玉集めの話


秘宝の里、というイベントが開幕した。玉を集め、一定数集めたことを報告すれば、政府から様々な支給品が下りる。玉を4万集めれば、最近顕現が確認されたという、物吉貞宗を入手できるとか何とか。

「……コスパやばい」
「得てしてそんなものだとは思うけれどね」

歌仙さんの苦笑いを横目に、進軍指示を出す。何度か進軍して、部隊の編成も色々と弄くった結果、今は石切丸さん、蛍丸くん、太郎さん、光忠さん、大倶利伽羅さん、鶴丸さんに落ち着いている。出来れば大太刀でさくっと仕留め、また、強敵の攻撃も耐え切れそうなカンスト組、と言ったところだ。

「……しっかし、あれだね、そろそろこう、変化が欲しいな」
「ならば、何か曲でも奏でてみたらどうだい?」
「曲かー……」

部隊のみんなは頑張ってくれているけれど、何度も何度も同じ道を通り、玉を探す作業に疲労が見え始めている。何とか出来ないものかと口を突いた考えに、歌仙さんは提案を出してくれた。

「うーん、じゃあ、ハロウィン過ぎたけど、こう、『玉をくれなきゃ殲滅しちゃうぞっ☆』って感じで、ハロウィンの曲でもかけたら玉の入手増えるかも。ハロウィンの曲ー……、「朝までハ○ウィン」で良いか。えーいぽちっとな!」

音楽ファイルからお気に入りの曲を探し、再生ボタンを押す。軽快な音楽が流れ出したが、これ向こうの部隊にも聞こえてるのかな。気になりはしたが、歌仙さんから「部隊は僕が見ておくから、君は仕事を片付けたらどうかな」と促されたので、本丸にまで持ってきてしまった仕事に手を付けることにした。……くっそう、忙しい時期とイベント被ると本当大変。
仕事の準備をしていると、曲が半ばにさしかかる。と、歌仙さんが「なまえ」、名前を呼んだ。

「どしたの歌仙さん?」
「帰還だ」
「えっ?」

歌仙さんが見せてくれたディスプレイには、帰還の文字が躍っている。慌てて本丸の門へ急げば、確かに送り出したはずの部隊が帰還していた。

「は、早かったね……?」
「ああうん、それがね」

困惑する私に、光忠さんが苦笑した。なんでも、私が曲を再生した後、直ぐに薙刀札を2枚引いたらしい。

「で、強敵の攻撃で部隊長の石切丸さんが重傷。強制帰還だよ」
「そっか……2枚目なら仕方ないなー」

幸いなのは、本丸に帰還すれば怪我は綺麗さっぱり直ることだろうか。この進軍は運要素がとても強い。賽子の比じゃない。まあ、引いてしまったものは仕方がない。

「というわけで、今回の収拾はこれだよ、なまえさん」

隊長の石切丸さんが、玉を入れるための袋を差し出してきた。受け取ると、随分軽い。開いてみれば。

「10個」
「10個だよ」

にこにこ、石切丸さんは笑顔だ。うん、ありがとうございます。

「やっぱり御神刀にハロウィンの曲は駄目でしたね」
「そこかな!?」

光忠さんのツッコミが華麗に決まった。


まあこの後、めちゃくちゃ頑張った、ということで、秘宝の里解放期間を半分ほど残して、玉を無事4万個集めることが出来た。こんのすけを通して政府に連絡すれば、未来の技術で送信されてくる一振りの脇差。黒塗りの鞘に、装飾の綺麗な柄。
玉集めに尽力してくれた部隊のみんなを集めて、刀剣男士を顕現させる。力が収束し、ふわりと桜が舞えば。

「物吉貞宗と言います! 今度は、あなたに幸運を運べばいいんですか?」

蜂蜜を溶かしたような色の髪を靡かせ、同色の瞳が私を見つめる。

「……、うん、よろしくね、物吉くん!」

また一人、本丸の仲間が増えたことを、今は喜びたいと思う。
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