弟の話


なんとか連隊戦を続け、玉数も集まってきた。

「よーし、歌仙さん準備良いね?」
「ああ、任せてくれ!」

ぐ、と握り込む拳に、頼もしさを覚える。手元には、三枚の通行手形。政府から支給された午後の分だ。この三枚を消費し終わる頃には、きっと膝丸さんが来ていることだろう。
頼もしい背中を見送る。さて、こちらも新しい刀剣男士を迎える準備といこう。


「髭切さん」
「ん、ああ、なまえ。どうしたんだい?」
「今日、膝丸さん……弟さんを、お迎えするから、知らせに来たよ」

少し広めの部屋に一人、くつろいでいた彼にそう告げると、ゆっくりと私の言葉を噛み締めたのか、しばらく変わらなかった顔が、じわじわと喜びに彩られていく。

「そうか……そうかぁ、来るのかぁ」
「はい。彼らが帰還する頃には、きっと」

にへらと、眦を下げて笑う彼に、こちらもつられて微笑む。

「とりあえず、今日過ごすためのものが必要だから、髭切さんも、準備手伝ってくれないかな?」
「うん、任せてよ」

二つ返事で頷いてくれた彼と連れだって部屋を出る。近侍代わりの山姥切くんに声を掛ければ、政府に頼んでいた荷物をまとめてある部屋まで案内してくれた。そこには、布団を始めとする生活に必要な道具が一式、揃えてある。

「じゃあ髭切さんには、お布団を運んで貰おうかな。山姥切くんは、食器類を運んで貰って……」

指示を出せば、てきぱきと動いてくれる。時折、私たちを見かけたひとが手伝ってくれるので、思いの外スムーズに膝丸さんをお迎えする準備は整った。進軍状況をタブレットで確認してみれば、こちらも特に大きな問題もなく、順調のようだ。
通信ボタンを押すと、数コールの後応答がある。どうやら通話は可能な状況らしい。

「歌仙さん、どうです?」
『ああ、なまえか。二度目の連戦を突破したよ。あと一度、だ。……博多』
『今御歳魂の数は49900弱、ここを抜ければお迎え出来るばい!』
「うん、了解です。ええと、疲労は大丈夫かな?」
『全員大丈夫だ。このまま抜けるよ。なまえは、ただ待っていてくれればいい』
「……はい。じゃあ、待ってます」

ぷつりと通信は途絶える。この調子ならきっと、いくらもかからず帰ってくるだろう。
ひょこり、顔を出した髭切さんに笑えば、彼も緩やかに笑んだ。

「もう少しで来るって」
「そうか、楽しみだねえ」


最後だからか、特に気合いが入っていたのか、かなり良い状態で連戦を抜けてきた彼らは、帰還してすぐに御歳魂数の記載された表を差し出してきた。こんのすけ経由で政府に連絡を入れれば、数秒後には手元に一振りの刀が降りてくる。
連隊戦を駆け抜けた彼らと、隣で目を輝かせる髭切さんを一度ずつ見て、ぐっと、力を込めれば。


「源氏の重宝、膝丸だ。ここに兄者は……、ああ、来ていたな」

少しつり上がった眦を、髭切さんとそっくりに下げて、新しい仲間は微笑んだ。
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