「――ゴムなんか、無ェけど」

 青峰はそう言って、御座なりに確認だけはする。セックスをするなら避妊はしない、と遠回しに告げているのだ。○○は了解の意を告げようと彼の手を取り、手の甲にキスをした。少女漫画で読んだ仕草を真似しただけなのに「なんだよそれ! 社交界かよ!」と青峰は腹を抱えて笑う。

 部屋の電気が落とされた。エアコンで室内は程よい気温になっていたが、熱を持った身体を擦り寄せる二人には暑過ぎる位だ。

 もうすっかり準備の出来た彼女の秘部へ、自身の反り勃ったモノを擦る。――どのオンナとしても、部位から響く音は同じだった。青峰は少しだけ冷静になる。

 いつも寝ているベッド部分に横たわり、モジモジと口元を隠す相手に「ホラ、ちゃんと顔見せろよ」と伝える。手をどかし、少女が外していた目線を自分に向けた瞬間、相手のナカに突っ込んだ。

「ンっ……!! っあ、イジ、ワル……ッ!!」

 青峰のインサートに合わせ、必死に目を瞑った○○の身体は揺れる。頼りない胸元は重力で潰れ、白い肌に乳首だけが存在を主張していた。正常位のまま行為を始めた青峰は自分の上半身を起こし、寝そべる彼女の身体を上下に揺さぶる。腰を持って向こうを揺すれば、○○の喘ぎがより一層大きなモノになった。これに堕ちないオンナは居なかった筈だ。きっと彼女も一緒で、また自分を欲しがるだろう。膣内にある性感帯を自身の先端で擦ってやると、相手は口の端から涎を垂らし言葉にならない喘ぎが出る。

「ん……っ青、みねく……い、いっ……きもち、いっ……」

「そりゃ、こんなに締め付けてたら、良くもなんだろ」

 ○○は敏感な部分を激しく責められ、同時に言葉でも責められた。心と身体の両方で彼を感じる。そんな状態なのに、彼女の中では徐々に、"ある人物"への罪悪感が湧いて来た。

「黒子君っ、あん……! ごめ、ごめ……なさ……っ!!」

 ○○は黒子への謝罪を漏らす。その口から出た男の名に、青峰は思わず動きを止めた。彼女は顔を両手で隠し、今にも泣きそうな声で言葉を続ける。

「わたっ……黒子君が、優しいの……っ、知ってるの、にっ……あ、おみね君と……っ」

 青峰は、頭を何かで殴られたような衝撃を感じた。

 ――何でコイツはテツに謝ってんだよ。彼女の中に潜んだ黒子の影に、青峰は嫉妬した。悔しい。何でだ? 何故オレで満たされない……!? 先程確信した黒子への勝利が、砂の城のように崩れていく。

「テツは関係ねぇよ!!」

 青峰は怒鳴った。急に出された大声に○○の身体が跳ねる。

 もっとオレを見ろ! オレだけ見てろ!!

 浅黒い手で掴んだ白い腰元を激しく揺さぶり、性器で○○のナカを掻き乱す。すると、彼女の喘ぎが一層激しさを増した。

「あああぁんっ、あっ……激し、やっ………!!」

「いくらでも、激しくしてやるよ」

 だからオレで頭を一杯にしろよ……!!

 褐色肌の男は、声に出せない悲痛な叫びを打ち込むように彼女の奥へ、奥へと身体の一部を侵入させる。結合部は○○の愛液ですっかり濡れ、快感の果てに滲み出た多量の愛液で、シーツの一部が透けていた。もしかしたら、相手は潮を吹いたのかもしれない。

「……何こんなに濡らしてんだよ。見ろよ……オレの布団、ビッシャビシャじゃねぇか」

 青峰は悪戯に言葉で責め始める。怒ったような口調で恥ずかしい部分を指摘された○○は、身を捩った。

「んうぅ……ちが、違うの……っ」

「違う? じゃあ何だよ、コレ……漏らしたのか?」

「いやぁぁ……! 漏らして、な……ああぁん!!」

 乳首をつねられ、引っ張られた○○は絶叫する。青峰の責めが乱暴で、強引なモノになっていった。男は必死に腰を打ち込み、彼女をナカから支配していく……。粘りがあった愛液が、いつの間にか濡れ過ぎてサラサラしたモノへと変わっていた。少女のお尻まで垂れた液体が、また青峰の敷き布団を透けさせる。

 青峰はベッドが激しく軋むのも、彼女が大声で喘ぐのも気にしない。隣に聞こえるのなら、聞かせてやれば良い。枕とシーツを掴み欲望に堕ちていく彼女の、汗ばんだ胸を力強く揉みしだく。息が跳ね、ヌルヌルになった性器を必死に膣内へと打ち付けた。狭い入り口からうねる内部、腰を押し込めれば最奥へたどり着き、先端に圧迫感を感じる。その部分に亀頭を擦り付けるよう腰を動かすと、己の背中に回った彼女の指が強く食い込むのを感じた。

「いっ……やっ、だ! ソコ、やっ……!!」

「ちゃんと、喋れよ……。ソコって、ドコだよ? ココか?」

 青峰は言葉で意地悪をしながら、少女の最奥を集中的に責める。強烈な性感帯を擦られ、○○の背は仰け反った。やがて内部がヒクヒクと痙攣を始めた。絶頂が近いのだろう。強大な青峰の性器を締め付け、奥へ引き摺り込もうとする。その本能的な動きに、青峰は腰を引き下げ慌てて性器を取り出した。彼女の腹の上で二、三回手淫をし射精を促した彼は、白濁液を目の前でグッタリしたオンナの腹部へ放出する。


