部屋に着くなり火神は自身の頭をワシワシと掻き乱し、纏めていた髪の毛を乱雑に戻す。続いて難しい顔をしながら溜め息をひとつ付き、右手でネクタイを緩めた。ボサボサながら何時もの彼に戻ったのを見た○○は、リビングの入り口でパーティードレスの裾を掴んでモジモジしている。


「何だ? トイレなら玄関からすぐ右に……」

 デリカシーの無い火神に、彼女は「トイレは大丈夫だよ!」と頬を膨らませた。その幼い仕草に火神は声を上げ、気持ちよく笑う。

「ケーキ食うか?」

 マンションに戻る途中、火神はコンビニで安くなったホールケーキを買っていた。少女が「まだ食べるの?」と驚けば、さも当然のように「デザートは取っておいたんだよ」と返される。脅威の胃袋具合に○○の方が胸焼けしそうだった。


 ……………………


 静かな室内に年頃の男女が共に居るとなると、こうなるのも自然な事で、火神は○○の後頭部を抱え甘く深いキスをした。ほんのり鼻に付く彼独特の体臭は、今は嫌じゃない。焦れったい気分にしてくれる。以前無理矢理にキスされた黒いソファーに向かい合って座った。彼女のボレロとパーティードレスは背もたれに掛けられている。丈の長いキャミソールはベージュ色で、火神のワイシャツがと身体が密着しているのをサテン越しに感じた。

 こんな事をしているのに、彼女の頭の中では未だ青峰が誰かを抱いているシーンが浮かぶ。強烈に胸が痛くなった○○は、相手の肩に置いていた手を外し首元に腕を巻き付けた。

 忘れたかった……。せめて青峰が誰かと甘い時を過ごしている今夜だけでも――。優しい火神を都合良く扱っているみたいで、彼女はそんな自分が嫌いになった。

 サイドテーブルに置かれたホールケーキは二人分にしては大きなショートケーキで、大きな苺が自分達が主役だと言いたげに鎮座している。

「苺、やるよ……。ホラ」

 人差し指と親指で摘まんだ苺を口元に運ばれた○○は、素直に唇を開く。綺麗な形の熟れた苺は輝き、歪に付いてきた生クリームの塊もオマケに連れてきた。恥ずかしがりながらも、火神の誘導した赤い果物を喰わえる。

「まだ潰すなよ……そう、軽く噛んで。最後まで耐えたらご褒美やるよ」

 半開きで、力も込められない口元は少し痛かった。苺が口内に転がらないように後ろから舌で押さえる。そんな風に顔を赤くしながらも素直に従う彼女を鼻で笑った火神は、シャツを脱ぎ、ご自慢の鍛え上げた肉体を披露した。厚い胸元から六つに割れた腹筋、僅かに括れたウエスト……。無駄の一切を削いだ筋肉質な肉体を持つ青峰より少しだけ逞しい火神は、まさに【アスリート】と呼ぶに相応しい。

 彼は大きな手で彼女のキャミソールをたくし上げる。サテン製のソレは肌を滑り、白い肌を露出させた。明るいライトの下、下着姿になった○○は横を向いてしまう。黒を基調に赤い刺繍で薔薇が描かれた下着は、彼女からしたら勝負下着に分類するのだろう。可愛くも色気のあるブラジャーは男により外され、小さい乳房が眼下に晒された。

 ホールケーキに右手を伸ばした火神は、デコレーションされた生クリームの塊を掬い取る。苺に似た形で絞られた甘い乳製品を、彼女の小さな胸へデコレートした。その行動に驚いた○○は、肩を震わせながら目線を自身の胸に向けた。目が合うとまた横を向き目蓋を閉じてしまう○○に、火神はクスクス笑うのだった。

 ベロリと出した赤い舌が生クリームを掬う。ほんの少し触れた舌に相手の身体が跳ねたのを確認すると、腰を抱き胸元にしゃぶり付いた。男の舌先は甘い生クリームを伸ばすように動かす。乳房の中央にある乳首は自然と捏ねられ、カタチの良い突起は固くなり火神の口内で翻弄される。

「……っ、ぁっ!! あ……っ」

 食わえた苺を潰さないようにしても、歯は少しずつ赤い食物へ食い込んでいく。彼女の口内には、果汁の甘酸っぱさが広がる。

 跳ねる○○の腰を強引に押さえた火神は、更に激しく胸を愛撫する。円を描くように舌先で擽り、吸い付き、そして甘く噛み付く。少女の腰に回していた手は下半身を隠す下着へと伸び、尻元をイヤらしく撫でながら少しずつ下がっていく。○○は無意識に腰を上げ、火神の両手の動きをサポートしていた。口を離した火神は「腰、浮いてんぞ?」と意地悪に笑い、彼女の下着を足首まで一気に引き摺り落とす。

