「三十一分と十七秒。……遅刻だな」

 扉を開けた青峰は、肩で息をする彼女にそう告げた。

「……数えて、たんだ」

「冗談だ。上がれよ」

 息絶え絶えに呟き俯いた○○の頭を撫でた青峰は、珍しく少女に笑い掛ける。その笑顔はやはり下手くそで、口元だけが辛うじて弧を描いていた。

 がっしりした肩から広い背中に掛けて黒いロンTが貼り付き、青峰の逞しさを際立たせていた。そして幼い頃からの焼けた皮膚がその男を包み、長い指を付けた手のひらに太い血管が浮く。香水だって変わってない。中年男性が好みそうな香りだと彼に伝えたら、怒るだろうか。○○は、その匂いを抱き合った身体にコピーして帰るのが好きだった。

「……お前から会いたいって言うの、初めてだな」

 そう指摘し、青峰はテレビを消してベッドへと腰を降ろす。少女は言われて初めて気付いた。○○は、今まで受け身だった自分を心の中で少しだけ責める。黒子に対してもそうだったし、それは火神の時にも当てはまった。男の人に「会って欲しい」と自分から誘ったのは初めてだった。……もっと積極的に誘っていたら、結果は変わっただろうか。否、きっとそれは無いだろう。息を整えるのに時間が掛かった彼女は、聞きたかった事を伝えた。

「……好きな人、出来たって聞いたよ? 良かったね」

「――誰から聞いた」

「火神君から」

 嘘偽り無く答えた○○を余所に、青峰は黙り込み、そして不機嫌そうに呟いた。

「振られたけどな。結構前に」

「……え?」

 ○○は、単純に驚いた。それは、こんなにも魅力溢れる男性を拒否する女性が居る事に対する驚愕だった。予想していた答えとは違う……。その青峰の言葉に、少女の内側では色んな気持ちが交差を始めた。

「良いんだよ、もう。連絡すら無ェし……」

 黒子程では無いが、青峰も時々表情が乏しい時がある。大抵不機嫌な時が多いのだが、それなら今も機嫌が斜めに向いてしまったのだろう。だから彼女はフォローをした。

「青峰君みたいな良い人、振る人も居るんだね。勿体無いね……?」

 「勿体無い」は本音だった。彼女は、きっと世界で一番青峰を愛している。でもそれは、どんなに強くても一方通行なモノでしか無い。彼女が焦がれていた男もまた、同じ気持ちを他の女性に向けていた。それだけの事なのに、全てが勿体無く思えた。

「……脱げば? コート」

 ベッドに寝転がる青峰は、彼女に『くつろげば良い』と提案する。しかし、彼女はそれを拒否した。

「お風呂上がりだったから、恥ずかしい格好なんだ」

「格好なんか別に良いだろ? オレしか居ねェし」

 そうだけフォローを告げた青峰は、背を向けてしまう。

 ○○は言われた通りにコートを脱いだ。丁寧に畳んで、座っていたクッションの傍に置く。こんな格好で本当に良いのか分からない。何かを期待しているはしたない娘だと思われないか……少女は不安でモジモジした。正座で座り直すと、彼女にしては短い膝上のスカートから太ももが露になる。

「……んな床に置かないでハンガー使え……、よ……」

 上半身を起こし、彼女を見た青峰が固まる。それは彼女の格好が予想以上に激しかったからだ。淡いピンクのキャミソールに、黒いミニスカートは丈の長い色気の無い清楚なコートに隠れていた。ブラを付けていないのは、胸元のラインを見れば判る。ずれた肩紐を上げる指先の仕草さえも色気があった。北風に揉まれた髪が、情事後のようにボサボサ。寒い野外から温かい部屋に入った事で、少女の頬は赤らむ。

 ――艶っぽい。そう感想を持った青峰は、再び彼女に背を向けて寝転がった。

 気の抜けたお嬢サマだと思っていた相手がデリヘル嬢になったような気がして、青峰は動揺した。なるとしたら、その原因は火神大我に違いない。青峰の胸に何かが刺さる。

 どんなセックスをしたら、こんなに風貌が変わるんだよ……。

 背後に居る彼女がココで火神とセックスをしているんじゃないかと勝手に妄想し、青峰は堪らなく厭な気分になった。

「……青峰君の好きな人って、どんな感じの人?」

 心無しか、少女は声まで色っぽくなった気がする。誘われていると錯覚を起こした青峰の股間は、熱を帯びた。男は久々の感覚に喉の渇きを覚える。

「写真あるけど、見ない方が良いぜ? 落ち込むから」

 彼女が【桃井さつき】の容姿を見たら、その完成度の高さにショックを受けるだろう。桃井は人形のような細身のスタイルに、間違って付いてしまったような豊満な胸が周囲の目線を惹く完璧な女だ。思い出した青峰は、また締め付けられる胸に苛立った。

