ある晴れた日のこと



…ああ、その場のノリとはいえ、何で私「次期門外顧問候補」とか言っちゃったんだろう。
やっぱ考えて行動しないとダメだよね。


でも、ま、後悔はしてない、かな。


3rd.ある晴れた朝のこと


「なまえちゃーん!学校行こー!」
「…………ゆうこ?」

昨日ツナの家に夜遅くまで居座ったあと (奈々さんごめんなさい!)、私はゆうこと別れて家路に着いたはずだ。にもかかわらず、やつが私の家を知っているのはどういう事だろうか。
…あれか、ゆうこはレベル7のサイコメトラーだったりするのか!?

「なまえっちゃーん!早く来ないと扉蹴り開けちゃうぞっ」
「蘭ちゃんか貴様は」

きっと扉の向こうで満面の笑みを浮かべているであろうゆうこが容易に想像できて、笑った。


「…でねー!ナミモリーヌのケーキが凄く美味しくってさぁ!」
「うん、どーでも良いけど時間ヤバいよゆうこ」
「ええぇぇぇぇぇぇ!?」

腕時計を見ると、針は8:50分を過ぎていた。
授業開始が9:00だから、既に朝のホームルームは終わっている。さて、どうしたものか。

「ちょ、遅刻じゃん!生まれてこの方遅刻したこと無かった私が!遅刻って!」

はた目に見ても慌ててるのが解るゆうこがちょっと面白くて、からかってみた。

「遅刻イベントは出会いフラグだね。角を曲がったその先に運命のイケメン男子が…」
「いつの時代の少女漫画だ!?てかフラグて恋シュミ!?」

予想どおりのツッコミサンクス。しかしそんなやりとりをしている状況じゃないことも確かではある。

「遅刻の件は潔く諦めて、とりあえず学校行かない?」
「…うん、そうする」

ツッコミ疲れか諦めか。ゆうこの声に覇気は無かった。


学校までのんびり歩きながら、この一ヵ月間にあったことをお互い話した。
解った事は、私とゆうこは同じ日にトリップしたこと、転入した日が同じだったこと、ナミモリーヌのケーキがおいしいということ(それはもういいよゆうこ)。
ゆうこは獄寺と同じマンションに住んでいるらしく、トリップしてきて最初に会ったのが獄寺らしい。
…うん、私キャラと離れた一軒家でよかった。会った瞬間ボムとかやだもん。

「それからー、転入初日に学校で迷ってねー、」
(…………まさ、か、)

いやいや、確かにこいつは逆ハーヒロインだ。それは自が認めなくても他が認める。が、しかしこれはなんというか、もう陰謀を感じざるをえない。

「それでその時助けてくれたのがね、」
「遅かったね、ゆうこ。副委員長の君が風紀を乱してどうするの?」

やっぱりか――!

やっぱりこいつ、初日に迷って雲雀さんに助けられてる!しかも副委員長て何!?

「で、そっちの君は?名前とクラス、言ってくれる?」

天上天下唯我独尊、並盛の秩序にして最強の不良。並盛中学風紀委員委員長、雲雀恭弥。
… まさかゆうこの逆ハー体質がこんな形で関わるとは思わなかった。…恨んで良いですか。

「2年D組、みょうじなまえ、です」
「ふぅん。ゆうこと仲が良かったから同じクラスかと思ったけど、違うんだね」
「ええ、まぁ、友達なんです」
「すっごい仲良いんだよー!羨ましいでしょ、恭弥!」

…うん、雲雀さん、ゆうこの話を華麗にスルーだ。扱い方が解っている。…ゆうこに惚れてるのは間違いないかもだけど。(なんてったって副委員長にするくらいだ)
あ、そう言えば…

「あの、雲雀さん。さっきゆうこが副委員長、って…」
「え、何なに!?なまえも風紀委員入りたいの!?」
「いや、私図書委員だし。私が知りたいのは、何で雲雀さんがあんたなんかを副委員長にしたのかなーって」
「なんかってひどいよ、なんかって!」
「…強かったから、かな」

…なるほど読めた。
つまりは転入初日に迷っておろおろしてたゆうこに雲雀さんが興味を持って攻撃したところ、それに勝つとは言わずとも、対抗できうる位の力を見せられて気に入った、ってところだろう。(←大正解)
ゆうこ、キャラと顔に似合わず運動神経は抜群に良いからな。…状況判断力が無いから突っ走って怪我するんだけど、でもそれを補って余りあるほど、ゆうこは強い。

「まぁ、一回目だから今日は厳重注意で済むけど、次からは咬み殺すから」
「(一回目じゃなくてゆうこが居るからじゃないかなぁ)……はい」
「え、何恭弥やっさしーい!何で!?」
(ゆうこ、お前のせいだって)
「どうだっていいでしょ。それより早く教室行きなよ、ゆうこ、みょうじ。今一時間目が終わったから、今から行けば二時間目から間に合うよ」
「え、あ、うん、ありがと恭弥!なまえ、行こっ!」
「はいはい。…それじゃあ、雲雀さん」

校舎に向かう前に、雲雀さんに「この子と一緒に居るの大変だろうけど、頑張ってくださいね」の意味を込めた視線を送ってみたら、「解ってるなら助けてよ」的な視線を返された。意外だ。睨まれっかなー、なんて思ってたけど、まさか助けを求められるとは。
まあわからんでも無い。ゆうこの天然っぷりは誰か助けが無いとかなりきつい。…私はもう幼なじみだから慣れたけど。
だけどまぁ、巻き込まれるのも嫌なので。
「傍に置いたのは雲雀さんでしょう?余程のことが無いかぎり、私は動きませんよ」と視線を返しておいた。
そうして私から、目を逸らす。
雲雀さんがどう返そうとしていたのか、私は知らない。知らないほうが良いこともある。
…ていうか知って巻き込まれたくない。


さて、二時間目は何だったか。



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