「……思ってたよりも淫乱なんだな」

 ソファーに横たわった○○の恥ずかしい部分は、陰毛すら濡らしていた。火神の真っ直ぐな視線が刺さる。太い両親指で閉じた秘部を開かれると、ヌチッ……と淫靡な音がした。溶けたように濡れる性器周りの赤さに、男は下半身の膨張を感じる。

「苺みてぇな色……」

 火神はそうやって、素直な感想を告げる。

「ソレ、もう噛んでいいぜ?」

 自分の唇を指差した火神に、苺の咀嚼を許可される。カタチの良い○○の口の端からは、僅かな唾液が漏れていた。その筋は彼女に淫乱さを付加する。だからなのか、火神は妙案を思い付いた。ゆっくり噛んでいる彼女の顔までグッと近付き「飲み込まないで、口開けろよ」と囁く。

 従順な彼女はゆっくりと口を開けた。火神はそこに素早く口付けをすると、自身の舌を割り込ませる。そうして、ぐちゃぐちゃに磨り潰された苺の残骸ごと○○の舌を貪る。甘くて酸っぱくて……苺の味を、少女の味だと錯覚した。○○も口内で自由自在に動く火神の舌を追い掛け、絡ませる。彼女は痛む顎も気にならない程の甘美なキスに、大胆になる自分を感じた。その間に火神のゴツゴツした手は、キスに感じている彼女の胸を揉みしだいていた。

 甘酸っぱく激しいキスを堪能し口を離した火神は、素早くケーキの方を見ると苺を一粒摘まみ、自分の口に放り込んだ。モグモグと咀嚼をし「うめぇな、コレ」と喜んだ。そんな食いしん坊で子供みたいな一面に、○○が微笑む。

「――デザートは取っておいたって言っただろ?」

 火神は彼女の膝裏を掴み、思い切り持ち上げる。腰から下が浮き、【まんぐり返し】と言われる体制になった○○は羞恥に悲鳴を上げた。肩に少女の足を乗せた火神は、またケーキから甘いクリームを掬う。今度は二本指で掬った為に先程より量が多い。

「……恥ずかしいか? 安心しろよ、キレイだから」

 キザなフォローを吐いた火神は、生クリームを彼女の膣周辺へとベッタリ塗りたくる。その焦れったい動きに○○腰がヒクリと動いた。男は指に付き中々離れないクリームも、濡れそぼった秘部にゆっくり突っ込み、数回出し入れをする。指が出てくる度にクチャ、クチャ……と恥ずかしい音が○○の両耳へ届いた。彼女の体温がクリームを液状に戻し始める。

「……青峰にもされた事ねぇだろ? こういうの」

 火神は顔を彼女の股部へ埋め、溶け始めた乳製品を舐めた。柔らかく熱い舌の感触は彼女からしたら新鮮だったようで、吐息しか出せずにいた○○の口からは遂に喘ぎが漏れてしまう。

「あぁ、ああん! ダメ!! やだっ……! あっ!」

 全体に塗り込んだクリームは甘くて、舐めきった後も余韻が残る。火神は舌で秘部を抉じ開け、ディープキスをするかのように中を掻く。すると、ドロドロした愛液が次々と溢れ出た。ナカに残ったクリームも全て掬い取るように舌を激しく出し入れする。止まらない体液の分泌、それを焦れったいと啜る。ジュルル、っと響かせた音に相手の大きくなった喘ぎが被さった。

 更に愛撫は進み、火神が敏感な突起の方へ舌を進めれば、○○の腰から下が激しく動く。そんな風に暴れられるから、火神が彼女を押さえる力も強くなる。男はその小さい性感帯を舌で何度も弾き、○○の喘ぎ声をより大きなモノにした。もっと感じさせたい火神は突起に被さっていた皮を剥き、舌を押し付け顔を更に深く埋める。

 彼女から見えるのは、唾液で先端が濡れ光る自分の胸部、抱き着かれた腰元、開かれた股関節。その間に顔を埋め必死に愛撫をする、上半身を裸にした男だ。

 掴むモノが無い○○は口を押さえ、下半身の海綿体を襲う強烈な快感に耐えた。火神の舌が動く度に腰が引ける。逃げたくても男性の強大な力で押さえられているので、抜け出す術は無い。少女は汗ばんだ声で声帯を震わせ、快感を逃がそうとした。

