Long | ナノ

 04:「好き」の戦利品

「まぁ、アタックしてみたいな、と思う人はいるけどさ…」

「で、中間結果は?」

「…惨敗。やきもち付きの惨敗。」


炎天下の屋上。
誰にも聞かれたくない話をするのに、こんなにうってつけの場所はない。
唯一の狭い日陰にこじんまりと身を寄せて、話す相手は見飽きた顔。


「なーんでバレちゃったかなぁ…慶ちゃんいくらなんでも鋭すぎるでしょ」

「恋をした奴の目の輝きってのはね!全然違うもんなんだよっ!」

「俺様そんなにきらっきらしてるつもりないんだけどなぁ…」

「佐助はねー、最近やたらと周りきょろきょろするようになったのと、放課後の付き合いが良くなった」


…良く見ていらっしゃることで。
その通りすぎて悔しくて、無言のままぬるくなったイチゴオレを飲み干して、紙パックをぎゅっとつぶす。
手についた水滴を慶ちゃんに向かってぴんぴん、と飛ばすと、図星でしょ、と言わんばかりの
ニヤけ顔が返ってきた。


「で、どこの誰に恋しちゃったの?きっかけは??」

「…ないしょ」

「えええなんで!いいじゃん教えてよ!」


だって教えられるほどの情報もってないし…相手が男だなんて、いくら慶ちゃんにだって言えないよ。


「んー…バイト先に食べに来た。」

「えっ、いつ」

「先週の金曜日。慶ちゃんが来なかった日」

「えええええ行けばよかったー!!佐助が惚れるくらいなんだから、どうせよっぽど別嬪さんなんでしょ!?」


まぁ…超絶的な美人であるとは思うけど。
そこは間違ってない、なーんて本人はこんな風に思われても嬉しくないだろうね。
男はかっこいいって言われてなんぼでしょ。
いや、伊達くんはかっこいいんだよ。
でもその辺の女子たちより数段美人なんだって。
それでいて笑うと無防備な感じがしてかわいいっていうか…
眼帯が一見怖そうに見えるからこそ、そういうギャップにびっくりするっていうか…
ああ、あの笑顔もっかい見たいな…
唐揚げもぐもぐして膨らんだほっぺすらも可愛かったなぁ…
唐揚げ…そう、唐揚げ…


「はぁ…そうだった…浮かれていられる状況じゃないんだった…」


思わず頭を抱えてうなだれてしまった。
思い出すだけで、背中がそわそわしてジタバタしたくなる。


「だからさ、その辺を詳しく聞こうじゃないの!」

「いや、遠慮する」

「いったい何にやきもちしたの?ん??」

「…唐揚げとおしぼり。」

「は?」


嘘は言ってないよ。
唐揚げを伊達くんに取ってあげたり、口元についた油をおしぼりで拭いてあげていたりした、あの小さくて可愛い女の子に、やきもち焼いてたんだから。

女の子ってずるい。
しかもマネージャーってすっごくずるい。
何の工作もなしに伊達くんとお近づきになれるんだから…
口元拭いてもらって、少し恥ずかしそうにむすっとした伊達くんを見て確かにキュンとした!
でもそれ以上に、ごく自然にそういうこと出来ちゃう彼女がうらやましくて仕方なかった。


「まーやきもちってのは、片思いじゃなくてもあるもんだしさっ!好きになった方がもらっちゃう戦利品みたいなもんだって」

「でも慶ちゃん。恋人とか…いたら終わりだよね、よく考えたらさ。」

「ていうかそれ、一番最初に気になるとこじゃないの?」


全くその通りだ。
どうして今まで考えもしなかったのか不思議で仕方がない。
そうだよね、彼女いたら終わりじゃん?
ていうかあのマネージャーが彼女だったりして…?


「ねぇ前田さん、普通の男女の友人同士で、おしぼりで口元拭いてあげたりとかするかなぁ」

「…猿飛さん、それは限りなくクロですよ」

「だよね…うわ〜急に落ち込んできた…付き合ってんのかなぁ〜あの二人…」

「えっ、なに?男と二人で来てたわけ?」

「いや、友達で大勢…って感じだったけど女の子が一人だけで…」


伊達くんが男だってことを隠しながら話してても、相談にならないなこれ…

だからって話すわけにはいかないけど、俺様の好きな相手があのマネージャーにすり替わってきてるのがどうもまどろっこしいというか…
うっかりボロ出しそうになるよ。



結局そんなおしぼり事件を見てしまったがために、あの日のバイトは瞬時に身を守ろう体勢に切り替えた。
彼女かもしれない、っていう懸念が生まれた時点で、できるだけ二人が目に入らないようにサクサクと仕事をこなしていった。

