回収の話


「よし、じゃあ博多くん。脱ごうか」
「セクハラばい主さん!」


「君、弁明しないと誤解が加速するよ」と光忠さんに言われ、慌てて言葉を補足する。というのも、博多くん、大阪城で出会ってから直ぐに特付きまでレベルを上げたので、検非違使戦で中傷イラストこそ手に入れたが、真剣必殺は未入手だったのだ。

「一応ね、真剣必殺を出したっていう記録を残しておかないといけなくてね」
「それ、記録したらなんか良かことあると?」

そう、別に記録したからといって報酬が貰えたりする訳ではない。ならば、何が目的で集めるか。ずばり。

「刀帳の博多くんのページをデータコンプ出来る」
「なら仕方なかね」
「それ仕方ないで済ませられるの!?」
「コンプは大事ばい。手に入れられるもんは、手に入れられる内にとっとかんと、機ば逃すとよ?」
「ああ……そう……」

まさに博多くんがそれなので、なんというか実感籠もってるなあと思う。ぴ、ぴ、とタブレットで攻略wikiを開いた。博多くんは特付きにしたあとも何度か出陣しているので、レベルは25。隊長に据えて、単機にしたら、適正戦場は。

「2-2、江戸の江戸か。……行けるかな?」
「任せときんしゃい! 絶対に、真剣必殺発動してくるばい」

とん、と胸を叩く博多くんは頼もしい。2-2、下手すれば単機で検非違使に当たるかもしれない。絶対に負けない、とはいえ、真剣必殺を発動するには中傷以上に怪我を負わなくてはいけない。
胸を叩いた手を取ると、博多くんはきょとんと私を見た。

「あえて怪我を負ってこい、と命令する。戦いに行けではない、ただ、真剣必殺を発動してこいと。この命令は、理不尽だと怒っても良い。これで発動できなければ、次も行かせる。……痛いと思う。けれど、絶対に折らせない。君を蔑ろにしたい訳じゃ無い。それだけは、信じて欲しい」

都合の良いことを言っている自覚はある。本当に、理不尽だ。私が刀帳を埋めたいだけで、怪我を負わせるのだから。
ぐ、と握った手に力がこもる。だが、それを緩やかに外させたのは、他ならぬ博多くんの声だった。

「大丈夫たい、主さん。主さんが、俺たちのことば大事に思っとるのは、ちゃーんと知っとうよ。それに、大事に思ってくれとるけん、俺一人で行かせるっちゃろ?」

博多くんは、にこりと笑った。「隊長は、絶対折れんもんね」、と。そう、隊長だけは、どんなに攻撃を受けても絶対に折れない不思議な加護のようなものが付いている。だから単機出陣させて良い、訳では無いのだが。

「ま、この一回で真剣必殺すればいい話たいね! そんじゃ主さん、行って来ます!」

するり、力の抜けた手から抜け出して、博多くんは戦場へと向かう。その背中は、短刀ながらに、とても頼もしい。
君もやっぱり、戦場で戦う刀剣男士なのだ。どんなに見目は幼くとも、本質は、刀なのだ。


「本当、私はみんなに無茶言ってばかりだなあ」
「それ以上に心を砕いてくれていることを、みんなきちんと知っているから問題無いさ」
「はっは、みんなが甘やかすの上手すぎて私駄目になりそう」

門の向こうへと消えていく博多くんを見送って、タブレット、通信端末へと目を落とす。多くの敵に、一人で立ち向かう姿は、太刀にも負けないくらい、堂々としていてとても格好良かった。


まあ結果論として、博多くんはしっかりと真剣必殺を発動してくれ、二度戦場に送るということにはならなかった。帰ってきた博多くんをめちゃくちゃぽんぽんした。

「それにしても、最初主さんに「脱げ!」って言われたときは、警察呼ぼうかと思ったったい」
「止めて、修羅の国仕込みの警察呼ぶのほんと止めてください」

加えてこのあと長曽祢さんも剥いてめっちゃぽんぽんしました。ごめん長曽祢さん、光忠さんに今日は美味しいご飯一杯作ってくれるよう頼んだから……!
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