おやつの話
はやる気持ちで、オーブントースターを覗き込む。じりじりと熱を浴びて、お餅の表面がこんがりと色づいているのが見えた。取り出すのがとても楽しみだ。少しずつ動く焼き時間のつまみが0に近づくのを見ていると、「なまえ?」と名前を呼ばれる。
トースターから顔を上げ、キッチンの入り口を見やれば、のれんからひょこりと顔を出した鶯丸さんとぱちり、目があった。
「何をしているんだ?」
「ん、お餅焼いてる」
私の答えに、鶯丸さんが横からオーブントースターを覗き込んだ。なるほど、と頷いて、確かに餅だな、とどこか嬉しそうに笑う。
「鶯丸さんはお茶?」
「ああ。ちょうど八つ時だったからな。茶菓子でもと思って、探しに来たのだが」
「なるほど。じゃあ、一緒に食べない?」
まだ焼き時間を少しだけ残した、オーブントースターを指差せば、鶯丸さんは「いいのか?」と弾んだ声で聞いてきたので、私はしっかりと頷いた。
「美味しいものは分け合うともっと美味しいからね!」
広間のこたつに、二人並んで入る。目の前には、鶯丸さんが淹れてくれたお茶と、私が焼いたお餅。
「いただきまーすっ。……はふっ」
「俺も一つ、頂くか」
焼きたてのお餅は熱々で、火傷しそうなほどだ。軽く噛めば、薄い餅生地はにゅうっと伸びて、中から餡が顔を出す。
「ん、餅の中に、餡がくるんであるのか」
「そうだよー。ちょっと塩っ気があってこれがまた美味しいんだー!」
「……ああ、なるほど。確かに、美味い」
でしょうー? と自慢げに言うと、鶯丸さんは頬を緩めた。
「梅ヶ枝餅、って言うんだよ。太宰府名物」
「うめがえもち」
たどたどしく言葉を繰り返す様子が、なんだか可愛らしく見える。しかしあれだな、梅に鶯とは言うが、こう見ると鶯が梅を食べて……いやなんでもない。
もくもくとお餅を口にしている鶯丸さんは、どこか嬉しそうだし、それでいいや。
お餅を一端おいて、湯飲みに手をつける。甘塩っぱい餡子に、鶯丸さんが淹れてくれたお茶の渋みがちょうど良い。
「んー、しあわせ……」
「ああ。美味い茶と美味い菓子があれば、幸せだ」
にへらと、頬を緩ませ、鶯丸さんと顔を見合わせて笑う。全く贅沢なおやつ時間だ。