思いがけない話


既に日付も変わろうかという深夜。こんな時間帯に出陣させて申し訳ないけれど、収拾系イベントは時間のあるうちに走らなければ、いつ何時、どんな急用で予定が狂うか分からないものだ。睡眠時間を削っても、イベントに精を出す。オタクの悲しい性である。

「それにしても、なんだか静かだなあ……」

連隊戦のため、本丸に居る刀の半数が出払っている。全部で48振だから、本当に綺麗に半分だ。いつもは賑やかな本丸が、少しだけ寂しく感じるが、感傷に浸っている暇など無い。
大晦日の宴会、そのまま年明けのおせち作りも。年末年始だもの仕方ないね!
彼らが初めて迎える年越し。できれば賑やかな思い出を、作って貰いたい。そう思えば、やる気も出てくる。

「なまえー! こちらのじゅんびはおわりましたよー!」
「後は正月の分だけだぜ。俺たちが何か手伝えることはあるか?」
「今剣くん、御手杵くんも。ありがとうね。こっちも殆ど終わったよ」

料理にお酒、おせちの食材。本丸の大掃除もしながらの作業だったけれど、これだけ人数が居ればなんとか回るものだ。手を洗いながら、伝えに来てくれたふたりに返事をする。

「あつしが、おさけをよういしてくれていますよ。かるいものだから、ねざけにどうですか?」
「色々とお疲れ様、ってなぁ。ま、日本号にせびられたのもあるみたいだけどな」

あいつらが帰って来たら、今日はもう終いだろ? と、御手杵くんが言う。

「酒でも飲んで、あいつらが帰ってくるの待とうぜ」
「はやくしないと、日本号にぜんぶのまれちゃいますよー!」
「ああ、うん、そうだねぇ」

タオルで手を拭いてから、彼らに着いて広間へ向かうことにする。今剣くんたちが言ったように、確かに広間にはお酒が用意してあって、けれど彼の予想通り、日本号さんがだいぶ飲んでしまったようだ。

「大将、お疲れ。寝酒に一杯、どうだ?」
「なまえさんのぶんは、こっちに、取ってある、から」

どうやら小夜くんが確保してくれていたらしい。さすが黒田に縁があった彼ららしい、と言うべきか。小夜くんが差し出してくれたグラスを受け取り、ひとくち、含む。度数はあまり高くないようで、ふわりとアルコールが仄かに香った。

「ありがとうね、小夜くん。……仕事終わりの一杯は、身に染みるねえ……」

お礼の意味も込めて小夜くんの頭をゆっくりと撫でる。照れたのか、目線を逸らすけれど、嫌がる素振りはないようなので、そのまま撫でることにした。

「……ああ、なまえさん。こちらでしたか。出陣していた面々が帰還しましたよ。……どうか、すぐに、行ってあげてください」
「……? はい、ありがとうございます、宗三さん」

せっかく小夜くんが確保してくれていたお酒だけれど、彼らが帰還したなら迎えに行こう。もう一度、小夜くんにお礼を言ってグラスを机上に置くと、「帰ってくるまで、僕が見ててあげる」と実に頼もしいお言葉を頂いたので、一つ頷いて、本丸の門へと向かうことにした。


「それで、広間に行ったら小夜くんが私の分だ、って、お酒を取り置いてくれていてねー」
「そうだったんですね。ええ、小夜は、あなたと一杯交わすのが、好きみたいですから」
「私の飲むペースが、小夜くんに合うのかもね。あ、今度宗三さんも一緒にどうかな、江雪さんも」
「おや、誘っていただけるなら、是非」

宗三さんと、とりとめもないことを話していれば、門にはあっという間に着いた。大倶利伽羅さん、獅子王くん、薬研くん、光忠さんの、それぞれ部隊を率いてくれていた四人が一歩、前に出ていて、その後ろに出陣していた部隊のみんなが揃っている。物吉くんの時と同じ、本丸に帰ってくれば綺麗に傷は治るので、彼らに怪我の後は見られない。……疲労している顔がちらほら見えるので、うん、今日はもう早くお風呂に入って休んで貰おう。

「お疲れ様ー。やっぱり敵が強いかな。どうだった、この編成なら連戦抜けられそう?」
「どうだろうなぁ、俺の部隊で離脱が出たりしてたから、まだ微調整が必要かもな」

獅子王くんの言葉に、なるほど、と頷く。今日の戦績は明日の編成に活かすことにしよう。後で彼らから詳しく報告を受けることにして。

「えっと、そういえば、宗三さんが「すぐに」、って言ってたんだけど、何かあった?」
「ん、まあね。……はい、なまえちゃん」
「ん?」

ぽん、と光忠さんが鞘に入った刀を出してくるので、私は思わず「いつものように」、手を出して受け取り、顕現させるための力を込める。
力を込めている最中、見慣れない刀だな、と、ふと、思って。


「源氏の宝重、髭切さ。君が今代の主でいいのかい?」
「…………、…………ひげ、きり?」
「うん、髭切だよ」

白い髪に、白い衣服。黒いシャツが、印象的な、その、彼は。

「……え、えっ、あ、……えええ?」
「ははは、混乱してる混乱してる」
「光忠さあああん!?」

思わず、最終戦を抜けたであろう彼の名を呼べば、光忠さんはますます笑うばかりだった。全く、ほら、光忠さんの後ろで鶴丸さん大爆笑じゃないか。

「……はあ、まあ。うん。……えっと、改めて、初めまして。この本丸で審神者を勤めています。みょうじなまえです。これから、よろしくお願いしますね、髭切さん」
「うん、よろしく頼むよ」

手を差し出し、握手を交わす。またいっそう、賑やかになるなあと、私は小さく笑みを零した。


「さて、と。じゃあ、後は弟さんのお迎えだね。明日からも頑張ろうー!」
「ああ、あいつも居るのか。……ええと……、なんと言ったかな」
「膝丸さんだよ、髭切さん!」
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