▼ 06:何度でも言うけどハンバーグだけは(略)
店からその人が電話をしている道路側まではちょっと距離があって、間近になるまで全くわからなかった。
服も違うし髪型もちょっとラフな感じだし…だけど途中からそれが確信に変わった。
というか、近づきながら無意識に激しくなる鼓動がうるさくて、それが事件を教えてくれた。
まさかこんなことが起こるだなんて。
「紹介するねっ、こちら伊達政宗。態度も口も抜群に悪い、俺たちと同級生!」
だから幸村の時といい、さっきからアンタはなんという失礼な紹介の仕方を…
っていうか伊達政宗って。
まさむね。
こんな形でフルネーム分かる日が来るだなんて…!!
いやそれよりも、まず第一に彼が目の前に立ってるってだけで…こ、これ夢かな…
「佐助?ていうか政宗も、なに2人して見つめ合って黙ってんの」
見つめ合…っ、うでしょうが!
えっ、えっ、どうしよう、目が離せないんだけど、なんて言ったらいいのかな、慶ちゃんにすら言葉を返せない!
「居酒屋の…」
伊達くんがしゃべったああああああ!!!!
「猿飛、だっけ?もしかして居酒屋で働いてねぇ?」
失神しそう、今にも倒れそう、伊達くんが伊達くんが伊達くんががが…
「あ、う、うん働いてる、と思う…っていうか働いてるよ。こないだ伊達くん来たよね確か」
「で、そっちのしっぽついたアンタは、店の店長とコントやってた奴だよな?」
「某でござるか?いや…そのような記憶はありませぬが…佐助の居酒屋には確かに行きましたな」
いやいやいや、確実にアンタだよ!他に誰がいるんだっての!
「あぁ?政宗、この2人の事知ってんのか?」
「何言ってんだよチカ、こないだ打ち上げで使った居酒屋に居たじゃねえか2人とも」
「俺は唐揚げにしか興味なかったからなぁ…」
俺様も伊達くんにしか興味ありませんでした!
ごめん元親もいたんだね、全く気が付かなかったよ!
「とりあえずどっか移動しようぜ。腹減ったしよ、何食いてぇ?」
伊達くんがバイクにぶら下げたヘルメットをカチャカチャと外しながら聞く。
一挙一動が信じられない。
え、俺様、今伊達くんと一緒にいるの?ずっと、もう一度会いたかったあの伊達くんと?
改めて間近で見る伊達くんの顔は、ずっと見ていたいくらいに整っていて、やっぱり美人…
「某、佐助のハンバーグが食べたいでござる」
「えっ、佐助が作ってくれんの?」
えっ、なにそれ初耳なんですけど、慶ちゃんやったら食いついたね。
「佐助、お前そんなに料理できんのか」
「いや、普段幸村と二人暮らしだからさ、ごはん担当が俺様なだけで、そこまで上手いわけでは…」
「何を言う佐助っ!俺は佐助の作るハンバーグが一番すきだぞっ!」
おぉ…なんか急に嬉しい事言ってくれちゃって……ってこらこら。
「作るのいいけど、今からだと時間かかっちゃうよ?」
「つーか、家に邪魔しちまってもいいのか?俺たち一応初対面だけど」
伊達くんが話しかけてきたあああああああ・・・・ああ、だめだ、冷静になれない・・・
「いやっ、け、慶ちゃんの友達なら別にかか構わないし、えっと、いや、来るなら作るよご飯くらい!」
「よぉっし決まりだな!手作りのモン食うのなんて久々だぜ!」
「…チカちゃん…早く彼女つくりなよ…」
「うるせぇ慶次!てめぇにそんなこと言われたかねぇ!」
この2人も十分漫才コンビみたいだ…。
さしずめ伊達くんはツッコミに飽きた観客ってとこだな、慣れすぎててもはやスルーしかしてない。
「じゃ、買い物行かなきゃだけど全員で行くことないし、先に家寄ってもらえるかな。」
「おぅ、佐助、ほらこっち乗れ」
元親には悪いけど、本気で伊達くんの後ろ乗りたかった。
「じゃ、アンタはこっちな。ほら、しっかりメットかぶってろよ」
「ありがとうございまするっ」
あーあ…幸村…何も知らずにそんな簡単に伊達くんの後ろに…
いいなあ!うらやましすぎるよ!!
