――悪いこだわりだとは思っているが、避妊具だけは着けたくない。

 ソレが青峰成りの流儀だ。ギチギチに密着されたゴムの隔たりは、心身共に萎えさせる。男はヌルヌル滑る愛液がダイレクトに付着する、この感覚が好きなのだ。この熱でドロドロに溶ければ良い。

 生唾を飲むと、自身を無理矢理に相手の穴へと挿入する。一気に進入してきた青峰の性器に、身体が反応しきれず○○の背中が浮いた。飲み込んだ部位は痛みに支配され、少女は喘ぎさえも出ずに口をパクパクさせるだけになった。

「うぅ――。あ……、ッあ……」

 ズキンズキンと痛む下腹部は、膣内を刃物で刺されているようにも思えた。痛みに慣れたと思えば、続いて圧迫感が襲う。シーツを掴みたくても、ぴっちりと敷かれたシーツは爪で引っ掻いても滑るばかりで、枕を掴み耐え凌ぐ。何もかもが初めてな少女は、首を振り静かに泣く事しか出来ない。

「――痛ッ……。や、だっ……痛いぃ!!」

 上になった青峰の肩を無意識に掴むと、その腕の固さと背中の広さに『重なっているのは男の人なんだ』と実感する。小さく声を漏らす青峰のうなじからは、僅かに香水の匂いがした。その似合わない程に背伸びした香りが、少しだけ緊張をほどいてくれた。

「………っん……あっ……」

「――落ち着いたか?」

 頬に大きな色黒の手が触れる。青峰は何時からか動くのを止め、○○が落ち着くのを待っていた。彼女の目には涙が溜まり、瞬きをしたら筋が頬を通った。

「――ごめんなさい」

 静かに謝ると、青峰は○○の手を取り彼女の下腹部へと持っていった。アンダーヘア―の少し上、子宮らへんに手を置いた彼女はきょとんとした顔をする。

「判るか……?」

 青峰が腰を押し込むように動かすと、手のひらの下で何かが腹部を押し出す。キザな事をしている気がした青峰は恥ずかしくなり、また彼女にのし掛かった。小さいながらも柔らかい乳房の感触に、彼の性器はピクリと反応する。

「……や、ぁん」

 グリッと奥を突かれた○○は、反射で声が漏れた。青峰が腰を打ち付ける度にナニかは彼女の腹部を押し上げ、その度に手のひらに存在を訴えかける。ヘソから始まった電流のような感覚は、背中にまで達する。それが"キモチイイ"と云う感覚だと気付いた時には、感想が口に出ていた。

「……いいっ………ッ! 気持ち、いいよぉ……」

 その声を聞いた青峰は、彼女の腰を掴むと激しく出し入れを繰り返した。青峰の動きでベッドが激しく軋み、揺れ、○○の身体は何度も跳ねた。

「うあああぁ! やだぁ!!」

 いきなりの挿入に順応出来ずにいた女性器は、青峰の乱暴な突きに反応を見せ、愛液を溢し始めた。ヌルリ、ヌルリと重なる肌が滑る。

「はぁ……っ、はぁ……」

 青峰は、両目を瞑り快感に耐える少女の口にキスをしようとしたが、唇を胸元へ滑らせた。再び乳首を吸い、舌を動かし突起を弾く。

 彼女の腰はひとりでに浮き上がり、いつの間にか快感を求め動いていた。リズムが合わなくなり何度も抜けそうになるが、その度に青峰は腰を掴み奥へと打ち付けた。キツ過ぎた彼女の膣内は、そのうち締め付けが緩やかになり濡れ出た分泌液が彼の責めを潤滑にする。

「――ヤ、ベ……ッ。出る……ッ」

 青峰は、自身に限界が来るのを悟った。狭い入口をきゅうきゅうと締められ、そこに裏筋が擦れる度、背中にゾクゾクとした快楽感が走る。

 我慢するつもりだったが、射精感に負け慌てて男性器を外に出す。余りにギリギリだった為、シーツに全てをぶち撒けた。精液が出る度に青峰の性器は震える。男は荒い息を整え、顎や首筋から汗が滴るのを感じた。

「……は……ッ、はぁ……」

 吐き出しを終えた青峰は、胸元を上下させながら羞恥の為枕で顔を覆った○○を、視線で撫でた。細い首筋、小振りな胸からヘソに掛けてのライン。薄いアンダーに……先程まで繋がっていた秘部。その少し外れた場所には、寸での所で出した彼の精液。女性器からは少し太めの腿にまで垂れた液体が赤く……。