「――お前、オレの事好きだったろ?」

 過去形にしたのは、青峰のせめてもの優しさだ。○○は何も言えずに、ただ自分の太ももと上に広げられた手の甲を眺めていた。青峰は彼女の好きだった低く甘い声で、その気持ちへの答えを告げる。

「……悪いけど、オレの中でアイツ以上の女なんか現れねぇ。満点過ぎたんだよ、何もかもがな」

 酷い台詞だと思った青峰は、黙り込んだ。自分が桃井にこんな事を言われ振られたら、悔しくて惨めで発狂するに違いない。背を向けている為に、相手の顔は分からない。また、声を殺して泣いているのかもしれない。

「明日、黒子君の誕生日で……一緒にご飯、食べるんだ」

 ○○の口が動いた。彼女の声は震えたりせず、泣きが混じりもしない。いつもの、気が抜けるような話し方だった。拍子抜けしたのと同時に、安心した青峰はお節介ながらに黒子の気持ちを伝えてやる。少しでも彼女の失恋が紛れるように。

「――テツの野郎。アイツ、お前の事が好きらしいぜ?」

「うん、告白された……」

 ○○は申し訳なさそうに先日にあった事を、今日まで愛しかった彼に告げた。

「だから、今度からは……友達として、仲良くしてね? 私多分、黒子君と一緒にお邪魔するかもしれないし」

 告白の返事を本人よりも先に聞かされた青峰は、それ以上何も言えなくなった。彼女の強さを目の当たりにし、こうして相手に気を遣われている事に惨めさを感じる。

 ――これはオレが望んだ事だ。テツと目の前に居るオンナなら、きっと学生らしく段階をちゃんと踏んで、お互いを大事にし合える。周りにも祝福されて、幸せになれるんだ。アイツなら、彼女のうっかりな部分も馬鹿にする事なく、それさえ愛しいと思うのだろう。

「――こんな時間に、ごめんね? 私もう青峰君の番号消したから、青峰君も必要無いなら消していいよ?」

 その言葉に、黙っていた青峰が反応を見せる。男の口から出た台詞は、青峰自身にも予想出来ないモノだった。

「オレはもう必要無いって事かよ……?」

 "必要無い"と言う言葉につられ、つい口から嫌味が出たのだ。――弱くて優しいだけのオンナだと思っていた彼女は、自分なんかよりずっと気丈でドライで大人だった。

「…………違う、逆だよ」

 それだけ言うと、コートと財布を掴んだ彼女は立ち上がる。少女は、スリッパも出さない青峰の部屋を生足で歩く。

 あと数歩で二人の関係が白紙になる。――いや、彼女の中の"青峰大輝"と云う役が友人Aになるだけだ。エンドロールに名前も出ないような、チンケな脇役になるだけ……。リビングから出る彼女は立ち止まり、青峰に向かって何かを言おうとする。

 その内容が判っていた青峰は、いつの間にか彼女を背後から抱き締めていた。○○は少し痩せたのか、以前より華奢になっていた。身長差が通常よりも激しい彼等は、男が身を屈めなくては満足に抱き合う事も出来ない。肘置きにするのには最適な高さの彼女の肩。その隣に顔が来るまで青峰は中腰になる。

「最後に一回だけ、エッチしようぜ……?」

「……嫌だ、帰して……」

 青峰は情事の催促を囁きながら、優しく○○の耳を食む。そして俯きと言葉で抵抗する彼女のコートと少ない荷物を奪った。男は身軽になった少女の耳のカタチをなぞるよう、舌を柔軟に動かす。

 ○○は耳元で弾ける水音と、相手の柔らかい舌の動きに目を瞑り、耐えた。黒子の恥ずかしそうに覗き込んで来た顔が浮かぶ。だけど、キャミソールの上から男らしい手のひらが彼女の乳房を包みゆっくりと揉み始めた瞬間、それすら消えた。

