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 03.gain

あの時、あのタイミングで再会していなければ、今のような関係になることは有り得なかったと断言できる。

同じ予備校で同じクラス。受験先の大学も、専攻学科も同じだった。俺もアイツも夏期講習になんて来なくたって、秋には推薦枠でするりと合格できるだけの成績は取っていたので、そこまで必死になる必要もなく。
夏休みに遊びに出掛けるのを我慢して机に向かう事は、いわゆる進学校に通う受験生としてのお務めのようなものであって、言ってしまえば受験生らしく見えていればそれでいい。
佐助も俺も、適当に授業に出たあとは二人でファーストフード店に入り浸ったり、ぶらぶらと街を遊び歩いてみたり、真夏のくそ暑いバスケットコートで3年ぶりに一対一の真剣勝負をしてみたり、まともにやったこともないバドミントンで無様なへっぽこ試合を展開してみたり……18の夏をそれなりに満喫していた。

他人と長時間を必要以上に共に過ごすのは苦手だったはずの俺が、アイツと居るのは何故か気が楽で、むしろ居心地がいい。
気を許せる友人は他に何人も居たが、佐助とはやはり違う。当時の俺にその理由が分かる筈もなく、単に「気が合うってこういうことか」とだけ思っていた。


『ねぇねぇ伊達ちゃん、』

予備校の帰り道、安いソーダの棒アイスをくわえる佐助。それまでずっと『伊達くん』だったのに、ボケも笑いも無いこのタイミングで急に呼び方が変わって、違和感に背中がむずむずした。これはノってやった方がいいのか?スルーしていいのか?
数秒の思考の後、かじっていたチョコアイスを飲み込んでから呼び返す。

「どうした猿飛ちゃん」

途端にこちらを振り返った佐助の、それはない、と言いたげな複雑な表情は今でも忘れられない。

『……気持ち悪いから名前にしてよ…』

自分から言い始めたくせに、あからさまにげんなりされた。これは今でも納得がいかない事の一つだ。

俺の事も名前で呼べばいいのに…って何度も思った。けど、結局言わないまま、気が付けば俺は伊達ちゃん。アイツは佐助。
定着してしまってからは、俺を伊達ちゃんだなんてふざけた呼び方をするのを許せるのは、佐助くらいだな…とか思ってたりもした。
つくづく、自分の感情に対して鈍すぎる当時の自分に苦笑いしてしまう。



8月も半ばを過ぎた頃、部屋で一人暇を持て余していた俺を、佐助が突然呼び出した。
携帯のアドレスと電話番号は再会した初日には交換していたが、何せほぼ毎日予備校で会うのだから特にこれと言って連絡を取ることも無い。
しかしこの日は予備校もまだ盆休み。佐助にしてはらしくないほど焦った様子で電話を掛けてきて、こう言った。

『伊達ちゃんお願い、浴衣買いに行こ!』


…今思えば、佐助の『○○買いに行こう』が始まったのは、この頃からだった。



(2014.02.11)




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