冬の話


連日、随分冷え込むなあと思っていたら、明くる朝は一面銀世界だった。そりゃあ、寒いわけだ。寒さでいつもよりも早い時間に目を覚ました私は、布団にくるまりながらほんの少し開いた障子の隙間から、庭を見やる。枯れ木も、朱塗りの橋も、真っ白な雪の帽子を被っている。
吐息は白く、目線を上げれば氷柱も見つけた。地平線から少し浮いた太陽の光を受けて、きらきらと氷柱が輝いている。一瞬、幻想的なまでの庭に目を奪われて、とんとんと、縁側を歩く足音に、我に返った。


「おや、今日は早起きだね。おはよう、なまえ。雪の音に起こされてしまったかな」
「……もう」

いつも寝ぼすけな私をからかって、歌仙さんが言う。吹雪いてもないのに雪の音で起こされるなんて、あるわけないのに。

「はは、すまない。しかし、昨夜は冷え込むだろうと言っていたが、まさか雪が降るとはね」
「……、今まで、降ったこと無かったの?」
「ああ。ここで雪を見るのは、初めてだ。この本丸にも、降るのだね」

本丸が機能して迎える、二度目の冬。もしかして今まで雪が降らなかったのは、景趣を買っていなかったからだろうか、なんてメタに邪推した。しかし雨だって降るし、雪が降っててもおかしくは無い。単に、本当に以前は降らなかっただけだろう。

「見て、歌仙さん。氷柱も出来てる」
「ああ、本当だ。日の光を受けていて、とても美しいね」
「雪も氷柱も、溶けちゃうかな」
「どうだろう。これだけ冷え込んでいるから、溶けきれないかもしれないね」

じゃあ、溶ける前に雪だるま作らなきゃだねえ、と言えば、短刀達や鶴丸さんと同じことを言わないでくれよと、どこか呆れたような、けれどしょうが無いなと言いたげな苦笑を頂いた。

「さあ、まずは暖かい格好に着替えておいで。それから、朝ご飯を食べよう。温かい味噌汁と、卵焼きを用意しているよ」
「ありがとう、歌仙さん」


今日も今日とて美味しい朝ご飯を頂いた後、ごそごそと物置を漁る。相変わらず急に物が増えていたりするこの物置だが、果たして探しものはあるのか。

「なまえ。あったよ。これだろう?」
「ああ、そっちにあった? ありがとう、歌仙さん」

奥の方から、うっすら埃を纏った障子戸を何枚か引っ張り出してくる歌仙さんに、私は笑みを浮かべた。障子戸は障子戸だが、今執務室で使っているそれとは少しばかり違う。腰板が付き、下半分は透明なガラス板がはめ込まれている。いわゆる、「雪見障子」、だ。

「冬ならば、やはりこれが欲しいところだね」
「せっかく雪も降ったしねえ」

ガラス戸越しに雪を見ながら、熱いお酒を一杯。今から考えても楽しみだ。

「……君は本当に、黒田の土地の子だね」
「ふふふー」

今日は日本号さんでも誘ってみようか。なんて、早くも夜のことに思いを馳せつつ、歌仙さんと一緒に雪見障子を引っ張り出した。
ひとまず執務室の障子戸だけ入れ替えて、他の部屋は各々に任せることにする。ガラスが無くてもいい、というひともいれば、ガラスにすると余計寒いから今のままがいい、というひともいる。歌仙さんは取り替える気満々のようだったけれど。

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