お迎えの話


「はい、じゃあ今日もいつも通りね!」
「はい、京都の椿寺ですね! 行って来ます!」

夜も更けてきたというのに、我が二軍は元気である。やっぱり夜戦で活躍しやすいから、夜に強いのかな、なんて詮無いことを考えた。第二部隊、もとい、池田屋のための粟田口レベリング部隊。身も蓋もないことを言うが、経験値配分のために秋田くんを隊長に据え、薬研、前田、五虎退、骨喰、鯰尾の6人で構成されている。そろそろステージ5に行けそうかな、というところだ。この調子でいけば、近日中には4-4もレベル上限に触れてしまうだろう。打刀以上を含まないこの編成では、少しでも前ステージの上限に達してからでないと次のステージでのダメージが怖い。まあ、上限ギリギリまでレベル上げて進めば、効率よくレベリングできそうだなっていう思惑もあるけれど。
一回目の周回では、なんとか検非違使に遭遇せず、依頼札まで回収してきてくれた。間に第三部隊の出陣を挟み、検非違使の襲撃に遭いながらも、こちらは何とか帰還。打刀以上はやっぱり硬いなと実感した。怪我をした面々に手入れを行って、いま一度第二部隊で椿寺へと進んで貰う。一戦、二戦、冷却材を回収したという報告を受け、次の進軍。

『──、検非違使ですっ!』
「!?」

秋田くんからの報告に、思わず身構える。一緒に進軍結果を見守っていた光忠さんが、パソコン画面を覗き込んだ。

「大丈夫か……? 刀装の余裕はある、とはいえ、最近検非違使強いからな……」
「何とか無事に帰ってきて欲しいね……」
「本当それだよもう……!」

こちらは見守るしかできないというのが、本当に歯がゆい。何とか布陣は有利な形に持って行けたようだ。遠戦で秋田くんと五虎退くんの刀装が剥がれる。敵編成は。

「レア5編成……!」

不安は大きくなる。がり、と噛みかけた爪を、光忠さんにやんわりと止められた。こちらの刀装がはがされたとはいえ、彼らとて敵の刀装をばりっばりに剥いでいる。足の速さを生かし、順調に敵を追い詰めていく。五虎退くんが中傷を負うも、真剣必殺を発動し、敵の長槍……部隊長を一撃で沈める。……五虎退さん怖ぇ……。
長槍が最後だったのか、敵の姿は見えなくなる。

『なんとか……勝てたようです……! ……あっ』
「うん、うん、お疲れ様! 五虎退くんが中傷だからそのまま撤退を……、秋田くん?」

秋田くんの報告を、若干涙目になりながら聞いていると、ふと気の抜けた声がした。不思議に思って名前を呼ぶが、返事は無い。

「どうしたんだろう、秋田くん……」
「さあ……敵を見つけた、って感じの声じゃあ、無かったけれどね」
「うーん……?」

光忠さんと二人、唸りながら顔を見合わせていると、『主君!』と、どこか弾んだ声が聞こえた。

『今すぐ、帰還します!』
「え、あ、うん、はい!」

普段から明るい秋田くんだけれど、ここまで高揚した声は初めて聞くかもしれない。本当に何があったんだろう、と首を傾げるも、とりあえず帰還と聞いては出迎えない訳にはいかない。通信機器を手に持って、門へと向かうことにした。

時空が繋がる門は、帰還を知らせている。じっと見守っていれば、重い音を立てて扉が開かれた。我先にと駆け寄ってくる隊長の秋田くん、骨喰くんに手を引かれながら、どこか誇らしげに歩いてくる五虎退くん。他、隊の面々に目立った怪我は無さそうだ。

「主君!」
「わ、っと……おかえり、秋田くん。隊長ご苦労様。みんなも、お疲れ。五虎退くんは手入れ部屋に……」

そこまで言って、みんなの表情が明るいことに気付く。特に五虎退くんなんかは、自分の手入れよりも、と言いたげな表情だ。

「主君! その、こちらを!」
「え……」

ば、と秋田くんが差し出したそれは、あまりにも近すぎて一瞬よく解らなかった。「これはっ!?」と、隣で光忠さんが大きな声を上げる。びくついたものの、少し離れて差し出されたものをよく見れば、それは、今までに見たことのない刀、で……。

「…………、まさか」
「はい、主君、お願いします!」

彼らは椿寺に出陣した。検非違使を倒し、帰還した。それまでに拾った物は、冷却材のみ、で。
彼らの期待は、そうなのだろう。刀を受け取り、力を込める。ぽう、と淡い光が灯り、刀を中心に、宿る思いが人の形を成していく。

ふわり、力の残滓のような桜が舞い、降り立つ姿は。



「長曽祢虎徹という。贋作だが、本物以上に働くつもりだ。よろしく頼む」


わぁっ、と歓声を上げる第二部隊、その声に後押しされるように、本丸に向かって二人の虎徹の名を叫んだのは、まあ、しょうがないだろう。





「夜半だぞ主静かにしてくれ!」と歌仙に叫ばれたが。まあ、うん、しょうがない。
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