迷う話


何とか地下20階を制覇し、第一部隊が持って帰ってきた大量の小判をデータ化してしまう。現物も電子マネー化(物理)しちゃう未来の技術すげー。

「うーん、全景趣制覇、とまではいかんけど、けっこう貯まってきたね」
「今回も大量やったけんね!」
「そうやねー」

博多くんと二人、タブレットで現在の所持小判数を見てみる。これなら景趣を一つくらい増やしても良いかな、と思いながら景趣購入欄を開いてみた。博多くんが、興味深そうにタブレットを覗いては、ぱちくりとその大きな目を瞬かせていた。

「なまえさん、この、団子とかおにぎりの景趣ち、買ったら何かあると?」
「えっと、例えばお団子のやつを買ったら、本丸に団子が常備されるかな。無くなっても補給されるけん、買わんで良くなるんよね」
「へぇー。政府も太っ腹たいね」
「太っ腹……かな?」

こんのすけ曰く、これらのお団子やおにぎりはアクセサリーで、お金を払うのは「お団子」というアイテムを追加するための容量拡張費、だという。……有料レンタルサーバーの容量を、課金で増やせる仕組みに近いんだろう。多分。
買ったとしても、別段疲労回復などの効果があるものでも無いが、小腹が空いたときに簡単につまめるのはありがたい。執務室の茶箪笥に収納されるらしいし。何より一度買ったら無くならないし。……いやしかし、みんなのつまみ食いが増えそうだなあ。ついでに私の夜間間食も増えそうだなあ……体重が、増えるよなあ……。

「そろそろ秋の景趣も来るやろうし、とりあえず一つだけ買おうかなー、ち考えよるっちゃけど、博多くんならどれがよか?」
「んー、俺かぁ……。見よるとどれも欲しくなるけんね」
「だよねえ」

お団子、おにぎり、洋菓子、和菓子。悩むラインナップだ。
二人して頭を付き合わせてうんうん唸っていると、とたり、とたりと軽い足音が近づいてくる。顔を上げて音のした方を見やると、淡く微笑む三日月さんが居た。

「あれ、三日月さん。何か御用でした?」
「いや、特に用という程でもないが、強いて言うなら、なまえと話がしたかった、だな」

ことり、首を傾げる角度まで計算されたかのようだ。その微笑みで頼まれたなら頷く以外の選択肢がない。三日月さんまじ美人。
どうぞどうぞ、と座布団を出すと、三日月さんは鷹揚に笑いながら腰を下ろした。茶箪笥から急須と湯飲みを三つ、茶葉を取り出し、ポットのお湯でお茶を淹れる。三日月さんのお茶を手渡せば、ありがとう、と笑顔が返ってきてほっこりする。

「大阪城の20階を踏破した、と聞いたのでな。今なら時間があるかと思ったのだが」

何やら邪魔をしたか? と困ったように言われたが、私が言う前に博多くんが横から否定の言葉を口にしてくれた。

「別に大丈夫ばい。大阪城で見つけた小判の使い道ば話しょっただけやけん、みかじいが心配することなーんもなかよ!」
「……ま、そういうことですね」

私たちの返事を聞いて、そうか、と安堵したように三日月さんは微笑んだ。と、「あ、そうばい!」と唐突に博多くんが声を上げると、タブレットを持ってきて私に差し出してきた。首を傾げると、「さっきの画面ば出して欲しかとよ」と言われる。いくつか操作をして、景趣購入の画面を開いて博多くんに渡すと、博多くんはそれを三日月さんへと向けた。

「ね、ね、みかじい。みかじいならこの中の何が欲しか?」

いきなり向けられたタブレットに軽く目を見開いた三日月さんも、直ぐに眦を柔らかくして「そうだなあ」と博多くんと一緒にタブレットを覗き込んでいる。これが団子で、こっちがおにぎりで、と一生懸命説明する博多くんと、一つ一つ頷きながら話を聞く三日月さんを見てものすごく和んだ。……じじまごという単語が過ぎったが、喉まで出てきたが飲み込んだ。

「ふむ……どれも魅力的ではあるが……そうだな、茶菓子があると、とりあえず幸せになるとは思わんか、なまえ?」

タブレットから顔を上げ、私に向かってにこりと微笑む。確かに、こうしてここで誰かにお茶を出して、そして茶菓子もあれば、きっと幸せだろう。
「なまえさん、決まりばい!」とはしゃぐ博多くんの頭を撫でて、私はタブレットを受け取った。


これからしばらく、茶菓子目当てで執務室が賑わうようになったのだけれど、それを近侍に話したら「なまえちゃん、本当に彼らが茶菓子だけが目当てだと……いや、うん、良いよ僕はもう何も言わないよ……」と撫でくり回された。解せぬ。
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