年の瀬の話


大皿に山と盛られた料理。大量の酒瓶。いつもよりも豪勢な広間に、49人の刀剣男士と、審神者の私。

「じゃあ、今年一年、お疲れ様でした! まだまだ戦いは終わりそうにないけれど、ひとまず年の瀬と言うことで、今日くらいは羽を伸ばして欲しいなと思います。はい、乾杯!」
『かんぱーいっ!』

めいめいが、自分のグラスや湯飲みを持ち上げて唱和する。喉を潤せば、あっという間に広間は喧噪に包まれた。

「……、一年、かぁ」
「ああ。なんだかんだ、季節を一周してしまったね」
「本当にねー」

戦いは激化していくが、本丸の賑やかさも増していく。特に、昨日ぎりぎりで滑り込んだ髭切さんを加えて年の瀬を迎えることになるとは思わなんだ。

「初めはどうなることかと思っていたけれど、存外、ここでの生活も悪くはないよ」
「本当? 歌仙さんがそう言ってくれるなら、これ以上嬉しいことはないね」

私を挟んで、右に歌仙さん、左に前田くん。最近これが定位置化している気がする。
歌仙さんはお猪口で酒をあおると、ぽつりと零すように言葉を紡いだ。

「たった一人で足を踏み入れた本丸で、前田が来て、小夜にも会えて。春を過ぎた頃には君に会うことも出来て、こうして一緒に年の瀬を過ごせている。過分な生活だと、今でも思うよ」
「……歌仙さん」
「だが、この賑やかさが無くては、寂しいとすら思うようになってしまったからね。やはり、僕はこの本丸の刀剣男士だなと、改めて思った次第さ」
「っふふ、最古参の言葉には重みがあるねぇ」


きんと冷えた寒い冬に、この本丸は、一人の刀剣男士を迎えた。本丸で過ごす数は、日を追う毎に増え、寒さの厳しい中、戦いを繰り返した。寒さも和らぎ、春を迎え、季節の移り変わりを、肌で直に感じたことに気付いた、あの時の感動は、今でも忘れられない。吹き抜ける風が熱を孕む頃、僕は、僕を呼び起こした主に出会うことになる。
それからの本丸と言えば、彼女が来る以前よりももっともっと賑やかで、息つく暇も無いほどだった。蝉たちの鳴き声が響く夏の最中、主である彼女の名前を知ることになった。
風が冷え、庭の木々が色づき、葉が落ちて、雪を知った。目まぐるしく過ぎ去った日々は、ひとつひとつが、初めてのものばかりで、きっと、忘れることはないだろう。

本当に、忘れることなど出来そうにない、一年だった。


「ところで、なまえ。来年の抱負はあるのかい?」
「抱負? うーん、とりあえず今の連隊戦で膝丸さんをお迎えすることと、明石国行の発見かな。……結局年内には連れてくることが出来なくて、来派のふたりには寂しい思いをさせてるしね」
「あのふたりは、あまり気にしていないようにも見えるけれどね」
「それでも、会えるのならば、会わせたい。でしょ?」
「ああ、まったくだ」

歌仙さんの同意を受けて、私は自分のグラスからお酒をいただく。うん、流石、酒飲みさん達が吟味して出したお酒なだけあって、とっても美味しい。
まあ、明日も同じように良いお酒がたくさん並ぶんだろうけれど。

熱の冷めない広間を見やって、今年一年を思い返す。初めてゲームにログインしたときのこと、初期刀を選ぶのに悩みに悩んで時間をかけたこと。歌仙さんと一緒に、戦場へと行ったこと。
仲間が増えたこと、怪我をさせたこと、イベントのこと。
簾を取り付けた日、落ち葉で焼き芋をした日、初めての雪にはしゃいだ日。
毎日が、彼らとの思い出に彩られている。

「また、来年もよろしくね、歌仙さん」
「ああ、こちらこそ。そろそろ就任一年の貫禄を見せて貰いたいね、なまえ」
「うっ」

はは、と、歌仙さんは、ほんのり色づいた頬を緩めて、優しく笑う。
きっと来年も、楽しい年になるだろう。
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