▼ 10.あの日の君が、どこに居ても。
チリチリと燻る熱に浮かされ、つい嬌声を漏らしてしまう。
あの時と全く同じ手管に溺れ、みるみるうちにふやけて溶ける。
ああ、本当に何もかも変わらない。
この手のひらに広がる感情も、この胸の内に潜ませている思い出も、本当に、何もかも。
「ふ、んう…んっ」
「ちょ、ちょっと伊達ちゃん、それは…っ、うっあ…昼間からこんな、積極的なの…珍しいね…?」
「ん、…るせ、も…はぁっ…黙れよ…っ」
手を引かれるまま、なされるがまま、バスルームに着くなり服を剥かれてバスタブに放り込まれた。
誘ったのは俺だけど、主導権はいつもあいつ。
昨日あんだけ人につっこんでおいて、まだ足りねえのか。
昨夜は酒の効果で感じが良かったせいもあって、散々弄られて散々啼かされた。
さっきまで体がだるくて仕方なかったのに、あいつに触られると、全て忘れてまた欲しくなる。
我ながら、よくしつけられてしまったと思わざるを得ない。
だからこそ、今日は。
バスタブの縁に腰掛けたあいつの脚の間に顔を埋めて、わざと音を立てて舐めて、ざらりと擦る。
時折強く吸い上げると、息を詰まらせて顔を背ける。感じてる顔見せたがらないのは、こいつの癖だ。
それが見たくて何度もあいつの弱い部分を攻めていると、そっと頭を撫でられた。
「ん…もう、いい、よ…っ、だてちゃ、」
本当に、何もかも変わらない。
あんたは覚えていないかもしれないけれど、あの日もこうして甘美な眼差しを向けられていた。
悪いが今日は止まる気はねえんだ、思い出しちまったら、同じように食ってやりたくなるじゃねえか。
いつもとは打って変わって容赦のない俺の愛撫に、あいつが戸惑いながら呼吸を乱すとこを見るってのはなかなかいいもんだ。
自分ばっかり余裕ぶってたつもりかよ?
唇をぺろりとひと舐めして強気な表情で見上げると、頬を上気させて瞳を潤わせた佐助がこっちを見てた。
そうそう、お前のその顔がもう一度見たかったんだ。
最高に色っぽくて、煽情的。
「昨日好き勝手やられたお礼に、俺もお前をもっと良くしてやるよ」
「ちょっ…冗談、でしょ…っ、」
「いーや大真面目だぜ?それに、体はしっかり喜んでるじゃねえの」
「言葉攻めなんて、趣味わる…」
「何言ってんだ、お前の真似じゃねえか」
まだ何か言おうとしていた唇を、自分のそれで少し強引に塞いでやった。背中が壁にくっついて、雫が佐助の背筋をなでていく。
その冷たさにぶるっとその身をよじらせたかと思うと、差し込んだ舌に丁寧に反応を返してきた。
絶え間ない吐息の交換に、佐助が鼻を鳴らして目をぎゅっと強く瞑った。
ああ、ほらな、見たことあるぜ、その表情。
やっぱり俺たちはあの頃からすべてを繰り返しているんだ。
「伊達ちゃ、」
「2度も言わせんな、もう黙ってろ」
睦言や駆け引きの言葉は、記憶の中だけで十分だ。
今はとにかくあんたが欲しいんだよ、佐助。
だからあんたも早く俺を欲しがって、あの時と同じキスをココにくれよ。
今ならそれが、誇りに思えるはずだから。
「は…ぅあっ…だて、ちゃ…あっああっ」
「なぁ佐助…」
「待っ、も、むり…きつ…っ」
「佐助、あの頃とは…何もかもが同じだけどな…、はぁっ…全部、変わっちまったんだよ」
「なに言…っ、んぁっ…」
「あの時は、ただ屈辱しか…んっ…感じなかったってのにな…、笑い話みてえだぜ」
「だ、てちゃ…?はっ、ぁう、ん」
「ただみすぼらしいだけの右目が、お前のキスで大事なものになっちまった」
抱いていても、抱かれていても、この体はどこもかしこもアンタでいっぱいになっちまったんだ、佐助。
「…な…泣いちゃうくらい、俺様の中、きもちい、の…?」
「うるせ…自分でつっこんでみれば、分かるんじゃねぇの?」
「ははっ、分身…使えればいいのに、ね」
ばかみてえなやりとりも、こうして未来に持ってきてやったぜ?
だから早く思い出せよ。
俺はずっと、ここにいるから。
END
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