Short-SxD- | ナノ

 06.Paint the Future



いつだったか、遠い遠い記憶の中で、あの人が言った言葉を思い出した。


「アンタはいつになったら素顔になるんだ?」


他人の事なんてまるっきり興味もなさそうなアンタが、初めて俺様を知ろうとした日。
その時オレは、確かこう答えたんだ。


「俺様の素顔は戦の数だけ存在するんだよ」

我ながらひねくれた思考回路だ、そう思う。
だけどそれはきっと本心だったんじゃないかな、と思う。

「きっと」ってのは、確信がないから。
あの頃の自分は確かにオレだけど、今のオレはあの頃の自分じゃないからね。
穴のあいた記憶の端に紛れ込んでる、君への想いをほんの少しずつかき集めてるだけ。
それからオレは、俺様と一緒にあの頃の自分を探し続けてる。
曖昧で、ひどく愛しい記憶を辿りながら。


「俺が言ってるのはそういう事じゃねえよ。もっとsimpleに答えろよ」

「あ〜、この戦化粧のこと?」

「普通それしかねえだろ」

「これはね〜、水でも血でも落ちないように調合してあんの。調合法は、企業秘密でーす」

「だから、それを取ってまっさらの素顔になる事はねえのかって聞いてんだ」


…このあと、どうなったんだっけ。

肝心の話しの終着点まで記憶が繋がらないなんてことは、ザラにある。
気になって仕方がなくて、うっかり伊達ちゃんにこの話しそうになるんだ。

伊達ちゃんは、何にも覚えてないのかな?

覚えてたら…
ちょっと照れくさいけど、すごく嬉しい。


嬉しい…のかな?
どうなんですか、俺様。
君たちはあの時代、どんなお付き合いしてたんですか。
今のオレ達とどっちがラブラブですか。

思い出したい事が山ほどある。
旦那、幸村がオレの主人だったのにはびっくりしたし、なんでそうなったのかってのも、実際かなり気になるよ。
さっきの戦化粧の話もさ、初めて政宗が俺様に興味持ってくれたんでしょ?
オレが伊達ちゃんにそんな風に聞かれたら、そんないじわるな答え方しないと思うよ。
あの頃の俺様は、一体なにを抱えてああやって答えたのか、教えてくれないかな。


…オレの顔がまっさらになる時…か。

前世の因果ってのは、きっとオレが思ってる以上に強いものなんだろうな。
オレの顔には、生まれつきの痣がある。
記憶の中の俺様が、顔に塗ってたそれと同じ色の三つの痣。
『俺様』が戦化粧に素顔を隠す事の意味…その深さを感じてしまった。

病弱だったオレの母親は、自分の体のせいだと、コレをすごく嫌がった。
「きれいな顔に産んであげられなくてごめんね」
そう言って泣かれた事もあったけど、その時自分の口から無意識に出た言葉。
『俺様』を見つけるきっかけになった、あの言葉。

「これがないと、あの人に見つけてもらえない。ありがとね、おかーさん。」


母親が病死して、急にマンションに一人になった。
たった一人しか居ない家族を失って、中学卒業と同時に一人暮らし。
悲しいとか、淋しいとか、当然そんな感情にも飲まれてたけど、どっかで冷めてる自分にも気付いてた。

“人の命なんてのは、儚くて脆い細い糸みたいなもんなんだ”

母親の命を軽んじる訳ではない。
ただ、見知らぬ者たちと命のやりとりをした事がある自分が、確かに自分の中に居た。
命の重さも軽さも、痛いほどに知っている自分が。


俺様っていう自分は、確かにオレで、かつてオレだったもの。
この穴だらけの記憶の中に、確かに存在している過去。
俺様が戦化粧に込めたものは、命に向き合う覚悟だったんじゃないのか?
命の輪廻を実感している今だからこそ、そう思う。
俺様と同じ顔に刻まれた、『オレの』戦化粧。

アンタと政宗の間には、とても大きな意味があったんじゃないのか?
だからこうして今でもオレは、覚悟を纏って生きる運命を与えられているんじゃないのか?

その答えは、ちゃんと俺の中にもあるのか?







「アンタの素顔は、きっと汚れて真っ黒なんだろうな」

「ちょっと、何なのそれ、失礼だな」

「泥で隠した美人顔…ってな。最初から綺麗なもんより、よっぽど暴きたくなるってもんだ」

「取れるものならお好きにどーぞ。引っ掻いても取れないよ」

「いやぁ、遠慮しとくぜ。どうせその落書きを洗い流しても、アンタの素顔は仮面の下に隠れてんだろ?」



だったら俺は、アンタを中から喰らい尽してやるさ、佐助。
輪廻の果てまで覚悟しな。




END


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