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 01:俺様たしかにモテるけどね


明るくて、運動が出来て、勉強もできる。
顔もそこそこ整っていて、身長もそれなりに高くって。
面倒見が良くて、料理も得意で、彼女ナシ。


彼女、ナシ。ここ重要。


いわゆる「超優良物件」ってやつらしい。
残念ながら今挙げたものは何一つ、他人の為に仕立てたモノでは無いっていうのに。
全部、自分がそうしたくてしてるだけ。
なのに一挙一動が勝手に騒がれて勝手に噂になったりする。
この派手な髪の毛も、目立つ要因ではあるんだろうけど…地毛何だから仕方ない。
あること無いこと騒がれるのは、結構めんどくさいんだよ。

高校に入って部活の勧誘もかなり来たけど、わざわざスポーツ推薦蹴ってこの学校来てるんだから、今さらどこの部活にも入る気は無い。
中学の時からバスケは好きで続けてたけど、部活でっていうよりも、クラブチームで仲間たちとわいわいやってる方が、俺様の性に合ってる。
もったいねえ〜って、慶ちゃんや幸村には言われたけどね。
でもでも、そんなとこで汗臭い青春してる場合じゃないでしょ。


俺様だって健全な男子ですから。
勝手に立って勝手に消える噂に惑わされない、すてきな恋人ってものが欲しいんです。
あわよくばそれなりに容姿も整ってて、頭も良くて、一般常識ちゃんと備わってて、俺様に依存しない、そういう空気の読める女の子…なんてものに出会えないかと期待してます。


「だったらなんでこんな微妙なレベルの男子校なんかに進学しちゃったの。佐助なら選びたい放題だったじゃない」


わかってないな、慶ちゃん。
スポーツ推薦蹴った時点で、私立に進む意味は無いわけだ。
どうせ公立行くにしても、無茶してトップレベルの進学校に行って、模試やら受験対策やらに苦戦するよりも、そこより少し低い…
慶ちゃんの言う「微妙なレベル」の所で成績トップで居られる方が、楽にこの先進めるってもんでしょ。
この学校のいい所は、高校なのに単位制だから前半頑張っちゃえば後半遊べるってとこ。
部活してたらそうはいかないからね。
そういう条件に合ってたのが、たまたま男子校だったってだけ。
好きなバスケはプライベートで楽しめるし、バイトして自由に使えるお金もできるし、勉強もそこまで苦労せずにいい成績取れるし、幸い友達にも恵まれてるし。

だからあとは、最高の恋人に巡り合えないものですかね、と。
そう思うんだけどなかなかね〜…。


な〜んてぽろっとつぶやいてしまったが最後。
あっという間に合コンのお誘いメールが受信フォルダを埋め尽くした。
だからさ…みんなどういう情報網持ってんの?
なんで他校に進学した女の子たちからもメールが来るのか、不思議でならない。
そういうのが嫌なんだよね〜…なんて思いながら、今日も慶ちゃん連れて体育館に入り浸ってるわけです。



すっかり馴染み顔になった受付けのおじさんが、今日も元気だねえってにっこりしてる。
たまーにジュースおごってくれるんだ、あのおじさん。
こっちの反応を面白がって、選ばせてくれないのが難点だけど。
ちなみにこの間はおしるこだった。…嫌いじゃないけどさ。

更衣室でいつものロッカー開けて、いつも通りに着替えて、携帯とボールとタオル、あとペットボトルのスポーツ飲料を持ってアリーナに向かった。
慶ちゃんはいっつも準備が遅いから、更衣室に置いてけぼり。
学校帰りの学生たちで溢れるアリーナの隅っこで、携帯片手に適当に身体をほぐす。
とりあえず受信ペースが落ち着いた「お誘いメール」を、片っ端から削除、削除。
伸ばした脚を戻しながらディスプレイにロックをかけたところで、隣にドサっと知らない荷物が置かれたので、お尻ひとつ分横にずれる。
その荷物の持ち主であろう少し低めの声をしたその人に、「あ、すいません」と言われたので、ペコっと頷きながら顔を上げた。

顔を、上げた。

その人の、顔を見た。






慶ちゃん置いて来てよかった。
一人でいる時でよかった、ほんとよかった。
あんな顔してるとこ、絶対誰にも見せられない。



身長は俺様と同じくらいか、少し低いくらい。きっと年も近いだろう。
少し猫っ毛っぽい黒髪で、学ランに少し濃いめの青のTシャツ。
肌が白くて細身、いわゆるソフトマッチョ的な体型?
長めの前髪を右に流して、そこから見える黒い眼帯…珍しいなと思ったけど、似合いすぎてて驚いた。
左目の、きりっとしてるのにどこか可愛い笑い方をする感じにも、衝撃を受けた。