あとは、いつもじゃ絶対相手にしないようなお姉さんたちとの会話を、意味もなく長めにしてみたりとか。
何やってんだか、俺様。

名前がわかったときのあのやる気、ほんと戻ってきてほしい。

全身から溢れそうなほどのモヤモヤ感を、みっちり凝縮したかのような深いため息が止まらない。
慶ちゃんがさすがに心配そうに背中を叩いてきた。


「で、その子はどこの誰さんなの」

「…名前…苗字しか知らない。っていうか、俺様が一方的にあっちの存在を知ってるだけで…」

「あっちは佐助の事は全く知らないってことか。」


改めて言われると、なんだか前途多難な恋模様だこと。
またひとつため息を漏らそうとした時、慶ちゃんがケロッと言い放った。


「なんだ、悩むことないじゃん」


えっ、何言ってんのこの人?
悩みだらけなんですけど俺様。

あまりにも納得いかない顔をしていたんだろう、慶ちゃんが困ったようにへらっと笑った。


「そんな不機嫌な顔してないでさ、よく考えてごらんって」

「…わかりやすく簡潔に聞かせてちょーだい」

「つまり佐助は、今ただのストーカー状態ってことでしょ?」

「ひどーい!もうちょっと言葉を選んでよ!」

「ははっ、だってさ、あれだろ?周りきょろきょろしてんのも、放課後遊び行くのにやけに乗り気なのも、
その子を見つけて、あわよくばお話したいな〜…ってことでしょ??」


う…ほんとによく見てるなこいつ…


「それはただのストーカー片思いでしょ〜、まずはそこから脱却しないとっ☆」


なんか語尾がきらっとしてたのが腹立つな…
正論過ぎてなにも言えないのが悔しいところ。


「佐助はさ、自分から好きになったことないでしょ。だから今ものっすごく戸惑ってると思うんだけどさ〜。
恋ってそんなに重苦しいもんじゃないんだよ。悩むことないって言ったのは間違ってないと思う。」

「だから、それが何でなのか分かんないって」

「スタートラインにすら立ってないなら、自分が納得いくように出会う瞬間を作れるってことだからね」


あ、俺様まだスタートライン立ってなかったんだ?
ごめん、もう始まってると思ってましたよ慶ちゃん先生。


「せっかく今ストーカーなら、とことん調べて最高のアプローチをしてしまえばいいと思うんだっ!」

「慶ちゃんがなんか、冴えてるようで実はすごく変態みたいな発言してる…」

「ちょっ、俺は佐助のために…!」

「ははっ、わかってるって〜。…ま、慶ちゃんの言うことも納得できるよ。つまり俺様、まだ悩んでいいご身分ですらなかったというわけね」


すごく馬鹿にした言い方のようだけど、そう考えたらすごく頭の中がクリアになってきた。
とにかく今は伊達くんがどこの学校かくらい突き止めてから悩めってことだね?
っていうか、彼女がいるって分かったら、俺様諦められるのかな?
自分の事が一番わからないなんて、滑稽な話だよね。


「まーうだうだ言ってても仕方ないしさっ、今週末あたり、みんな誘ってバスケいこーよー!」


楽しいことをしたくて仕方ない時の、こういうオーバーな立ち振る舞いをする慶ちゃん、ほんとにどっかの歌舞伎役者みたい。
元気づけようとしてくれてる、その気持ちが素直に嬉しかった。

だけど・・・


「慶ちゃん、忘れてるかもしれないけど、来週期末テストだよ」

「……そ、その心は?」

「俺様、幸村の面倒みるので精一杯。行きたいけどテスト終わるまではパスかな〜」

「佐助って、幸村のおかあさん?」


放っといてくれ。
いとこだから昔から一緒にいることが多かったけど、目が離せないんだよなぁ幸村だけは。
特に勉強面では…うん…よく俺様と同じ高校受かったと思うよ。

苦笑いで返事を返すと、地べたに放置していた携帯がブルルっとメールを届けてくれた。


『今日の晩御飯は、五目御飯が食べたいのだが!(´・ω・`)GJ☆』


………この顔文字、気に入ってんのかな…


「佐助、幸村にGJの意味聞いてみてよ」

「うん、俺様も今同じこと考えてた」


落ち込んでばっかりいても仕方がないし、今は幸村の珍解答に期待しよう。

あと一ヶ月くらい会えなくたって、伊達くんの事知りたいって思う気持ちは変わらないんだから。

隣でぜーんぶ見透かしたような顔した慶ちゃんが、にししって笑ってまた背中をぽんぽん叩いてきた。
いつか笑ってすべて話せる日が、くるといいな。

一年後でも、三年後でも、話せないかもしれないけれど。





To be continued…

(2012.08.17)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -