昼下がりの話


お昼の時間を終えて、本丸内をぐるりと回る。何かやることはあっただろうか、と思い浮かべたが、粗方の仕事は終わっていた。
日課分の鍛刀と刀装作りは午前のうちに終わらせたし、先ほど出陣させた第3部隊が検非違使に遭遇して手入れ中のため、手入れ部屋に空きがない今他の部隊の出陣も控えたい。手伝い札、という手段もあるのだろうが、別段急ぎで出陣したい理由もないので、怪我をした面々にはゆっくり治療に専念して貰いたい。
となると、私が出来ることは本丸のお手伝いくらいだろうか。畑仕事に、あとは炊事洗濯。お掃除でもいい。
まずは、と一番近い畑を覗いてみると、左文字兄弟が草むしりや野菜の収穫に精を出していた。お揃いで買ってあげた麦わら帽子が、仲よさそうに三つ並んでいるのは、見ていて嬉しいものがある。兄弟で仲良く作業しているところに割って入るのも野暮だろう。しかしこの炎天下、汗も掻いているはずだ。そう思えば、内番に当てられているみんなにお茶でも持っていこうと、炊事場へ向かうことにした。
炊事場では、次郎さんが包丁を持って何やら料理をしていた。次郎さん、と声を掛けると、大きな背がくるりとふり返る。私の姿を見て、次郎さんはにっこりと笑った。

「やあ主。炊事場に何か用かい? といっても、アタシに作れるものなんて、せいぜいつまみくらいだけどさ!」
「ふふ、ということは、次郎さんは自分のおつまみ作りかな? もう、今日は出陣の予定は無いとは言え、程ほどにしておいてね?」
「あっははは、まあ、酒は飲んでも飲まれるつもりはないからね!」

豪快に笑う次郎さんに私も笑い返して、戸棚から湯飲みをいくつか取り出す。畑当番の左文字兄弟、それと、馬当番には乱くんと浦島くんに、青江さんだ。手合わせの内番に当てたのが、長曽祢・蜂須賀虎徹兄弟と、沖田組と、あと堀川くんが居ないから兼さんと陸奥守くんだった、はず。7人……いや、もう少し居るだろうか。思いの外多くなった湯飲みにどう運ぼうか、と苦笑していると、次郎さんが「差し入れかい?」と笑う声がする。

「うん、今日は日差しが強いから、お茶でも差し入れをと思って」
「ああ、あんたが手ずからくれるのなら、あいつらも喜ぶだろうね。しっかし、これだけの数をあんた一人で運ぼうっての? 無理がないかい?」
「あはは、私も今それを考えてたところ……」

湯飲みの数だけでも多いのに、さらにお茶を運ぶとなれば、少々厳しいだろう。地道に行ったり来たりするしか無いかな、と考えていると、次郎さんがおもむろに冷蔵庫を空けて、何かを入れて何かを取り出した。思わず彼の方を見ると、冷えた麦茶が入れられたペットボトルを二本、その手に持っている。

「次郎さん?」
「なに、酒なら兄貴が帰ってきてからでも飲めるさね。一人で飲むよりそっちが美味い! だから今はあんたを手伝うことにしたのさ。アタシたちが内番の時は、燭台切がこうやって持ってきてくれてたしね」
「……そう、なんだ……」

ああ、と次郎さんは笑って、冷蔵庫の上から持ち運びに便利そうな、小さなクーラーボックスを取って、その中にペットボトルを放り込んだ。

「さ、主は湯飲みを持って、アタシに付いて来な。そしたら、一気に全員回れるだろ?」

その提案に、一も二も無く頷いた。

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