「かが、みく……っ!! やめ、やめて……やあぁぁっ!!」

 火神は股間の苦しさを感じた。口を離すと彼女の腰を下ろし、愛撫で濡れた口元を手の甲で拭う。肩で息をする彼女は身体が数回小さくビクついていた。

 火神は、相手の閉じられる事なく開いた股間へ指を滑らせ、中指を挿入する。○○は再度始まった責めに「んっ……、あっ」と声を上げた。チュクチュクとナカを引っ掻き回され、中指の先でキモチイイ部分を念入りに擽られる。

「ふぅん?」

 少女の膣内に性感帯を見付けた火神は、指を増やしソコばかりを引っ掻いた。激しくて背中にまで響く快感は、彼女に考える事さえ許さない。火神はそんな○○の苦しそうな顔を眺めていた。少女は口元を必死に押さえ、眉を潜め、目を瞑り身体の絶頂を待つ。

 そんな、はしたない○○から指を抜き、糸を引く愛液を眺めた火神は、虚ろな彼女に選択を迫る。

「――選べよ、オレか青峰か。……それで、オレを選べよ。そしたら入れてやるよ」

 彼は寂しそうに歪ませた表情で○○を見つめた。

 ――彼女を救いたい。いつの間にか芽生えた父性本能を超える感情は、独占欲を生んだ。その主たる理由は、奇しくも青峰と同じだ。考え方が似る二人は【コンプレックスを抱えた相手を出し抜く】と云うエゴに溢れた理由で、目の前の彼女を一時の錯覚だけで愛する。火神はそんな自分が嫌になった。だが、青峰に負けるのだけはもっと嫌だった……。

 ここで彼女がyesと答えても、何も変わらないだろう。身体の交わりが終われば、また彼女は青峰について思い悩むに違いない。だって彼女は体内に憎いライバルの遺伝子を迎え入れてしまったのだから……――。

 火神は、どれ程残酷な事をされても想い続ける○○の愛情が、【青峰大輝】ただ一人にあるのが堪らなく厭だった。

「"ハイ"って言えば、ナカ掻き回してやるよ。奥まで突いてやる。一番イイトコ擦ってやる」

 こんなみっともない誘い文句を囁いてまで、火神は彼女が自分を求めるのを願う。

「…………」

 彼女は何も言わない。首を振る事も無い。ただソファーに寝そべり横を向き、一部が削がれたケーキを眺めていた。


 ――――――――


 ……夢を見た。

 色褪せて、周りには何もない寂しい夢だった。ワールドエンドと云う言葉が脳裏を掠り去る。男は二本の足を地に着け、何も身に纏わずに立っていた。誰かが見たら、滑稽かもしれない。しかし、褐色肌の彼の陰部には一人の少女が顔を埋めていた。髪の毛で顔が見えない。色が無いから誰かも判らない。男はその髪を撫で、持ち上げてパラパラと落とした。

 ――もう誰でも構わない。

 初めて愛しさを抱いたあの幼なじみだったとしても、もう何だっていい。夢でしか彼女と交われないのならそれでも構わない……。多分、あれは"初恋"だった。十何年と続く長い長い初恋だ。悔しさと哀しさが愛しさを塗り潰す。

「……大丈夫?」

 一向に大きくはならない萎えた性器から口を離し、奉仕を止めた少女がそう呟く。あぁ、知っている声だ……。知らない人間を夢に招待した訳では無さそうだ。

 男は相手を立たせ、腕の中へその身体を引き寄せた。身を屈め頭のてっぺんに頬を付けると安心する。彼女も、二本の腕を彼の背に回した。

 そうやって世界が終わったこの場所で、裸のまま抱き合った。

「  」

 ――名前を呼ぼうとした、その瞬間に男は夢から覚める。


 ……………………


 目が覚めた青峰は、すっかり暗くなった室内で頭を抱える。昼過ぎから寝てしまい、痛む頭を押さえながら起き上がった。息を深く吐くと数回頭を振る。時計は23:23を差している。

「凄い時間に起きたな……」

男は呟き、鼻で笑った。

 世界は終わっていなかった。何時ものように回り続ける。自分が寝ているその間にも――。

 夢で逢った少女を思い出す。出会って数ヶ月、顔を合わせて数回……。その度に深く印象付けていく。

 アイツは何なんだ?
 何でオレなんだ?

 出なかった着信は3回。番号は未だに登録もしていない。だが、4桁目から3回連続して入る同じ数字が彼女だと教えてくれた。「判りやすいの」と言って微笑んだ居酒屋での相手が浮かぶ。彼はその彼女を考える事で、頭の中から【桃井さつき】を弾こうとした。二人の少女からすれば、酷く傲慢な扱いだ。その事に青峰大輝は気付かない。

 ――青峰は携帯に手を伸ばすと着信履歴を遡り、通話を開始した。月明かりさえ入らない暗い闇に携帯の明かりだけがボンヤリと光り、男の横顔を照らす。