お礼の話


刀種変更が告知されて一週間。彼らは新しい刀種に、打刀に対応できているだろうかと、恐る恐る、尋ねてみたら。

「そもそも俺たちはレベルが足りなくて夜戦のある池田屋にすら乗り込めていないだろう。基礎値が上方修正されただけだ、特に言うことは見つからないな」
「ですよね!」

全く以て大倶利伽羅さんの言うとおりである。いやはや審神者の力不足である申し訳ないな!

「それにしても、情報が通達されたときはどうなることかと思ったけど、案外何事もなく普通に対応してたよね」
「ていうかね、肝心の私がね、寝て起きたら完全に気持ちの整理付いちゃったからね」
「君のそういう切り替えの早さ嫌いじゃないよ」
「ただの脳天気ってのを綺麗にオブラートに包んだね光忠さん?」
「やだなあ君の勘ぐりすぎだよ」

ははは、とにこやかに爽やかに笑う光忠さんを睨めつけるが、彼は動じない。強い。

「そうそう、一軍でも歌仙さんと堀川くんが二刀開眼してたねー」
「ああ、確かにあれは強力な武器になるだろうね。ただ、相当な集中力や好条件が揃わないといけないけどね」
「ま、それも含めて威力は大きいからねー。確実に倒せるって強みだと思う」

光忠さんとぐだぐだ話しながら戦績表を纏めていると、ことり、と正面に小さなお皿が置かれる。乗せてあるのは羊羹だろうか。何事だ、と顔を上げれば、そっぽを向いた大倶利伽羅さんが。

「大倶利伽羅さん?」
「……出陣先で、和泉守たちが買ってきていた。あんたにだそうだ」
「和泉守さんが?」

じゃあ、彼が直接渡しに来れば良いのに。今日は出陣の他には何も入れてないはずだったよなあ、と思考を巡らせていると、くすくす、隣で光忠さんが笑う。

「その『たち』には大倶利伽羅も含まれているんだよ、主」
「え?」
「おい、光忠っ……チッ」

思わぬ言葉に大倶利伽羅さんを見やれば、どこか悔しそうに見えて、ああ、本当なんだろうなあとうっすら思ってしまう。
わざわざ買ってきてくれた、その真意はわからない、けれど、大倶利伽羅さんがそれ以上何も言わないところを見ると、きっと私が都合良く解釈して良いんだろう。
和泉守さんが買ったと言って、大倶利伽羅さんが渡してくれた。なら、その意味は。

「んふふ、途中まで一軍で頑張ってくれてたもんね、二人とも。まだまだカンストまで働かせるから、打刀になったからって楽になれると思うなよー?」
「……ふん、上等だ」

羊羹を一つ、口に含むと、なめらかな餡の味ががするりと溶けていく。後で和泉守さんにもお礼を言っておかないとな。


その後。和泉守さんにお礼を言いにいったら、「同田貫も部隊が違ったから一緒に出陣こそしなかったけど、金は出してくれたんだぜ!」との話を聞いたので、手合わせ中の同田貫さんに突撃した。たくさんお礼を言うと、顔を真っ赤にして目を逸らしながらもどこか嬉しそうだったので私まで嬉しくなった。
今日は三人の晩ご飯に、彼らの好きなおかずを追加してあげよう。さっそく光忠さんに報告せねば!
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