寂しい話


長曽祢さんも見つかったので、今まで厚樫山を周回していた第一部隊、もといレベルカンスト組の出陣はしばらく無い。歌仙さんと堀川くんにはまた池田屋で頑張って貰いたいが、他の池田屋攻略予定の面々のレベルが上がってからのため、事実出陣任務は無いに等しかった。

「ということで、今まで本当に頑張って貰ったので、ちょっと羽根休めとでも思って、遠征をお願いしたいんだ」
「オーケー、その任務、有り難く受けさせて貰うよ」

にこりと笑う光忠さんに、遠征先の予定を告げる。気を抜けない任務だが、戦場に出ずっぱりの頃よりは、いくらか心持ちが楽ではないかと思う。

「第一部隊では遠征に行けないから、第二部隊の面々と入れ替わって貰おうかな」
「ああ、手続きが必要なんだったね。うん、彼らもレベルが上がってきたし、良いんじゃないかな」

今の第二部隊の隊長は……秋田くんだ。そうだ、この前長曽祢さんを連れてきたときのままだ。光忠さんと一緒に粟田口の部屋まで行き、部隊の変更を伝える。秋田くんが近侍になるのだと言うと、彼は呆けてから、満面の笑みを浮かべた。

「はい、主君のお役に立てるよう、精一杯頑張りますね!」
「ふふ、頼もしいね。それじゃあ、主のことは任せたよ、秋田くん」
「任されました! 燭台切さんも、遠征頑張ってください!」
「ああ、ありがとう」

光忠さんはひらひらと手を振って、粟田口の部屋をあとにした。きっと、部隊のみんなに伝えに行くのだろう。出陣予定はもう少し後だ。

門の前にずらりと並ぶ、元第一部隊の面々を見やる。いつもの厚樫山と違って、遠征は十分な準備が必要だからか、みんなの装備も普段は見慣れないものだ。改めて、彼らを遠征に送り出すのだなあと実感してしまう。
全員の準備が終わったことを確認して、それじゃあ、と光忠さんが私に声を掛けてきた。

「行ってくるよ、主。僕が居ないからって、だらしない生活をしないようにね?」
「はは、そうだね、気をつけるよ。みんなも、怪我しないように、気をつけて行って来てね」

ひらひらと手を振ると、光忠さんも笑顔で振り返してくれる。いつもそばに居てくれた、心強い面々と離れてしまうのは、少し寂しい。門の向こうへと消えていく背中を、見えなくなるまで見送った。


部隊を遠征に出すのは、誰であっても未だ慣れない。近場の出陣と違い、長時間顔を合わせることがない。本丸から、彼らの存在がごっそり抜け落ちたような気がして、怖くなるのだ。
まして、今回はずっと近侍だった光忠さんと、初期刀の歌仙さんだ。自分で遠征に出しておきながら、早くも寂しさでダウンしてしまいそうだった。ブラウザを見ながらクリック一つで遠征に行かせていたあの頃と決定的に違うのは、彼らと実際に触れ合った、ことだろうか。

「主君、大丈夫ですか?」
「……思ったよりも寂しさが大きいという事実に気づいて打ちのめされてる」
「なんだ、大将の方が自覚なしだったか?」

からから、薬研くんが笑う声が聞こえる。秋田くんが、「すぐに帰ってきますよ!」と必死に言い募ってくれているのが可愛い。
第一部隊とお昼ご飯を食べていたのだけれど、あまり食が進まないのが不思議で、どうしてだろう、と零したところ、そりゃ寂しいんだろ、と訳もなく答えてくれたのは薬研くんだった。言われたときの私の心情と言ったら、まさしく「それな」、である。

「いつも一緒だったからなあ……」
「まあ、一番レベルも高いですし、主さんと一緒に居た時間は長いですよね、遠征部隊のみなさんは」

ところで主さんが食べないなら俺が貰って良いですか? と私のロールキャベツに目をつけてにやにやする鯰尾くんを、隣に座る骨喰くんがたしなめている。正直あげても良いのだが、そんな素振りを見せれば、「あまり鯰尾兄さんを甘やかしてくれるなよ、大将」と鋭いご指摘が入るので、残念だが鯰尾くんには私のおかずは諦めて貰おう。
まだまだ遠征部隊を送り出してから、時計の針は二回りもしていないというのに。今日は長い一日になりそうだなあと、ぼんやり考えた。
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