 ――その鮮やかな原色に、青峰はギクリとした。


 ……………………


 行為を終え、すっかり縮んだ性器をティッシュで拭く。性器は抜いても尚、お互いの体液が纏わり濡れ光っていた。射精により身体が一気にダルくなるのだが、ティッシュに付着したピンク色に気付くと頭をバリバリ掻く。

 青峰が丸めたティッシュをゴミ箱へシュートすると、綺麗にゴールした。彼からしたらもう当たり前の事だが、やはり決まると嬉しくなる。

 少女を見ると、肩で息をしているのだろう。被った布団の上部が微かに動いている。脱ぎ放った花柄の下着がベッド際に落ち、今までの行為を現実だと訴えた。

 青峰の口から深い溜め息が出た。短く青い髪を掻き上げると、額が汗で濡れているのが判る。そうして汗まみれの身体を少女の隣に横たわらせる。ベッドを軋ませ、縮こまってしまった○○を抱き寄せた。僅かに布団から出ていた後頭部に顔を付け、息を吸う。仄かに甘い匂いが鼻腔を擽った。

「……大丈夫か?」

「……何が?」

 相手から予想外に強い答えが返ってきた。目をパチパチさせた青峰は、彼女の後頭部に唇を付けたまま話し出す。

「何がって……。明日の天気でも聞くか? こんな時に……」

 白いシーツにも赤い斑点が出来ていた。それが何を示しているか、青峰にだって判る。何も言わない、泣きもしない○○に抱き着くのを止めた青峰は、両腕を枕にし仰向けになる。呟くような声量で男は口を開いた。

「――あのさぁ、初めてなら、そう言えよ」

「……今まで、こういう機会無かったから」


 そう呟いた少女は、今更ながらに自身の軽率な行動を悔やんだ。ヒリヒリ痛む女性器は、尚も青峰のモノが入っているような錯覚が続く。この異物感が無くなれば、全て無かった事になるのだろうか? そう考え、小さく首を振った。

 心の奥では、繋がっている間見えた青峰の逞しい肩口や、胸元から腹筋がフラッシュバックする。恥ずかしくて顔までは見れなかった。。相手は見たのだろうか? 自分が苦しそうに喘ぎ、やがてそれが快感に変わっていく様を……。少しでも可愛く映っている事を願う。

 手のひらに感触が残る。自分の下腹部を押し上げて来た青峰の先端部分……。あの瞬間、痛みが全て快感に変わった。あんなんなるんだ……。未だ残る異物感が膣内を突き上げ続けるようで、子宮付近がきゅんとした。

 ――本当は望んでいた。「送っていく」と言われたあの時から……隣で無口になった彼と深い関係になれる事を。自分は何て卑しい人間なのだろうか。○○は己の浅はかさを恥じた。

「……青、峰君」

 初めて本人の前で名前を呼ぶ。くすぐったいような感覚だ……。ただ一回性交しただけの男に、恋心の全てを持って行かれたのだ。

 青峰は返事をする事無く、彼女を抱き締めた。平均的体格の彼女でも、規格外に大きな男の腕にすっぽり入ってしまう。青峰の鎖骨が額に当たる。お互いの体温が交わり、溶ける。男が大きく息を吸えば、胸元が膨らみ彼女の顔を押した。

「……もう大丈夫か?」

 優しく髪を撫でられ、再度処女貫通の痛みを心配された。肯定を表示する為に、頭を縦に振る。青峰からは見えないが、気配で察してくれるだろう。

 ○○は、ベッドサイドにあるデジタル時計を見る。【01:35】……終電は出発してしまった。明日の始発で帰る事にしよう。向かい合う格好が気恥ずかしい○○は、身体を翻し彼に背を向けた。

 男の太い腕がのし掛かってるが、その重みさえも愛しい。しばらくすると、背後から寝息が聞こえた。きっと寝顔も心奪われるモノなのだろう……。徐々に重くなる青峰の腕が、彼女の身動きを封じた。


 ……………………


 ――AM09:00。

 青峰が目を覚ますと目の前は空になり、温もりさえ残っては居なかった。昨夜落ちていた彼女の下着類も無くなっている。取り残された青峰は立ち上がり、寝癖でボサボサになった頭を掻く。カーテンから日が入り、昨夜の痕が残る乱れたシーツを照らした。もう茶色くなった初めての印をぼんやり眺めていると、彼女の名前さえ覚えていない事に気付く。

 ガラステーブルに置き残された数枚のお札は、割り勘にしても多かった。

「奢るよ、こん位……」

 誰に聞かれる事もない青峰の見栄は、シンとした部屋に消えていった。