冷たい話
外気が下がり、辛い季節がやってくる。火鉢を置いても、こたつに入っても、なかなか改善されない。
「寒い……」
「おいおい、そんなに着込んでいて寒いのか?」
厚めの服にトレーナーを着込み、さらに火鉢に手をかざしている私が、そんなことを言い出すものだから、側に居た鶴丸さんが少し呆れたように声を掛けてきた。
私は無言で彼のそばに寄り、手を差し出して鶴丸さんの頬に触れた。
「……うわっ!?」
肩をびくつかせ、思い切り後退る鶴丸さん。目を白黒させているから、相当驚いたんだろうなあと思う。
しかしそれもすぐに変わり、慌てて私に近寄ってきて手を握り込まれた。
「ど、どうしたんだなまえ!? この手の温度は何だ!?」
指先がほんのり熱を持つが、鶴丸さんの手の温度には敵わないほど冷えているのが逆に浮き彫りになる。想像以上に驚かせた、というよりはむしろ、心配させてしまったようだ。
「……ええと、実は」
「冷え性? ……普段の食生活と運動不足がたたったんじゃないのかい」
「うぐっ……仰るとおりな訳ですが……っ!」
どうやら鶴丸さんの驚いた声は、結構遠くまで聞こえていたようで、光忠さんや歌仙さん、前田くんが広間に集まってきていた。鶴丸さんに手を握り込まれている状態を思いっきり見られたわけで、最初はみんなもぽかんとしていたのだけれど、鶴丸さんが慌てて「なまえの手が冷たいんだ!」なんて言うものだから、代わる代わる指先に触れられ、今に至る。全員ぎょっとした表情をしていた。わかる。自分でもこの冷たさ尋常じゃないっていつも思う。
実のところ、私は冷え性持ちで、特に冬場はこたつに足を突っ込んでいても、足先が異常に冷えていたりする。冷えの正体を告げたところ頂いたのが、先ほどの歌仙さんのお言葉である。ぐうの音も出ない。
「しかし、なまえさんが何かご病気にでもなられたのかと、心配しました……」
「ご、ごめんね前田くん……。毎年のことだから、こう、またか、って位の気持ちでいたから……」
鶴丸さんもここまで驚くとは思わなかった。反省しています。
「慣れとは恐ろしいものだな……冷え性だと聞いていたとしても、驚くぞ、これは……」
「うう、鶴丸さん本当ごめんなさい……」
「いや、いいさ。しかし、これだけ着込んで、火鉢に手をかざしても、温まらないものなんだな……。不思議だぜ」
むにむに、と再び手を触られる。少し血の流れが良くなったのか、ほのかに温かみを帯びた気がするが、それでも体温にはほど遠い。
「俺たちの本体とどっちが冷たいだろうな……?」
「流石にそこまで冷えてないと思う」
だろうな、と鶴丸さんは笑った。いつもの鶴丸さんの笑顔だ。
「じゃあ、なまえちゃんのためにも、今日は冷えに効くご飯にしようか。冬至には少し早いけれど、かぼちゃの煮付けとかどうかな」
「鯖もあったから、生姜煮も良いんじゃないかい」
「ああ、そうだね。そうしよう」
「では、今度の買い出しで柚子を買ってきましょう。ゆず湯は温まると聞いたことがあります」
とんとん拍子に決まっていく話し合いを聞いて、なんだかむずがゆくなってくる。
「ま、これをきっかけに食生活の改善と、運動不足の解消も試したらどうだ、なまえ?」
からかうような鶴丸さんの、至極もっともな指摘に、照れ隠しでぺしりと腕を叩くことにした。