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 02:俺からすりゃあ




俺がソレに気付いたのは、ほんの些細な一言からだった。

あいつにしてみれば、何の気なしに言った言葉だったんだろうけど、俺は意外に観察力があるほうでね。
しっかりキャッチしちまった。


まぁ…当然最初は信じてなかったんだが、ありえねぇと思いつつもどっかで納得してしまう面もあったわけだ。


元々掴みきれねェ奴だという印象はあったんだよな、そういえば。
誰にでも心を開いているようで、実はしっかり感情に蓋してるっていうか…俺からしてみれば面倒な生き方だとしか思えねぇがな。

しかし今回の事、知ってしまった以上は首つっこんでいいのか迷ったんだがよ、ちょいと気になる事もあったもんで、ここは遠慮したって俺の事だ、顔に出ちまうのは十分わかってる。

だから俺が知ってるって事をあいつに言ったら、というかカマかけてみたら、あっさり吐きやがったぜ。


「チカちゃんにはきっとバレてると思ってたよ、だって、分かるように言ったんだもん」


何の為だ??
全然お前の思惑が理解できねぇよ。

あれか、俺を仲間に抱き込んで形勢好転させようっつー腹か?
確かに俺はアイツとはよく酒も飲むし、まぁ…お互いお前らより年上っつーのがあるから気が合う部分もあるんだけどよ。

俺・・・手伝いとかできねぇぞ??


「そんなことさせるつもりないよーって。だってそんなの頼んだら、失敗しそうじゃない」





…ぶん殴ってやろうかと思ったぜ。










元親が政宗と出会ったのは本当に偶然の出来事だった。
たまたま入った大学で、たまたまエントランスに政宗がいて、たまたまそこを通りかかったサボリ魔くんが、たまたま政宗の足にひっかかった。

たまたま、喧嘩。

たまたま、偶然、同じ隻眼。


昼時で学生達が学食に向かう途中にある、広いエントランス。
大きな吹き抜けになっていて、各階から大勢のギャラリーがその一部始終を見ていた事を、思い出すだけで未だに顔から火が出そうになる…と政宗は酒が入る度に口にする。


「アンタとあそこで出会ってなけりゃ、俺にあんな凶暴な噂が立つこともなかったんだよ…全く。忌々しい思い出だぜ。」


結構なもの言いじゃねぇか、と元親がふっかけても、酒が入った政宗は大抵人の言葉など聞いていない。
ソファーにもたれかかったまま、グラスの中のほぼアルコールしか感じないような日本酒を自身に煽っている。



「お前飲みすぎじゃねぇか?そんなに気に入ったのかよその酒」

「あぁ、最高だね、これどこのだ…?見た事ねぇな」

「俺が知り合いから貰ったのを持って来てやったって、さっきも言ったじゃねぇか…ったく。いい加減やめとけよ、俺はベッドに野郎を運ぶ趣味はねぇからな!」


そう言って元親が、そろそろ寝落ちしかねない程に酔っている政宗の手からグラスを奪うと、驚くほど悲しそうな顔でこちらを見上げてきた。
瞳がぐらぐらと揺れていて、熱情的に潤んでいる。

…こんな顔で口説かれたら、女はひとたまりもねェんだろうな…と、自身の性別を誇りに思ったもんだ。


二人で酒を飲む時はいつも、というか大人数で飲む時もだが、大体は政宗の部屋に来る。
劇的な出会いを果たした数日後、再び声をかけたのは意外にも政宗だった。


「俺んちで酒飲もうぜ、アンタなら俺の相手できそうだ」


今ならその意味も頷ける。
仲間数人で飲む時、政宗はなぜか自分からは酒に手を付けない。
勧められたら飲むという感じ。
どうしてそんなに態度が変わるのか聞いた事は無かったが、元親と二人で飲む時だけは、自ら泥酔したがる節がある。


うっかり「可愛い奴め」…とか思ったことがあるなんて、一生口が裂けても言えねぇよ。


もう一度確認しておくが、俺は野郎の相手は…無理じゃねぇがしたくねぇ。
政宗に対してなら尚更だ。
こいつが俺の前でだけこんな姿を晒してるわけじゃないってのも、実は知っている。
だから安心して酌の相手してやれるんだ。
こいつがソッチだったら、いくら俺でも警戒するってもんよ。



元親の要らぬ心配が、ふぅ…っと溜息となって部屋に流れる。

右目を覆った酔っ払いもあっという間に静かになり、保護者・元親、勝手知ったる相棒の家。
いつものように、リビングのクローゼットからブランケットを取り出す。

ふと、半開きになった衣装ケースに目を落とす。
覗きの趣味はなくとも、からかう材料を見つけられたら儲けもの。
相方のクローゼットなんて、言ってしまえばネタの宝庫みたいなものである。
失礼します、と礼儀を立ててはみたものの…



ケースを引き出してすぐに心底後悔をした。



心臓が痛い。



これを知って良い程、自分は政宗にとって信頼の置ける存在なのか。
後ろで無防備に寝息を立てるこの部屋の主は、抱えている闇をいつか自分に曝け出してくれるのだろうか。


手に取ったブランケットをもう一度クローゼットにしまい、扉を静かに閉める。
そしてかわりに政宗の部屋から、きれいに畳まれベッドに乗せられた掛け布団を取ってきた。
俺のこの隠滅作業の様な行動に、自分で違和感を感じたのは言うまでもない。


「何やってんだ俺は…くそっ…」


知ってしまったのは不運でもあり…だが幸運でもある。
元親は後悔ともう一つ、ある決意を抱いていた。
コレを知っているのが俺だけであるはずがない、きっとあの男は知っている。

眠った政宗をリビングに残し、政宗の部屋に移動した元親は、携帯の電話帳から名前の登録だけが終わっていない番号を引っ張り出し、通話ボタンに指を置く。



「どうにもならないってこたぁ無ぇだろう」



ポツリとこぼした独り言が、部屋の凍った空気を溶かすように沁み込んだ。
その表情はとても悲しく、強い決意に満ちていた。





携帯からかすかに漏れる呼び出し音。
数秒後に耳に届いたその声が、元親の第一声を、待っていた。





...To be continued





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