やばい。

やばいやばいやばい。


その人の連れの友達であろう黄色いパーカーの短髪スポーツマンが、その人に向かって「早く着替えてこっち入れ〜」って声掛けたから、はいはいって笑って更衣室に行ってしまった。
ずっと見上げてた。
ほんとにずっと、目が離せなかった。
むしろあんなに見てたのに気付きもしないで、完全にアウトオブ眼中だった事が既に切ない。

いや、ほんと、あれはやばい。

あんなに綺麗な人見たことない。
心臓がうるさかったから鷲掴みにしてやった。
だけど治まるわけもなくって…こんなに動揺してる自分に戸惑いが隠せない。
顔、きっと赤いんだと思う。
耳の奥なのか、目の奥なのかよく分かんないところから、ジリジリ熱い何かがドクドク唸ってやかましくって、涙が出そうになってきた。
わけがわからない。
アリーナの壁に背をもたれて、タオルで顔を隠して考えてみた。


なんでこんなに戸惑ってるのかって…
だって、だってさっきの人…


正真正銘の、男じゃん…!



わけがわからないよ俺様!
何で野郎にこんなにドキドキしちゃってんの!?
いやいやだって、さっきの人ものっすごい美人だったよね!?
ここに居る全員、何で誰もあの人に視線くぎ付けにならないの!?
俺様やっぱり変?
変だよね?
むしろ変って言って欲しいんだけどさ!
ああもうわっけわかんない!一人で勝手に恥ずかしいよ俺様!!



「…なにジタバタしてんの、佐助。トイレ行きたいならさっさと行ってくれば?」


慶ちゃんが目の前に来てる事にも気がつかないなんて…とんだ失態だ…。


「慶ちゃんごめん、ちょっと体調おかしいから、今日は帰るわ…」


こんなおかしなテンションの時に、まともにスポーツなんてできません!
慶ちゃんが心配そうにあたふたしてたけど、平気平気〜ってあしらって更衣室に向かう。
途中、横をさっきの彼がすれ違った瞬間身体が強張ったけど、今度は何だか見れなかった。
見たらまた赤面しちゃうの分かってたし、そんな顔を慶ちゃんに見られたくなくて…
すこし足早にアリーナを出た。


こんなことって、ほんとにあるのか…

たぶんこれはあれだ、ドラマや漫画でよく聞くあれだ。
実際起こる事なんて絶対ないと思って若干バカにしてた、あのシチュエーションだ。
信じられるかみんな、一目惚れって、ほんとにあるんだよ…
こんなことバレたらとんでもない噂にされそうだね、相手が男だなんて、そんな馬鹿な。
でも間違いない、これはきっと、そういう事なんだろう。


あの人の事を、もっと知りたい。
名前なんて言うんだろう…どこの学校なんだろう…
黒の学ランなんてこの辺じゃ沢山あって、あれだけじゃ分かんないな。
学年は同じなのかな、大人っぽかったし…一つ上かな。
あああ俺様ばかじゃないの、残ってあそこでバスケしてれば話しかけるきっかけくらいあったかもしれないのに!!
なんで帰って来ちゃってるの!!!
いや、いいんだ、これでいいんだ。
落ち着け自分、目の前に来られたら不審な行動取るに決まってるだろうお前。
そんな失態を犯すわけにはいかない。
笑った顔すっごい可愛かったな…真顔はあんなにかっこいいのに…
おいおい待てよ、俺様どんだけ順応能力高いんだ、もう違和感ないよ、この感情に。
相手が男?
だからどうした!
俺様ようやく見つけたんです!
恋人にしたいと思える人を、ようやく見つける事ができたんです!


ブブブブって、ポケットの中で震える携帯を取り出して、届いたメールに無言で返事。

もう出会いのお誘いは必要ない。
興味があるのはあの人だけ。
報われない可能性の方が高いって分かってても、どうにかしたくて仕方ない。


ガサガサとカバンを漁って、くしゃっとなった体育館の一般開放の予定表を引っ張り出す。
また同じ時間に、来るかもしれない。
明日以降の予定を見たら、団体貸出で見事にしばらく埋まっていて、思わず声を漏らしてうなだれた。
同居してる従兄弟の幸村が、怪訝な表情をしてこっちを見てたけど、そんなの問題じゃない。



だってほら…よく考えてよ。


今の俺様にとって一番の問題は、この恋がスタートラインにすら立っていないってこと。

そうでしょ?





To be continued...

(2012.07.17)



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