▼ 11.D・I・D
そんなつもりじゃなかった、と言えば言い訳になるのだろうか。
通じ合った特別な感情があるわけでもなければ、長い付き合いなわけでもない。
ついこの間知り合って、飲み会に一緒に行っただけ。
名前と年以外はほとんど何も知らない、ただの同級生。
…それだけの関係だったはずなのに、酔っ払いが事件を起こして、後戻りできなくなってしまった。
「ね…ちゅーは…?」
俺の下で、目を伏せて今にも意識を飛ばしそうなくせに、弱々しくも誘ってくるこの男。
「しねぇよ、さっさと寝ちまえ」
必死に理性を繋ぎ止めていなければ、あっという間に攫われてしまいそうになる。
「じゃ、手だけ〜…ね、」
酒でアツく火照ったままの掌が、俺の左手を取って、自らの頬にふわりと添えた。
「ったく…飲みすぎだ。まだ顔もこんなにあっついじゃねえか」
ああ、この一言がいけなかった。
熱を意識した途端に、無視できなくなってしまった。
もしかしたら佐助も、そうだったのかもしれない。
添えた左手、ちょうど唇に触れていた親指をぺろ…と舐めたかと思うと、指の股を通って人差し指を飲み込んでいく。
「ん…ふ、んぅ…」
「…っおい、冗談はそこまでにしとけよ、バカ猿…手、離せ」
瞑っていた瞳を開いてちらりとこっちを見たかと思うと、見せつけるように更に深く舐めはじめる。
酔った頭で何考えてんのか分かりゃしねぇ。
ベッドに運んだ時のはずみとは言え、男に上からのしかかられているこの状況。
理解できてんのかどうなのか…。
そう考えられているうちは、まだ耐えられると思っていた。
好きにさせて、寝かせてしまえば離れられると、そう思っていた。
「伊達ちゃ…俺には勃たない…?」
この馬鹿野郎の爆弾発言を、聞くまでは。
「うるせぇな、ガチガチだよ…っちきしょう。今更怖気づいたって、もうやめてやんねぇからな」
どう考えても止まれなかった。
俺の手を掴んでいた両手を引き剥がし、逆にそのままひとまとめにして捕まえて、頭上でベッドに押さえ込む。
急な反撃に驚いたのか、戸惑うようにピクリと震えて身じろぎした。
その反応を可愛いと思ってしまった自分も、大概どうかしているのだろう。
喉仏に唇を触れさせ、侵食するように首筋を舐めあげれば、簡単に息を漏らす。
艶のある吐息は女のそれよりも煽情的で、まともに顔を見られなくなった。
きっととんでもない色香を放った表情でもしているのだろう。
そんなものを見てしまったら、いよいよ手加減できなくなるという確信があった。
「っは…伊達、ちゃ手、んっ…やだ…っ」
頭上でまとめられた両腕をどうにか解放させようともがいているが、酔ってへなへなになった野郎の抵抗なんてものは何の意味もない。
服をたくし上げられてあらわになった胸元に吸い付けば、ドクンと鼓動が跳ねるのが唇から伝わってきた。
「嫌だって割には感じてるじゃねえか」
「だって…そんなとこ吸われたら誰だって…ひっ」
「ここかじられんのがそんなにイイのか…?こんな固くして、お前ほんと女みたいだな」
酔って紅潮していた頬が羞恥でさらに真っ赤になっていく様子を楽しみながら、今度はベルトに手を掛ける。
腰元にのしかかっている時から、コイツのココがせまっ苦しそうに疼いているのは感じていた。
だからってすぐ触ってやったりなんかしねぇよ?
そこを相手してやるかどうかは、俺の気分次第だからなぁ?
脱がすために腕を離してやったが、自由になっても強張ったままの両腕は動かしにくいようだった。
スルリと下着まであっという間に取り払われた佐助が、上半身を起こそうとベッドに肘をついて、片腕をこちらに伸ばしてきた。
「…ん?」
「俺だけじゃただ恥ずかしいだけじゃん…伊達ちゃんの体にも、触らせてよ」
言うなり服の裾から手を差し込んで、胸元を撫でながら脱がし始める。
「えっろい顔して脱がしにかかんなよ、そんな期待されてもイイことしかしてやれねぇぜ?」
「すごい殺し文句…。ね、口でしても、いい?」
「Ha!人の股間撫でまわしながら言う事か?いいぜ、好きにしな」
こんな余裕を見せつけていても、実際はというと結構張りつめたものがあったのが現実だ。
擦られれば簡単に濡れるし、口いっぱいに収められれば気持ちよさで背中が震える。
密着するような濃厚な愛撫を受けて、不覚にもまた、煽られてしまった。
「も、やめろ、出ちまう」
ジリジリと高まる熱量に、額が自然と汗ばんでいく。
見下ろす先のオレンジ色の毛並を撫でて、そのまま引き離そうとすると、唇を先端にくっつけたままで熱い息が吹きかけられた。
「ん、いいよ、飲んじゃうから」
舌でぐりぐりと鈴口を押し広げられ、指で作った輪に扱き上げられる。
とろとろと零れる透明な液と唾液が混ざり、耳を犯す水音が響く。
体の中を熱がぐるぐると徘徊し、出口を求めてその進みの勢いが増した。
「…っは、あ、ばか、やめろって…く……っ!」
腰がぶるっと振動し、佐助の口内にそのまま熱をぶちまけた。
「む、んぅ…んっん、…はぁっ…ちょ、濃すぎでしょ…」
「…んなもん飲んでんじゃねぇよ…」
「でも、ヨかったでしょ?」
「てめぇ…その余裕、全部食ってやるから覚悟しろよ…」
口を拭って座りなおした佐助の肩を、体重任せに押し倒す。
ほんの少し驚き声を上げてはいたが、顔を見れば気持ちの準備は万端と言わんばかりの色気顔。
鼓動がさっきよりも早い気がする。
「お前…しゃべらなきゃほんとにただの美人だな…」
顔にかかった前髪を払いのけて、額に軽く口づけを落とす。
予想していなかった優しい扱いに、佐助がきゅっと目を閉じた。
「お前、こっちの経験は?」
「ん、割と慣れてる、かな…たぶんすぐ開くと思う…」
「ったく…どんだけの男をそうやって食ってきたんだか」
半分呆れ声で返したものの、今の佐助を目の前にして我慢しろという方が無理だ。
だが、知りもしない他の奴らと同じ扱いをされて黙っていられるほど、大人しい性格でもない。
膝をぐっと強引に押し開き、佐助に舐められふやけきった指先で蕾の周りを刺激しながら、聞き返す。
「俺は一体何人目だ?それとも覚えちゃいないくらい、手の上で転がしてんのか?」
「そんな多くな…い、あ…っ」
「その声で何人翻弄してきたんだよ、ん?誘い上手は苦労しねぇだろなぁ?」
つぷ…と指を差し込むと、佐助の言った通り若干の慣れがある解れ具合で、それが一層気に食わなかった。
何に対する苛立ちなのか、認めたくは無かったけれど。
「んぁ、あ…俺さま、から…んっ、誘ったのは、ぁ…伊達ちゃ、だけ…だよ…っ」
「言ってろ。どうせすぐ分けわかんなくなるんだからよ」
「やっ、ぁ…っ、ホント、だよ…?んっぁあっ…、」
信じるかどうかなんて考えようともしなかった。
びくびくと腰を揺らして、指の動きひとつひとつに過剰に反応を示す佐助を、早く抱いてしまいたい。
それであいつの全部を俺で上塗りしてしまえば、誰と寝てようが知ったこっちゃねえ、そう思った。
「ね、もう…だめ、だ…」
「まだ指3本にしたばっかだぞ?」
「焦れて…んっ、つら…挿れ、て…っ」
顔を隠していた腕が脱力してベッドに落ちて、そこに見えた汗が滲む表情にはうっすらと涙も浮かんでいた。
「ばっかやろ…なんて顔してんだ…」
ズッ…と指を引き抜いて、自身のモノを数回扱いてあてがった。
ぐにぐに、と入り口をつつくと、反発しながらも先端を少し咥えこむ。
「もう、俺も我慢できねえからな、泣いてもやめねえぞ」
「伊達ちゃんになら…、なにされてもヨくなれるから、へーきだよ…
「そういう事は素面の時に言え」
「はっ、ぅあっ…あぁあっ」
言いざまガツンと打ち込んで、佐助の体を引き寄せた。
ゆっくりとギリギリまで引き抜くと、背中に回された佐助の腕に力が籠もる。
そしてもう一度、最奥めがけて激しく打ち込む。
息をするだけで精いっぱいなのか、涙が佐助の頬を伝い、口ははくはくと動くだけで、荒い息しか吐き出さない。
「もっとイイとこ、自分で動いて突いてみせろよ」
ぐいっと抱き起して膝の上に跨らせ、佐助の耳元でぼそりと囁く。
体重がかかって嫌でも深くまで繋がってしまうその体勢が、佐助をまた羞恥の渦に引きずり込む。
それでも自ら腰を捻らせ、言われた通りに政宗を咥えて離さなかった。
「はっ…あ・・・ぁあっ、だ、てちゃ…やば…」
「ん、だよ、人の名前呼ぶときだけ締めてんじゃねえ…っ」
「だって…おれさ、ま…んぅっ、う、ぁ…」
「ほら、ハッキ言わねえと分かんねえよ」
「だてちゃ、ん…が、もっと欲し…ぅ、ふ…ぁっ」
「……だったらよそ見なんかしてねぇで、最初から俺の名前だけ呼んでおきゃよかったんだ、このバカ」
バカなのはお互い様、それは百も承知だけど。
好きでもあるし嫌いでもある。だけどとにかく、俺はこの表情を独り占めしたかった、それだけなのかもしれないけれど。
「おまえ、おれのこと好きなだけだろ」
「くっ…ぅあ…あ、い、今…それ言わせる、の…?」
当たり前じゃねえか。
今を逃したら、アンタはあっという間に飛んでいなくなっちまうだろ。
「意地っ張りには大サービスだろ、白状するならイかせてやるよ」
「ぇあ、ぁ…あっ、す、すき、よりもすき…だよっ、だてちゃ…ぁっ、あ」
好きよりも好き…って…
ああ、だめだ、俺、こいつが可愛くて仕方ねえ。
「おぉ、奇遇だな、俺もだ佐助」
「だ、てちゃ………ぁっは、ぁ……ッ」
「だ、から…てめぇの体は何でそう素直なんだ……っ」
キーン…と耳鳴りがするほど強烈な締め付けに、否応なしに高められる。
一番奥までぶちまけてやろうって、無意識でアイツの中をガンガン突いて、気が付いたらアイツも垂れ流しでぐったりしてた。
やりすぎた感は…まぁあるっちゃあるが。
今まで他の野郎を俺の代わりにしてた事への仕置きってやつだ、そのぐらいいいだろ。
佐助が起きたら、もう一回言わせよう。
今までで一番強烈で、あほみたいな告白の言葉。
「……ま、先に溺れてたのは俺だけどなぁ…」
好きな奴には大酒飲ませるのが一番ってことだ。
最終的には、勝ったもん勝ち、だろ?
END
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