頑張る話


次の日は、朝から書類の山を突きつけられた。思ったより多いぞ、こんのすけ……!

「こちらは担当に提出する書類ですね、それから主様は出向ですので、時間管理課の方へ提出する分と、こちらで言う主様の過去、に干渉する誓約書、それから歴史対策課にも報告が必要になりますね。管理課へは、主様の居た時代への干渉を行うために許可の申請が、対策課へは、ここに配属されている審神者、つまり主様が、今回こういう事態に陥りました、と報告を行わないといけません。まあ、今回は主様の確認ミスですが、報告してもいきなり首を切られるようなことはございませんよ、ご安心下さい」
「怖いこと言わないでよこんのすけ!」

もふもふしたしっぽを振って、こんのすけは言う。曰く、同じ審神者でも、私のような現代と本丸を行き来する、出向型の審神者と、本丸に常駐して指示を行う審神者と居るが、今後の方針の検討に、それぞれの場合におけるトラブルなどの情報は集めておきたいのだとか何とか。

「よりよい本丸・審神者の運営のための情報収集です。お気になさらず、ありのままお書き下さい」
「はーい。えっと……じゃあまずは担当さんへの報告書類から書くかー」

こんのすけの指示のもと、空欄を埋めたりサインを書いたりと、書類を捌いていく。手を休める暇も無い。休めたらそこで試合終了ですよってか! 休んだら確実に明日になだれ込む!
かつて無いほどの集中力で書きこんでいると、あっという間にお昼になってしまった。

「主、そろそろ昼餉だ。一端手を止めて食事にしないかい?」
「あ、歌仙さん……もうお昼?」

慌てて時計を見やれば、確かに長針も短針もてっぺんを指している。こんのすけも、一度休憩を挟みましょうか、と言ってくれたし、何より気づいてしまえば身体が空腹を訴えてくるので、素直にペンを置いて食事をすることにした。今日は呼びに来てくれた歌仙さんがお昼作りの主任だったか、盛りつけがとても綺麗で、目にも舌にも楽しい食事だった。

「さ、あと少しです! さくさく行きましょう!」
「おー!」

始め渡された時に比べて、格段に減った守の束を前に、一際気合いを入れる。小難しい文面に負けそうになるが、こんのすけのサポートを貰って、一枚一枚、着実に減らしていった。その結果。

「これで最後です、主様!」
「いよっしゃー! 終わったー!」

最後に署名欄の記入を終えて、ばっ、と両腕を上に突き出す。長く苦しい……戦いだった……!

「おや、終わったのかい、主。お疲れ様。八つ時だから呼びに来たけど、ちょうど良かったようだね」

簾の向こうから歌仙さんが苦笑しながら顔を出す。ははは、年甲斐も無くはしゃいだところを思いきりきかれていたようだ。恥ずかしい。
もうすぐみんなも広間に帰ってくるだろう、と歌仙さんの声を聞いて、じゃあちょうど書類も書き終わったし、時間も良いし私も行こうかな、と、立ち上がる。書類は机の端に纏めて、おやつを食べ終わったら提出することにした。

「あ、主さーん、お疲れ様です! お仕事終わりましたかー?」
「おっ、引きこもりの主が出てきたってことは、仕事は終わりか?」

庭の方から、堀川くんと鶴丸さんの声がする。見れば、こちらに向かってきていた。他にも、愛染くんや安定くんも居て、第一部隊の面々が招集を掛けているのかな、と微笑ましくなった。

「うん、無事終わったよー! 堀川くんありがとう! あと鶴丸さん引きこもりとは聞き捨てならん」

はは、事実だろう! と豪快に笑う鶴丸さん。否定できんが、他人に指摘されるとこう、むずがゆいと言うか! ていうか今回は仕事のために部屋にこもらなきゃいけなかっただけだし!

「じゃあ主もおやつ一緒だな!」
「良かったね、終わって」

愛染くんが嬉しそうに言ってくるので、ぐりぐりと頭を撫でてやる。安定くんにもありがとう、と言えば、君が頑張ったからでしょ、と嬉しい言葉をくれた。うちの子達がこんなにも可愛い!
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