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 04.ほんのちょっと、暗いところで



伊達ちゃんが一人暮らしすることになったんだって。
なんの前触れもなく、昼休みにケロっと言われた。
急に決まったから転校でもするのかって皆で焦ってたけど、どうやらそうじゃないらしい。
おうちの事情って言ってたから、後で話してくれる…のかな?

まっ、俺様にとっては?伊達ちゃんといつでも気軽にいちゃいちゃできるようになって、とても嬉しい!
その気持ち1つですけどね?
俺様も高校入学と同時に一人暮らしになったけど、今は幸村と同居みたいになってるから、伊達ちゃんとお付き合いしてるのを隠してる俺様は、とても自分の部屋に伊達ちゃんを呼ぶなんてこと出来なかった訳で・・

付き合ってもう7ヵ月も経つのに、まだちゅーしか出来てないとかさ!
奇跡の我慢力。まさに俺様だったから為せた技。
そこにこの一人暮らし情報!

これはきっと、我慢し続けてた俺様に、神様がくれたご褒美!



って思ってたのが、ちょうど一週間前。
今日も伊達ちゃんとぶらぶら寄り道しながらの、下校道。
引越しは今週末に決まったみたい。
個人的にはわくわくしてるけど、伊達ちゃんはどんどん淋しそうな顔になってる。
引越しの理由は聞いたけど、むしろあの家から出られるならプラスになるんじゃないかと思った。
なんでそんなに悲しそうな顔してるの?
つっついたらすぐにでも泣きだしそうな表情、する時あるよね。

そういう時は、黙ってぎゅってしてあげるのがデキる彼氏ってもんなんだと思うんだけど…
まだ日が落ちてないからここじゃ目立っちゃうな…
付き合ってるの隠したがってるのは伊達ちゃんだから、そこで嫌な思いはさせたくない。


けど。

けどけど。

そんな顔で笑われたって、俺様ちっとも嬉しくないよ。
それを伝えたくて立ち止まる。
一歩先を歩いてた伊達ちゃんも、止まってこっちを振り返る。
数秒間の、沈黙。視線だけのやりとり。
何にも言わなくたって、心配してるよ、って伝わってるはず。
伊達ちゃんはそういうの、すごく読んでくれるから。


「道が、さ」

ん?

「知らねえ道ばっかりだったんだよ、新しい家の周り」

うん、きっと、そうだね。

「…ほんとに、俺、一人になるんだなって思った」

うん、そっか、そういうことだったんだ

「俺…ほんとにもうすぐあの家、出るんだな…」


もういいよ、分かったよ。
ずっと出たがってたよね、実家。
自由にできる俺様がうらやましいって、いっつも言ってたよね。
でもほんとは、ほんとはずっと、ここに居て欲しい…って、言って欲しかったんだよね。
引き留めて欲しいなんて、到底言えなかった君の気持ち。

言わなくても俺様には、ちゃんと分かってるよ、大丈夫。


「佐助、おれ…」

「伊達ちゃん、今日さ、うち泊りにおいでよ」


幸村には、今日だけ実家に帰ってもらおう。
言い訳なんていくらでもできるから、大丈夫。
今日は伊達ちゃんと居ないとだめだ、そう思う。


「知らない道、こっちにも沢山あるよ」

「…お前んち、言ったことねえしな…」

「今日は俺様、伊達ちゃんと一緒にいたい」

「……さすけ…」

「今ならおいしーご飯と、あったかいお風呂と、」

「…と、なに?」

「来週から伊達ちゃんと一緒に暮らしたいな、っていう、俺様のプロポーズがついてきます」

「…っ」


伊達ちゃん。
俺様、伊達ちゃんがここに居たいって思うなら、なんでもしてあげられるよ。


「おまえってさ、」

うん、馬鹿だよね。

「ばかだよな」

おっと、ほんとに言われるとは思わなかった。

「…プロポーズはまだ要らないけど、うまい飯と、あったけー風呂と、」

…うん、あと?

「俺、そろそろお前が欲しい」

だからその道、ちょっと俺に教えてみろよ。
なあ佐助?





もう日落ちたかな、暗いかな、手繋いでもいいかな、ちょっとだけぎゅってしてもいいかな

「伊達ちゃんっ、俺と結婚してっ!」

「ははっ、できねえよ、ばか」


今度はちゃんと、笑ってくれた。
今日の夕食は気合い入れよう。
お風呂あがりに食べるアイス、途中にコンビニあるから買って帰ろうか。
明日の学校とか、どうでもいいやって思ってるの、俺様だけ?
まあいいや、たぶん、自然とお休みすることになると思いますよ、特に伊達ちゃん。


それから…幸村には悪いけど、週末の引越しまでは、実家でいいもの食べさせてもらってください、お願いします。





END


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