アルコールのせいか、少女は全身の肌を赤く染めていた。その火照った身体へ、青峰の指先が触れていく。脇腹に添って腰のラインを撫でられ、少し出た肉を摘ままれた。胸に舌を這わせていた青峰が少しだけ笑う。そのデリカシーの無さに、○○は頬を膨らませて抗議した。

 胸元で微かに動く相手の青い頭を撫でると、短くも柔らかい髪が指の間をすり抜けて行く。形の整った後頭部を何度も撫でた。○○の腰元を撫でていた男の両手がいつの間にか背中に回り、身体を優しく寄せられる。固くなり愛撫で濡れた乳首から離れた青峰の唇は、上へと動き首筋へキスをひとつ落とした。くすぐったさに身を捩るが、彼の口は逃げる彼女の首を追う。静かな部屋に無言のコミュニケーションが続いた。

 青峰は白い首筋へ吸い付き、口を離して少しだけ紅くなった痕を擦る。それはやがて消え、肌には何も残らない。頭を捻った青峰は呟いた。

「……キスマークの付け方、分かんねぇ」

 そうして再度○○の肌を吸う。チュッ……と唇を離すが、やはり痕にはならなかった。擽ったさを我慢する少女は、舌打ちをする青峰の頭を撫でる。

「弱いのか……?」

 唸りながらに、彼の眉間は更に深くなる。

「え? 今までどうしてたの?」

「付けようと思った事がねぇから。大抵、すぐ突っ込んで終わるし」

 青峰からすればオンナなんか、セックスで性欲を満たす道具でしか無いのだ。今まではテキトウに弄っても相手は濡れていたし、それから突けば喘いで向こうから腰を振るし、終わったら終わったでピロートークも無く、向こうの煙草一本を待つだけだ。それから終電前には解散する。

 恐らくそれはオンナ側も同じで、巨根な青峰に奥を突かれ満足さえすればいつまでもイチャイチャする意味なんて無いのだろう。後腐れ無い相手を嗅ぎ分けるのが上手い青峰は、利害関係の一致する相手ばかりを求めた。そんな彼を、火神は「お前のセックスは、まるでダッチワイフが相手だな」と罵った事もある。

 ――それなら何故目の前の彼女には特別優しくするのかを考えると、答えは簡単に出て来た。少女が"黒子テツヤの大事な人"だからだ。彼女が、ただの合コンやナンパで会ったオンナだったら、同じようにダッチワイフに成り果てていただろう。

 それ程に青峰の中の【黒子テツヤ】と云う存在は大きかった。それは一種のコンプレックスになって彼に纏わりつく。あんな影が薄く、体力も無く頼りなさそうな奴なのに、黒子のその情熱は誰よりも熱く、まるで少年漫画の主人公だ。どう足掻いても脇役にしかなれなかった青峰は、それならば……と今までずっと脇役でい続けた。

 ――本当はずっと主役になりたかった。

 青峰は、【黒子テツヤ】を裏切ってまでも、このオンナの中ではせめて主役で居たいのだろう。それは黒子に対するアンチテーゼだ。物語の主人公から彼女を奪った達成感と、そんな彼を裏切った罪悪感が自身の内側で闘っている。頭の中のどす黒い考えを払拭したくて、夢中で足掻いた。そして首筋に紅い痕を付けたくて、夢中で足掻く。何度も吸った。赤みが消えては吸い付き、舐めた。やっと付いた痕は不様で○○は「打撲したみたい」と笑った。

 少女の鎖骨にそって舌を這わせ、唾液で線を描く。緊張でコクリと鳴る細い喉も、丁寧に舐め上げる。フェイスラインをなぞり、耳元へ舌を到着させると窪んだ場所に吐息と水音を響かせた。向こうの肩が跳ねるのを、大きく黒い両手で押さえてやる。

 青峰は、そうやって彼女の中に自分の全てを押し付けようとした。全部オレで満たされれば良い……。今までに無い程に強烈な独占欲が湧いてくる。それも"愛情"なんて綺麗なモノでは無い。今ならハッキリこう言える。

『黒子テツヤに勝ちたい』

 今までの物語も、バスケも……桃井さつきも、【黒子テツヤ】は全てを手にしていた。本人にその自覚は無い為、そこに突っ込めない焦れったさはあった。

「――青峰君……」

「大輝だ……」

 湿った声で相手から苗字を呼ばれるのだが、彼は無意識に自分の名前を口にしていた。それが何をアピールするのか検討付かない彼女は「そうなんだ」とだけ呟いて、再び青峰の愛撫に身を強張らせる。

 男の五本の指が白い胸元を撫でた。抱けば肩の中に収まる程に小さい身体、申し訳ない程度の胸。もう少し……いや、かなりのボリュームが欲しいが、今更文句を言っても大きくはならない。そんな手のひらに収まる大きさでも握れば指が埋もれるし、揉めば脂肪の塊が反発してくる。自分には無いその柔らかい部位へ夢中になった。先端の固くなった部分を親指で弾けば、自分の付けた唾液で滑った。

「ん、あ! やぁ……だ、っ!!」

 ○○は、覆い被さった青峰の首へ回した手をぎゅっと絞める。体内にアルコールが入った事により、前回より声にボリュームが出る。しばらくは胸の先端を親指で弾かれ、潰され、円を描くように撫でられた。焦れったい感覚に、じんわりと少女の下半身が濡れる。耳に息が掛かる度にくすぐったさが快感に変わっていく。○○の口から喘ぎが止まらないのは、雰囲気に飲まれ全てが性的快感に直結しているからに違いない。

