軽く茶化してくれる所が母らしく、またその心遣いに心が温かくなった。
帰りたくない理由もある。
お察しだろうが、幼馴染みに会いたくないのである。
今のままでは会えないと思った。
次に赤司と会えるのは、きっぱりと想いを断ち切った時。
その時は大手を振って帰るのだ。

待ってろ、東京。
そう家族の住む家を思って気を引き締めた。
時間はたっぷりある。
まだまだこれからだ。