雪の話


普段よりも着込んだ衣服の上に、コートとマフラー、手袋も。できうる限りの完全防寒で庭に出れば、既に取りかかっている面々が見える。

「お待たせー」
「ぷっ、大将、服でだるまみたいになってるぜ?」
「厚くん、思っててもそういうことは言わないのー。お洒落のために寒いの我慢できるのは若い子だけですー」

白い息を吐き出しながら、厚くんのからかいに答えれば、若い見た目で何言ってんだ、と返された。さらりと言うもんだから短刀こえー、と内心震える。

「厚、なまえさんは冷えに弱いんですから、着込むのも道理ですよ」
「そっか、なまえ冷え性なんだっけ」

前田くんがフォローしてくれたので、そうだよー、と肯定する。既に手袋の下が悴んでいるが、雪だるま作りで身体を動かせば少しは温まるだろうか。

玉をころころと転がしている面々を見やる。五虎退くんなんかは、転がしている玉に、興味を持った虎がじゃれついて、なかなか大きく作れないようだ。薬研くんや秋田くんの玉は若干いびつだ。秋田くんは転がすのが楽しくて、玉の形はあまり気にしていないのだろう。薬研くんはひたすら大きく作ることが目的のようだ。
小夜くんも若干玉の大きさがいびつだが、ちょいちょい宗三さんや江雪さんが手を加えている。
鯰尾くんと骨喰くんは既に雪だるまを完成させていた。どっちが作った玉が綺麗かで言い合っているみたいだけれど、上も下も大して変わらないように見えるので、たぶんどっちもどっちだ。骨喰くんは意外と几帳面かと思っていたけれど、やっぱり鯰尾くんと兄弟なんだなあとほっこりする。

物吉くんと後藤くん、蜻蛉切さんはお手本のような雪だるまを完成させていて、今は飾り付けに夢中のようだ。あれがいいこれがいい、と話し合う物吉くんと後藤くんを、蜻蛉切さんが微笑ましそうに見守っている。
乱くんは、加州くんと一緒に飾り付けを楽しんでいるが、物吉くん達よりも華やかに見えるのは気のせいでは無いだろう。少し後ろの方で安定くんが襟巻きに顔を埋めている。もしかして安定くんは寒さに弱いのかもしれない。
虎徹兄弟のところは、個性的な雪だるまがみっつ、並んでいる。きっとそれぞれが作ったんだろうなあ。小さな言い争いが聞こえるが、私が出るほどでもないだろう。後でじっくり見ることにしよう。

愛染くんと蛍くんは、博多くんや和泉守さんたちを巻き込んで雪合戦のようだ。時折変な方向に飛んでいっては、無関係の誰かを巻き込んでいる。あ、同田貫さんが参戦した。獅子王くんと陸奥守さんが面白がって追加参戦している。長谷部さんは、きっと博多くんに引っ張られて参加したんだろうなあ。……被害が大きくならないことを祈るばかりだ。
一期さんはカメラを持って、みんなが作った雪だるまを写真に収めている。弟たちが可愛くて仕方が無いという笑顔は、見ているこちらも暖かくなってくる。
……ところで、弟さんの一人、平野くんが見当たらない、ときょろきょろ見渡せば、縁側で、鶯丸さんと三日月さんと並んでお茶をしているところを見つけた。平野くんも結構着込んでいるし、寒いのは駄目な方だろうか。

奥の方に見える、とても大きな雪だるまは、きっと岩融さん作だろう。今剣くんがぴょんぴょん跳ねては、木の実や枝を飾り付けていく。御手杵くんも近くに居るし、もしかしたら一緒に作ったのかもしれない。
三名槍の最後のひとりはどこだろうと探せば、三日月さん達から少し離れたところで早速酒盛りを始めている。次郎さんも日本号さんも顔が赤いから、既に相当呑んでいるのだろう。太郎さんのため息がこちらまで聞こえてきそうだ。
山伏さんはいつも通りの服だけれど、寒くないのだろうか。元気に笑っているし、大丈夫かもしれない。逆に山姥切くんは私と同じくらい着込んでいるかもしれない。彼の隣に座る石切丸さんは厚手の毛布を羽織っている。二人に差し入れを持ってきたのは光忠さんと歌仙さんで、白っぽいのが見えたからあれは甘酒だろうか。