「……や、だ……。ほんとに……やめ、てっ……」

「なら、ちゃんと抵抗しろよ」

 荒い吐息混じりの声で囁かれる。男は少女の熱い柔肌を擽り、乳房を捏ねた。乳首を指で挟み、いつものように捻り指の腹で優しく潰す。

 好きだった、さようなら……なんて言わせない。過去になんかさせない。またそうやって全てのモノがオレを置いて消えようとするのなら……。彼女彼氏じゃなくたって、男女が関係を続ける方法なら幾らでもあるんだ。

 自分から去ろうとした彼女に、また青峰の独占欲が手を出し始めた。

 彼もまた、自分を差し置いて相手の幸せを願える程大人じゃない。二十歳と云う生まれたばかりの成人は、周囲や本人が思っている以上に、幼い葛藤と戦う。やがて幼い意見に振り回され、幼い欲望で身を滅ぼすのだ。

「お前さぁ、火神ともエッチしたんだろ? オレが知らねぇとでも思ってた?」

 身体を器用に滑る青峰の右手は、彼女の下着を膝上半分まで下げる。少女のデリケートな部分から剥がれた布地は、緩やかな愛撫で糸を引く程に濡れていたが、立っている青峰にはその事を気付かれず済んだ。しかし彼の太く長い指が濡れてグシャグシャになった秘部をなぞると、可笑しそうな笑い声が○○の耳に響いた。

「何回エッチした? アイツ、火神と」

「……分かん、ない。多分、一回」

「分かんないって、何だよ? なぁ?」

 批難の混じった質問を尋ねられながら、青峰の中指がゆっくりと膣内へ入って来た。奥ギリギリまで入れられた一本の指だけで、彼女のナカは満杯になる。窮屈な膣内は、挿入したまま動かない指を締め付けては離し、蠢く。

「じゃあ、その一回は何したんだよ? 報告しろよ」

「そんなの、無理だよ! 青峰君は……関係無い、もん」

「じゃあ、テツに言うかな? 幻滅するかもな? 友人二人に手ェ出してたなんて。とんだ淫乱オンナだ」

 黒子の名前を出した途端、○○の蜜壁はまた動き出した。俯いたままの少女は羞恥で震え、泣き声を漏らす。悲しがる姿でさえ、青峰の欲望へと繋がった。相手に黒子の名前を呼ばせ、行為の中止を懇願されながら最奥を突いたら、きっと彼はそのシチュエーションで簡単に果てるだろう。

「――やめて、お願い。言わないで! 傷付いて、欲しくない!」

 青峰は、黒子と○○がお互いを思い遣る気持ちに、先程眺めていた恋愛ドラマの綺麗さを感じた。「誰のせいだよ」と訝しがった男だが、溢れた愛液が手のひらにまで垂れて来るのが分かると、彼女の純粋さが上部だけのモノな気がして愉快な気持ちになって来る。

「じゃ、オレの言う事聞かなきゃだな? ちゃんと言えたら許してやるし、帰してやるよ」

 ――青峰は、悪役になった気分だった。彼はヒーロー役よりも、ヒール役の方が似合うのかもしれない。それでも小さい頃はずっとヒーローに憧れていたのだ。今は歪んだ青峰だって、日曜朝はヒーロー戦隊の活躍に心を踊らせ、番組が終わったら外を遊び回っていた。そうすれば、自分が自分の中だけでヒーローになれるからだ。

 なら、何時からだろう。悪役の方が楽だと思うようになったのは。『自分は悪そのものなんだから、嫌われて当然だ』そんな言い訳が身体に染み付いたのは……何時の話だろうか。

「ほら、言えよ」

 悪役は、催促しながら根元まで入れていた指をゆっくり引き抜く。濡れに濡れた女性器は、中指全体に愛液を纏わり付かせ吸い付くような密着感を持たせた。

 指先が出るかと云う所で、またナカに入れていく。ゆっくり、焦らすように。少女の息が荒くなった。○○は青峰の右手首を掴み中止を懇願するが、それは何の抑止もならないでいた。

「……クリスマスに、ご飯……食べに行っ、た」

「――それで?」

 青峰は左手で、自身が履いていたスエットのウエスト部分を下げ、ボクサーパンツの中で酸欠に喘いでいる性器を引っ張り出した。ここまで勃起したのは桃井に振られてから初めてだ。ソレを相手のキャミソールの中に突っ込み背中で擦ると、肌が触れ合う感覚が気持ち良い。