 耳元で高い喘ぎを聞かされた青峰の下半身は、パンツの中で抑え込まれた自身を突き破ろうとしていた。ソレは、すっかり準備が出来ているようだ。

「……舐めて、くれよ」

 息絶え絶えに、青峰は口での奉仕を懇願する。恥ずかしそうな顔で青峰の肩に額を付けた○○は15秒程沈黙すると、小さく「いいよ」と答えた。


 ……………………


 青峰がパンツを脱ぐと、すぐに勃起した凶暴な生殖器が姿を現した。○○は、その赤黒さと大きさにビックリする。こんなに間近で男性器を見た事は無い。自分には無いその部位を、どう扱えば良いか不安になった少女は、眉を下げた。自分のより固く濃い陰毛も、筋肉が付き引き締まった内腿も、青峰大輝が男である事を際立たせていた。座る男の股間へ手を伸ばし、先端を指を撫でると、濡れた汁が指先に付着する。ぱっくり開いた尿道を優しく擦ると、くちゅくちゅと音がした。青峰も「あぁ……」と気持ち良さそうな声を出す。

「掴んで、上下に…………そうだ」

 相手のガイドに従って性器を握る。その仄かな温かさと、表面上は柔らかく、でも芯が硬い感触に○○はビクッとした。例えるならゴム製のオモチャだ。回した指をしっかり握る事無く、上下にゆっくりと動かす。擦る度に青峰の皮膚が張り付き、指先にくっついてくる。

「もうちょい、強く……。それじゃ、弱ェ……」

 ○○は、指示の通りに握り直す。ほんの少し強く擦ると、青峰の口からまた僅かな喘ぎが漏れた。その性的な声が嬉しかった。もっと気持ちよくなって欲しいと、少女は垂れる横髪を掻き上げ耳に掛けると、性器の先っぽに舌を付ける。青峰が自分の乳首にしてくれたように、舌の先を何度も往復させた。大胆な行動に、彼の性器がビクリと震える。

「そのまま、喰わえて、奥まで……。歯ァ、気を付けろよ」

 右手を○○の後頭部へ回した青峰は、数回髪を撫で、そして頭を少し前へと押す。押されたまま、彼女は彼の大きなソレを口内の全てで含む。ヌルリと温かい感触に、青峰は眉を潜める。思わず後頭部を押す力が強くなり、喉奥まで彼のモノでぎゅうぎゅうになった○○は、噎せた。

 ゲホ、ゲホと咳で身動ぐ彼女を、青峰は「悪ィ……」と宥める。涙目になりながらもまた喰わえ始めた少女の顔を見たくて、男は相手の前髪を掻き上げる。眉間に寄った皺、睫毛の長さが不自然な目元、一生懸命自身の性器を口内へ押し込もうとするお気に入りの口元……。閉じていた目がうっすら開き、こちらを見ようとして、また閉じる。

 ……恥ずかしがり屋なのか、コイツは。少女は必死に口元を動かしているようだが、経験不足でお座なりなフェラチオはイマイチ快感には繋がらなかった。

「……もう十分だ」

 青峰が終了の合図を出せば、だらしなく口を開けた彼女は名残惜しそうに性器を見つめる。男は、律儀に正座している少女の膝へ手を伸ばし、黒ストッキングの艶やかさに指を滑らせた。内腿に近付くにつれ、摩擦と相手の体温で指先に熱を感じる。スカートを脱がせるのが焦れったい青峰は「……足、開けよ」と命令をした。

 従う○○は、顔を手で覆いながら股間を静かに開く。捲れたスカートの裾から下着が見えた。作りはシンプルだが、レースが縁取られ清楚さをプラスする。

「破っていいか? コレ」

 青峰は相手の返事を待つより先に、ストッキングのクロッチに力を込め、左右に引きちぎった。ビリリッ……と繊維の切れる音が室内に響く。その強引な行動に、○○の下腹部は更に疼いた。

 ――もう駄目だ。【虜になる】とはこういう事を言うのだろうか……。今なら、彼に何をされても良い気がした。

「……後で新しいの買ってやるよ」

「ん、あ……っ、いじょ……ぶっ」

 下着を横にずらされ、早急に中指を入れられた。クチュクチュと入り口付近を指先で玩ばれ、濡れていた事を明確にさせられる。

「よくも、こんなに、濡れるモンだな」

 浅い部分を念入りに責められ、○○の奥がウズウズする。

「あっ……あ、あおみ……っくん、や――」

 そのまま指を深い部分まで入れて欲しくて、少女の身体がくねる。まだ2回目だと言うのに、○○の身体は前回の快感を覚えているのか、目の前の男を欲しがった。

「……っん……んっ、ん」

 第一関節までを緩く埋め込み、陰部を責める青峰。○○がその右手首を掴むと「どうした?」と聞かれる。その時の彼の顔は、欲しがる彼女に気付いていた為、悪戯に笑っていた。

「……っ、入れて、いいよっ」

「入ってんだろ?」

 ニヤニヤと笑う彼は、挿入していた指を一気に奥まで突っ込んだ。愛液の滑りですんなりと入ってしまった中指の腹で、膣内の届く範囲を引っ掻き始める。

「ちが……っ、違う……っ、それじゃ、な――」

 ○○はシーツを握り、圧迫された快感に身を捩る。陰部で動く青峰の中指とその付け根は、溢れ出す愛液でドロドロになっていた。

「――コレじゃないなら、どれだよ。何が欲しいんだよ」

 ○○が羞恥心から「……馬鹿」と相手を罵れば、愉快そうな青峰は彼女の耳元でこう囁いた。

「……馬鹿だから分かんねぇんだよ」