novels | ナノ

05



私の出勤は火、木、土、日の週に4日。
もっと働きたいのは山々なのだが、学業と両立する為には無理は出来なかった。

「やぁ、バイトお疲れ様」

学校からバイトへ向かった木曜日の夜。
仕事も終わって外に出ると学生証を届けてくれた彼がいた。
今日は何故ここにいるのだろう。
私はまた彼に何か世話をかけてしまったのだろうか。

「あの、どうしてここに?」

「君を待ってたんだ」

「私を?」

何故。
彼と話していると疑問しか出てこない。
掴めない、というんだろうか。
なんともミステリアスな人だ。

「確か終わるのこれくらいの時間だったなと思ってね。これから暗くなるのが早くなる。一人じゃ危ない」

それはつまり、夜道を一人で歩くのは危ないから送ってくれると言っているのだろうか。
優しい。けれど、たいして親しい訳でもないのにほいほいとついていく奴がいると思っているのか。
…いや、いそうだ。
なんといってもこの容姿だ、彼に近付きたい女性は多いだろう。

「いえ、でも悪いですし」

美形なのは認める。
私も何度か見惚れた。
美しいものに反応してしまうのは致し方ない。
だからといって、容易く誘いに乗るかと言われたら否。

「俺が送りたいと思ったんだ。送らせてくれないかな」

なんとも断り辛い。
彼はとても紳士的であるようだ。
しかし二度顔を合わせただけの私に何故そこまで親切なのか。
私は印象に残るような容姿をしている訳ではないし、記憶に残るような会話をした覚えもない。
普通のありきたりなものだったはずだ。

「どうして私にそこまで?」

「そうだね、なんでだろうな。ただ気になったんだ、君が」

それだけ?
気にかけてもらう事になったきっかけが気になる所だが、ここまで言ってもらえているのだし、申し出を受ける事にした。
深入りしない方がいいのかもしれないが、これも出会いの一つで何かの縁だ。
これからどう転ぶのか分からないが、今は彼の言葉に甘えようと思った。

「それじゃあ、よろしくお願いします」

満足気ににっこりと彼が笑った。
彼の笑顔は、やはり綺麗だった。