「火神君の部屋で、キスして……っ……、身体にクリーム……塗られて……っ……」

 そこでまた黙り込んでしまった彼女の乳首を左指で捻る。小さく呻いた彼女は、再度口を開き、恥ずかしい事を言わされる。

「クリーム……舐められ、て……」

「……どこ舐められた?」

 ○○の小さい口が震えていたが、青峰は臆する事無く出し入れする指を二本に増やしてやった。隙間が増えた分だけ空気が混じり易くなり、クチュクチュと湿った音が出始める。堪えていたであろう少女の口から、喘ぐ声が漏れた。

「っ……言う、から! 言うから、やめて……っあ、もう、ぅん……!!」

 青峰の胸元のシャツを握ると、彼女は暈した言い方をした。

「……青峰君の指が、入ってる……トコだよ」

「それからは?」

 もう少し苛めても良いのだが、青峰は先に進める事にする。

「……覚えてないよ……っ、その後は……」

「はぁ? そんなん通用すると思ってんのかよ?」

 二本の指を入るだけ奥に入れた彼は、文句を言いながらソレを内部で激しく動かし始めた。ゆったりした責めから激しく動きを変えた愛撫に、○○は思わず口元を覆う。青峰は膣内を指の腹で引っ掻き、指先で円を描くように動かして、わざとらしくグチュグチュ音を立てる。音にまで嬲られ、恥ずかしくなった○○の身体は更に熱くなった。

「……あっ、ホン、トだよ! 火神君に電話掛かってきたから、私……っ服着たもん! んあぁ……っやっ! その後ソファーで寝ちゃって…………んっ、あぁぁっあん!!」

 喘ぎながらも懸命に弁解する彼女の姿が可愛くて、青峰はベタベタになった指を更に激しく動かす。愛液が変化したのか、湿った音は粘度の高いモノへと変わっていた。手首に疲労感を感じて来た頃、○○は静かに絶頂を迎えたのだろう。膣の内部が強烈な締め付けを始めていた。彼女のイヤらしい体液は太ももまで垂れていた。男はソコで撫で、人差し指と中指に付着した愛液を拭く。

「そうか、寝ちまったのか。……なら仕方ねぇな」

 青峰は溜め息一つ付き、彼女を抱え上げた。身体が宙に浮いた○○は、小さく悲鳴を上げる。抱き付かれ、男は相手の頬にキスをひとつ落としてやった。別に彼女は重くはないが、サポーター無しの膝に負担が掛かり、それは痛みとなり彼を蝕む。

「本当の事も言わねぇ奴には、お仕置きが必要だろ?」

 ワンルームに戻り、男は少女をベッドに寝かせた。履いていたモノを全て脱ぎ捨てた彼の行動と、自分を刺す獣のような眼差しに、抵抗しても犯されるのだと○○は感付いた。それでも彼女の唇は拒否を続ける。

「……やめて? 本当に、私……黒子君が……」

 目元は潤み、頬を赤らめられながらそう言われても、青峰からしたら誘っているようにしか見えない。これがもし恐怖で引き吊った顔をしていたら、男だってここまで性欲に身を焦がさなくて済んだだろう。

「あぁ、好きになったのか? 格好良いもんな。アイツ」

 青峰はトップスに着ていたシャツを脱ぐと、床に投げた。脱いだ際に多少乱れた髪を直す事もせず、男は彼女にのし掛かる。相手の手で胸元を強く押されるが、非力な女性の力では何の抵抗にもならなかった。

「安心しろよ。外に出すし、もしガキ出来ても……責任位は取ってやる」

 "責任"なんて――そんな先の事なんか考える事も無い。今だけ考えていれば良い。彼女が自分から離れようとするなら、再度きっかけを与えてやれば良い。

 考え方としては、先の火神の行動と似ている。どんな手を駆使しても、本気でコンプレックスやライバルに打ち勝つ。――それが彼等の"強さ"だ。

「まるでお前、オレの性奴隷だな?」

 青峰は、自分から出た台詞を鼻で笑う。

「言ってみたかったんだよ……エロ漫画みたいな台詞」

 そう呟き、青峰は彼女の秘部へ自身の亀頭を擦り合わせる。焦れた気分が更に男の性器を固くする。平均的な成人女性の手首程ある青峰の性器は、興奮で脈打つ度にビクリと動く。すっかり準備万端となったお互いの熱い器官。正しい使い方をするのに、何の問題がある?

「……嬉しいだろ?なぁ、○○」

 初めて相手を名前で呼んだ青峰は、ゆっくりと腰を進める。避妊もせず、目を逸らし嫌がる彼女のナカへ、その身の一部を埋めていった。