わああっ思いっきり後ろからしがみついて・・・やだーなにそれーずるいー!!
「おまっ、そんなにしがみつかれちゃ、骨が折れちまうよ」
「幸村はバイク初めてだからねぇ…お手柔らかに…」
「佐助って、やっぱり幸村のお母さんだよねぇ」
「慶ちゃん、俺様のイメージがひん曲がるような余計なこと言わないで」
「おら、佐助も早く乗れ。行くぞ〜…ってか家どこだ?」
「駅の裏のでっかいマンションあるでしょ、あの後ろの通り沿いに、煉瓦のアパートみたいなのあるから、そこ。行けば分かる」
「んじゃ〜俺先にいくぜ〜、真田、俺が折れない程度にしっかり掴まってろよ?」
「承知いたしたっ!」
なんとも賑やかな帰宅でありました…。
元親の後ろに乗っかりながら、部屋ちゃんと片付けてあったかどうかが不安で…
だって、ほんの数十分前まで、家に伊達くんが来るなんて展開、想像つかなかったんだもん…!
帰って早々、みんなが玄関でわちゃわちゃしてる間に、ソファーに投げっぱなしだった雑誌をまとめて隅に追いやって、幸村が置きっぱなしにした使いかけのグラスを台所へ持っていく。
あとはそんなに…いや、男二人暮らしにしては十分きれいだ、大丈夫。
「おっじゃまするよ〜!」
「結構広いんだな、いいとこ住んでるじゃねぇの」
「もともとは一人暮らしだったんだけどね〜、幸村来てから狭くなったよ」
「さ、佐助っ!?俺が居ては迷惑か!?」
「ちょっと〜幸村のこといじめちゃダメじゃん佐助〜」
人聞きの悪い…。
こんなに一生懸命お世話してるっていうのに。
「はいはい、とりあえず適当に座って〜って言いたいとこだけど、俺様これからありもので先にサラダとか作りたいから、じゃんけんで負けた人、買い出しね。残った人は俺様のお手伝い。」
「じゃんけん…だと…?」
・・・わぁ・・・全員の目の色が変わった。
「んなもん、そこの筋肉二人組でいいじゃねえか」
「某、別に行ってもいいでござる。アイスを余計に買ってくるゆえ…」
こら、何勝手に買い物追加してんの。
「じゃあ幸村と誰かあと一人か?」
「いや、あと2人。バイクに幸村乗っけていく人と、荷物積む人」
「ああ、なるほどな…しゃーねぇなー俺の本気を見せてやるよ」
元親、本気モードか。
ていうか買い出しごときでなんなのこの面白がりよう。
「ったくお前ら、俺に勝てるとでも思ってんのか?俺はじゃんけん無敗の男だぜ?」
おぉ、伊達くんが言うとほんとっぽい。
「んじゃ、いっちょ勝負といきますか!じゃーんけーん!!!」
・・・無敗伝説は本当だったらしい。豪語していただけあって、完璧な1人勝ち。
「はいっ、これ買い物リストね。余計な買い物はひとつだけだよ、幸村。いいね?」
「おかあさーん、僕もお菓子が買いたいでーす」
「慶ちゃんは自分で買って!」
「母ちゃーん、俺も酒が飲みたいでーす」
「元親までっ!やめてよそういうイメージ!」
「騒いでねぇでさっさと行けよ、負け犬さんたち」
「佐助…政宗のハンバーグにハバネロ入れといて」
「おい猿飛、慶次にはキャベツだけでいいぞ」
それいいね、そうします。
ていうか今名前呼ばれたんだけどっ!
だんだん慣れてきた…?いや、それはそれでちょっと切ない感じも…。
幸村、元親、慶ちゃんがバタバタと出ていくのを見送って、ドアがバタンと閉まった瞬間。
とんでもない状況だという事に、ようやく気がついた。
「いつまでそこにいるんだよ?サラダとか作るんだろ?」
リビングのドアを開けて待っている伊達くんと、目が合った。
シーンとした部屋に、2人だけ。心臓がハネた。
「あ、ああ、うん。そうだね」
なんて提案をしてしまったんだ俺様は。
ふたりっきりとか…耐えられるとは思えない…っ!!!
To be continued…
(2012.08.23)