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 01.影が紅く見えるから



ねえ旦那、まだ覚えてる?
あぁ、あの時旦那はまだ小さかったし、もう忘れちゃったかもしれないね。

俺様が初めて旦那に会った時の事なんだけど。


俺様ってさ〜自分で言うのもなんだけど、優秀じゃない?
物心ついた頃にはもう鍛練の日々でさ、言葉覚えるより先に殺しのいろはを学んできたからさ。

おっと待った、そんな顔しないでよ。
う〜ん…じゃあ、任務遂行の為の手段って言っておこうか。
俺様の周りの人間はみんな、その手段を磨いて生きてきたんだ。

生きて…
そして死んでいってる。
それが当たり前だった。まぁ旦那たちも似たようなもんかもしれないけどさ?

俺様もそうやって生きて、いつか戦場で朽ちるんだろうって、ぼんやりと思ってた。
だからって自分の生き方を悲観してたわけじゃない。
それが当たり前だったからね。
仲間を失って悲しいと嘆く事ができる心自体が無かったのさ。


まっ、そんな幼少期を経て、無事に里から任務を任されるまでになったわけだけど…

このご時世だ、どれだけ悪党の元に仕える事になろうとも、給料分はしっかり働かないとあっという間にお陀仏だ。
敵・味方に関係なく、感情移入しちまったらその時点で忍ではなくなる、そう教え込まれてきた。
はずだったんだけど。


俺様に初めて会った時、旦那…俺様に何て言ったか覚えてる??

あ、その顔は全然覚えてないね、思った通りだ…
なに?なんか言いたそうな顔して。
えっ、あっ、そう…
はぁああ〜〜〜旦那はやっぱり団子と独眼竜の事しか考えてないんだねぇ…まったく呆れるよ…旦那らしいけどさっ!



あの時旦那、俺様に
「任務に就く前に、空の飛び方を教えてくれ」
って言ったんだよ。

命の削り合いの為に、死ぬ思いで技を磨いて里から出てきたばかりの若い俺様。
いざ戦場で働こうって時に相対した自分の雇い主が、まだ元服もしてないお子様で…
しかも第一声が「空の飛び方」と来たもんだ。
いくら何でも先が不安になったよね…

あぁっ、なに急に謝ってんの!
別に謝って欲しいわけじゃないんだって!
いや、たしかに複雑な心持だったけどね?
むしろ怒りが沸くほどだった〜〜なんてのは、今だから言える話なんだけど。

ちょっ、旦那おちついて!
いいから座って座って〜。
旦那の話は後から聞くから、まずは俺様の話を聞いてくれるかな、ねっ?ねっ?




えーっと、なんだっけ?


あ、そうそう。
つまりだ、俺様にとっては衝撃的な出会いだったんだよね!
今までの苦しい思いや葛藤や、不安や疑念、己の限界とかまぁその外モロモロ色んなモノと戦ってきたわけだ。
でも実際に仕えるのは小さなお子様で…
ってのはさっき言った通り。


え?

後悔してるのかって?

そこなんだよ、旦那。
あんまりこういう事話すのは得意じゃないんだけど…


俺様…いますっごい幸せなんだよね。


いいかい、旦那。
この手は命を掴む手だ。
この目は命を見定める目だ。
本来この掌にあるべきは絶望で、それを影で操るのが俺様。

旦那の影でね。


そりゃあ辛いお仕事だよ〜?旦那も大将も、忍び使いが荒いから…
えっ、いや何でもないです。

ははっ
今の無し!!!!






・・・そう。
こういうことなんだよ。
俺様が今笑ってるって事がね、忍びとしては大問題なんだよ。

何でだか分からない?

旦那〜俺様の話ちゃんと聞いてた?
いやいや、空飛ぶ話じゃなくてさ…ったく。


とにかく俺様は本来こうして、旦那と幸せに暮らしてましたとさ、な〜んて存在になっちゃいけないの。
忍としての概念から外れてるし、なにより感情移入はご法度だ。

…ちょっと何変な顔してんの、誤解しないでよ?
俺様別に野郎には興味ないからね??
いや、なんでと言われてもそれが普通でしょ!?
えっ、ちょっと待ってよ、旦那もしかしてソッチ!?

あ、あぁ〜うんうん、なるほどね、そんな感じするわ〜…まぁちょっと安心したよ。

って!あーもう!話の腰折らないでよねっ。




どこまで話したっけ??
あ、そうそう感情移入はご法度ってやつだ。
そうなんだよ。

でもさ〜
実際俺様、旦那に仕えてきた今日までの日々が、楽しかったなぁって思うわけ。

里で別れた仲間と、敵地でまみえて殺し合った事もあった。
名前も知らない敵兵の命を狩り取り続けてもう何年かな。
俺様の目に、この掌は真っ黒に見える。
狂気に溢れてるように見える。

戦火の中に居ると、自分って存在を客観視してる感覚になることがあるんだ。
どんどん暗いところに沈んでいく俺様を、遠くから見てる感覚。
気持ちが冷たくなってきて、真っ黒な自分に酔いしれる。
あぁもう戻れないんだ・・・って思ったところに、
必ず旦那の声が聞こえるんだよ。


俺様を呼ぶ、旦那の声。


途端に、真っ黒だった自分が鮮やかな紅に染められたように感じて…
我に返って、旦那の顔が見える…

その時の俺様の気持ちが分かるかい?旦那。





うん、分からなさそうだね、いいよ分かってた。
まったく…思わず涙が出そうになるよ。




感謝…してるのさ。


命の奪い合いっていう、ドロドロと渦巻く闇の中でしか生きられないと諦めてた人生に、守って生きるっていう希望をくれた。

これって結構凄い事なんだ。
他の忍には絶対に得られないものだね。
まぁ…論外な程に主人に心から心酔してる忍も約1名ほどいるけど。
あれはあれ。
あぁはなりたくないからね、俺様。

俺様は恵まれた日々を過ごしてるよ、旦那の元で空の飛び方研究してるこの毎日がさっ

・・・なにむくれちゃって

別にからかってなんかいないよ、子どもの時の話でしょ。
今はもう自分で飛びあがれるじゃないの〜
旦那も大きくなったもんだ。


な〜んか、何が言いたかったのか分かんなくなっちゃったな。
旦那がいちいち口挟むせいだよ?ったく…


ねぇ旦那…
俺達は明日の命、いや、数時間後の命すら保障されていない身だ。
だけど俺様は旦那の影。
なにがあってもそれは変わらない。
それが俺様の誇りだからね、譲ってやるつもりも無い。

だからこれだけは覚えていて。


一緒に飛ぶのはこれが最後だ。
お館様と旦那の天下まではこのまま共に飛び続けてみよう、
だけどその先は、俺様を切り捨てるつもりで駆け上がっていってくれ。


え?

いやいやそこは俺様の気持ちを汲みとってよね!

真意って言われても・・・
あの時の旦那の願いを、あの時からずっと叶え続けてるつもりで生きてきたんだ。
飛ばせてやりたいと、俺様だって願ってた。
叶え終わったらただの影に戻らせてもらおうかなって。


上に立つ者が、いつまでも保護者付きってのも示しがつかないでしょ〜
闇にまみれた保護者なんて、ろくな事ないぜ?



まぁつまり旦那が・・・

旦那が大事で仕方ないってことだよ。





END

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