 ……………………


「――泊まってけよ」

 時計を見ると日付が変わりそうだった。男は、ベッドの上で体育座りをして足の爪をいじる相手へ声を掛ける。俯いたままの少女は頼りなく、小突いたら粉々に砕けそうだった。そんなちっぽけな存在の○○は、首を横に振りぽつりと断る理由を口に出す。

「……着替え、持ってきてない」

 青峰はクローゼットを開けると、服の山に埋もれているロンTを引っ張り出し、匂いを嗅いで確認した。そして丸めたソレと質問を彼女へ放り投げてやる。

「他に理由は?」

 ○○は返事の代わりに、足元から少し外れた場所へ落ちたTシャツを手繰り寄せた。着てみたけど、裾と袖口が余った。腰元に付いたタグを見てみるとサイズは3Lだ。淡い水色のシャツは、どことなく黒子を思い出させ胸が痛くなる。

「――黒子君とは、どういう仲?」

 すっかり温くなり、気の抜けた缶ビールで喉を潤していた青峰は、缶から口を離し黙り込んだ。

「腐れ縁だよ。中学からのな」

 数秒間の沈黙を破り、青峰は答える。カツン、と空になった缶とガラスがぶつかる音がした。

「――お前は、あぁー……」

「○○だよ」

「……苦手なんだよ、名前覚えるの」

 バツが悪そうに言い訳をした青峰を「名札付けようか?」と無邪気にからかえば「もう覚えたよ」と気まずそうに向こうも笑った。

「目のソレ、取った方がいいぜ。オレは好きじゃない」

 青峰は自分の短い睫毛を指で弾き、付け睫を外すように催促をする。言われた通り素直に外すと、ほんの少しの解放感にホッとした。慣れない程に長い睫毛は可愛かったけれど、少女は心身共にどことない重さを感じていたみたいだ。

「あぁ、やっぱソッチの方が良いな」

 褒められながらも、背伸びしたお洒落を否定された○○はまた顔を赤くする。有り難い事に、チークとファンデーションがそれを隠してくれた。

 青峰は、ベッドの縁に腰掛ける。木製の安いベッドはギシリと音を立て、彼の重さ分だけ軋む。○○も、ソロソロとその隣に移動した。

「お前……オレの事、もっと知りたい?」

 頭を大きな手のひらでグリグリと撫でられ、そう聞かれる。○○は、その乱暴な扱いにさえ喜びを感じた。

 「……知りたい」と答えると、その手は今度、優しく髪を透き始める。ニヤリと口角を上げ笑う青峰は目だけ真剣で、彼女を見つめた。

「……オレは言う事が、コロコロ変わる」

 そう言いながら、どちらが先ともなく両者が目を閉じ、ゆっくり唇を合わせる。○○が生まれて初めて経験したキスは、ほんのりとビールの香りがした。一度離した唇をまたくっ付け、柔らかさを再確認する。髪を透いていた手は、いつの間にか彼女の頭を抱え込み、逃げられないようにしていた。


 ――――――――


 口を僅かに離した青峰が、吐息が触れ合う距離で囁くように質問をする。

「――明日、何時?」

「……朝の、7時かな」

 ○○は顔をずらし、青峰の肩におでこを付け質問へ答える。顔を相手の耳元へ近付けた青峰は「オレ、明日暇だから一日中エッチしようぜ?」と囁いた。そんないやらしい提案を出され、彼女は恥ずかしくて顔から火が出そうになる。

「一限あるから……ごめんなさい」

「サボれよ、そん位」

 青峰は自身の性欲の為だけに、あっけらかんと無茶を言う。彼の言葉へ「そんなぁ」と情けない声が出た○○は、困った顔をした。

「駄目だよ、明日ソレ終わったら友達とご飯行くし……」

「じゃあソレもキャンセルしろ」

 青峰は『当然だ』と言わんばかりの顔で首の裏をボリボリ掻きながら、傍若無人っぷりを発揮し出す。更に男は、○○が鞄から取り出した手帳とにらめっこしていると、ニヤニヤして後ろから首筋にキスをしてくる。

「お前は、オレの相手だけしてろよ……」

 首元にくすぐったい愛撫を受けながら、甘い台詞を囁かれた○○の左手からは手帳がすり抜け、音を立て床に落ちた。

 その様子に一頻り爆笑した青峰は、満足そうに欠伸をし「……寝るか」と横になる。「お風呂は?」と聞けば、ドアの方向を指差される。○○は、そう云う意味で聞いた訳では無いと困り果てた。そんな彼女を尻目に、青峰は寝息を立て眠りの世界へ旅立ってしまった。

 その寝顔はやはり格好良く、凛々しい眉の間には皺が刻まれている。

 こっそり頭を撫でた○○は、空いているスペースに横になり、足下に丸まっていた布団を青峰と自分の身体に掛けた。息を吸うと、彼の匂いで満たされる。

 ――この匂い、好きだなぁ、青峰君の匂いだからかな……と変な事を考えてしまう。

 門限破りの不良娘からサボタージュまでする極悪娘にならない様、明日の朝に何と言ってここを出ようか……。

 ウトウトしながら少女は考えるのだが、答えは出なかった。