みんなめいめいに楽しんでいるなあとくすくす、笑い声が零れる。前田くん達も、雪だるま作りに戻ったので、何をしようかと考えて、しゃがみ込んでから足下にある雪を少しばかり掬った。きゅ、っと握れば、楕円形が出来上がる。綺麗な丸にはほど遠いが、掌に鎮座する雪の塊を見て、ふとひらめいた。
雪の形を、半楕円形に近くなるよう整えてから、庭の端に植えてある、南天の実をふたつ、手に取る。ついでに同じ木の葉を、出来るだけ長く、形のいいものを2枚摘み取った。手袋をつけたままだとうまくいかないので、取り外してコートのポケットにしまう。実を目のように、葉を耳のように見立てて飾り付ければ。

「……おい、何してるんだ」
「あ、大倶利伽羅さん! へへ、どうだー、可愛いでしょ!」
「…………うさぎ、か?」

完成したところで背後から声を掛けられたので、振り向きざま、手に持ったそれを見せる。戸惑いがちに答えた大倶利伽羅さんに、私は正解、と弾んだ声を上げた。

「器用なもんだな」
「うーん、まあ、そう言って貰えると作った甲斐はあるなあ。どう? 大倶利伽羅さんも作らない?」
「遠慮しておく」

あんたが作ったのがあれば十分だろう、と言って、大倶利伽羅さんは踵を返した。うむむ、大倶利伽羅さんが雪うさぎを作るというイメージも難しいが、しかし見てみたかった。きっと可愛いうさぎを作れると思うんだけどなあ。

「あれは褒め言葉だろう?」
「ふぉぅ!?」
「っはは、なんて声を上げるんだ君は!」

どこから見ていたのか、鶴丸さんから声がかかる。鶴丸さんは、大倶利伽羅さんの背を見て、それから私の手中にある雪うさぎに視線を落とした。

「綺麗に作れているからな。あえて自分が作らなくても、ってとこだろう。……それに」

鶴丸さんは言葉を句切って、私の手に触れた。むき出しのまま、雪を頂く白みを帯びた手。

「心配してるんじゃないか? もう一つ作るとなれば、なまえが直に雪を触ることになるだろう。ただでさえ冷え性なのに、これ以上冷やして欲しくなかったのかもな」
「……そっかぁ」

大倶利伽羅さんも、何だかんだ初日からの付き合いだ。それに、私よりも付き合いの長い鶴丸さんが言うなら、それも正しいのだろう。言葉よりも、行動で雄弁に語るひとだ。

「じゃあせっかくだし、その雪うさぎは冷蔵庫で保管しようか」
「わ、青江さん!? もう、鶴丸さんといい、青江さんといい、いきなり話しかけないでよー」
「はは、ごめんね」

悪びれた様子など全くない笑顔で、青江さんは謝罪の言葉を口にした。「可愛らしいね……うさぎのことだよ?」、なんて言葉も添えて。

「でも冷蔵庫だと食材の邪魔にならないかな」
「その辺は、ほら、料理当番と要交渉、だね」

だねー、と肩を落とす。絶対残したい、というほどのものでも無いが、もし残して貰えるなら嬉しくはある。1日だけでも交渉できないだろうか。

「おや、なまえさん。その手に持っているのは、うさぎですかな?」
「あ、小狐丸さん、鳴狐さんも」

考えを巡らせていると、正面から、小狐丸さんと鳴狐さんが歩いてくる。所々雪を被っているのは、もしかして雪合戦に巻き込まれたのだろうか。ふたりは私の手元を覗き込んで、顔をほころばせた。

「うさぎ、かわいい」
「良く出来ておりますなあ! なまえ様、狐は作れないのですか?」
「おお、それは良い考えです。なまえさん、いかがでしょう」

狐かあ、ちょっと難しいなあ、と私は笑う。頑張ってみようかな、と言えば、狐の名を冠するふたりは嬉しそうに笑んだ。
- ナノ -