増える話


三度目となる大阪城の地下は、もう勝手知ったる、というものだった。最近仲間入りをした物吉くんを隊長に据え、小判収拾担当博多くん、敵殲滅担当の蛍くんと岩融さん。あとはレベルを上げたい人たちを順番に入れてがんがん進軍する。
前回よりも簡易化した地下に、弱体化した敵。疲労度や部隊のレベルを鑑みながら進めば、あっという間に地下50階に到達、無事に後藤藤四郎くんをお迎えすることと相成った。
……までは、良かったんだけれど。

「うーん……」
「ご、ごめんな大将、俺が来ちまったばっかりに……」
「いやいや、後藤くんは全然悪くないよ。大丈夫ー。まあ元々、本丸は広げなきゃなって思ってたんだよ。……ただ、後藤くんお迎えー! っていうのが先走っちゃって、部屋割りについてをすっかり忘れてたんだなあ」

はっはっは、と笑えば、笑い事じゃねえよ大将、と後藤くんに諌められる。しかしその表情は先ほどよりも柔らかい。何とか緊張を解して上げられただろうか。
そう、問題は部屋である。粟田口の部屋も、現在は12人で使っているのでだいぶ手狭だ。後藤くんの使うスペースが無いに等しいのである。……いや、ひねり出すくらいは……できなくは……!
とはいえ、無理矢理詰め込むのも気持ち的にしたくない。ということで、こんのすけの指示の元、ぱぱっと拡張申請を行うことにした。

「ええと、まずはこちらを……はいそうです。それからこちらを押して頂いて……はい、申請完了ですね」
「えっと、これでスペースが増えるんだっけ?」
「ええ。あとは使いたいようにご想像ください。なまえ様の思うままに、本丸は作られますので」

こんのすけ曰く、本丸の拡張申請とはデータ増量のようなものらしい。そもそも本丸とは審神者の思うがままに形を変えるもの。ただし使用できる容量が決まっている、ということだそうで。
今回、増やした容量は粟田口の部屋の隣に宛がった。行けばきっと新しい部屋へのふすまでもできているんじゃなかろうか。

「さて、思いの外早く済んじゃったし、じゃあ後藤くん、粟田口の部屋に行こうか」
「えっ、もう行けるのか?」
「うん、ほら。一期さん達が色々準備して待ってるだろうからね」

手を差し出せば、後藤くんはおずおずと握り返してきた。へへ、とほんのり頬を染めて照れくさそうに笑う姿に、心臓を打ち抜かれる音がした、気がした。……私より身長高いのに可愛いな後藤くん。
まだまだ本丸の構造を覚え切れていない後藤くんを引っ張って、粟田口が使っている部屋へと向かう。初鍛刀の前田くんもいるとあり、実は私の使う部屋と粟田口の部屋は近かったりする。そう時間を掛けずに部屋の前に到着すれば、ふすまは開かれていて、粟田口の面々がひっきりなしに出入りしていた。正面から、布団を抱えた一期さんが歩いてくるのを見かけて、思わず呼び止める。

「おや、なまえさん。と、後藤か。後藤を案内してくださったのですね。ありがとうございます」
「いち兄」
「お疲れ様です、一期さん。その布団は後藤くんの?」
「はい。今朝方届いていたので、先ほどまで干しておりました。……ふかふかですよ」

一期さんの言葉に、良かったね、と後藤くんに声を掛けるが、後藤くんは首を傾げていた。

「ふふ、寝るときになったら分かるよ。お布団ふっかふかだからね、きっと今日はぐっすりだよ」
「ふっかふか……? よくわかんねえけど、大将が言うんなら、楽しみにしとくぜ」

わからない、と言いながらにかりと笑う後藤くん。ううう、可愛い。お兄ちゃん弟さんを私にください……! とか考えてたら背筋がぞわっとした。あれっ私にもいち兄チェック入ったかな。

「ところで、なまえさん、その手は?」
「手? ……あ、ごめんね後藤くん、手繋いだままだったね」

一期さんに指摘され、慌てて手を離す。後藤くんは、ぐっぱっ、と何度か手を握ったり開いたりした後、満面の笑みを浮かべた。

「大将、手、柔らかいんだな!」

「…………粟田口天使か」
「自慢の弟たちですな」

思わず顔を覆った私に、一期さんは得意げに告げた。知ってた。
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