方言の話


昼食後、広間でのんびりとテレビを見ながらお菓子を摘まむ。ささやかな癒やしの時間だ。
内番中に一息入れたい子達や、手合わせの休憩の子達、出陣を終えて身体を休めている子達など、色々な子が適度に広間に集まって思い思いに話したり菓子を食べたりしている。

テレビからは、休日昼のバラエティらしく、賑やかな話題が並んでいた。その、中で。

「女の子が使うと可愛い方言、ねえ……」

ぱきっ、とビスケットを囓りながら、画面に並んだ文字を読む。この手のものは何度か話題に上がっているので、何となくランキングの結果は分かるつもりだ。……それにしてもこのバラエティ、23世紀のものなのだろうか、それとも、私の時代のバラエティが映っているのだろうか。もし前者だとしたら、日本は2世紀経ってもさほど変わらないと言うことか。
いくつかの視線がこちらに向いて、思わず身をすくませる。……そういえばこの本丸で女は私だけでしたね!

「そう言えば主、この前方言で喋ってたって聞いたけど」
「あれっどこから聞いたのかな安定くん……!」
「清光から。清光は光忠さんから聞いたって言ったよ」
「あいつ……!」

そんなに聞きたいか! 別に良いだろ! 私が喋らずとも! 博多くんが喋ってくれるだろう!!

「博多藤四郎と同郷なんだって?」
「あー……同郷って言うか、まあ、広義に言って同郷」
「結構曖昧だね?」

んー、と濁して答える。まあ、同じ県内って意味であれば同郷なんだけれど、私のは博多弁と違うんだよね……。
ぽつぽつと話している中、ランキングは上位へと移る。トップスリーまでに、故郷は入っていない。まあ、予想はしてた。

三位、二位、と開示されていく。今回の番組では、二位の京都弁を抑えて一位に君臨したのは博多弁だった。

「やったばい、主さん! 博多弁一位やったよ!」
「あーはい、そうねぇ、一位だったね……」

博多くんが喜んで私に笑顔を見せてくれる。可愛い。
まあ予想できたよね。大体この手のランキングで上位は京都・博多・関西である。博多弁は京都弁と並んではんなりとか柔らかいとか博多美人とか言われるけど、男と同じ※ただし美人に限る、と言うやつだと思っている。常日頃同じ方言に囲まれていると、可愛いと思えないのも理由の一端では無かろうか。

「あんまり嬉しくないと?」
「嬉し……うーん、嬉しいって言うか、可愛いのかなあ、って疑問の方が先立つ」

字面で見れば可愛いのも頷ける。それかもしくは、好きな人から言われるのなら、ってやつだろうか。
テレビでは、上位の方言で告白するときの台詞なんかが流れている。おうおう、けっこう攻めるなこの番組!
告白台詞が流れる度に、スタジオは盛り上がっている。ついでに一緒にテレビを見ている皆も興味津々に見入っている。あれ、結構みんなこういうの興味ある感じなんだ?

「じゃあ、主さんも言ってみると良かっちゃなか? みんなが可愛いかどうか、言ってくれるばい」
「それなんて羞恥プレイだよ博多くん……。むしろ博多弁なら、博多くんが言ってみた方が正確じゃない?」
「えー、男の俺が告白しても、なんも楽しくなかばい」

ね、ほら、主さんー、と促されるが、何を言えば良いのやら。

「あ、じゃあほら、あれと同じ台詞を言ってみたらどうかな?」

いつの間にか、お茶を淹れてくれていた光忠さんが隣から催促してくる。指差されるテレビの方をつられてみれば、女の子が「好いとうよ」と言っているところだった。……女の子言ってくれてるし私言う必要なくない? ねえ、無くない?

「だから博多くんに言って貰えば」
「君じゃ無いと嫌だ、って言ってるの」

次のお菓子に伸ばそうとした手を、掴んで止められる。言ってくれたらお菓子あげるよ、とにこりと微笑む光忠さんは私の扱いをよく分かっていらっしゃる。
しずしずと手を引っ込めて、えー……と視線を彷徨わせるが、何だろうこの、室内の有無を言わせない空気。
これは、言うしかないのか。縋るように光忠さんを見上げるも、「覚悟は決めた?」って、そんなに、覚悟決めてでも言わないといけない感じですかこれ……!
しょうが無い。言って終わるならそれで良いだろう。す、と小さく息を吸って。

「す、好いとう、よ……?」


どしゃっ、と何かが降ってくる音に、思わず肩が跳ねる。音のした方を慌てて見やれば、白まんじゅうが落ちていた。……もとい、天井から落ちてきたらしい鶴丸さんがうずくまっていた。何があった。

「つ、鶴丸さん……!?」

慌てて駆け寄れば、少しぷるぷると震えているのが分かる。どうしよう、と不安になって、軽く肩を二、三度叩けば、白まんじゅうは急に起き上がってがぱりと覆い被さってきた。

「わふっ!?」
「全く、驚かそうと思って隠れていたのに、こっちが驚かされたぜ!」
「何が!? っていうか天井に隠れてたんですか! 止めてくださいって何度言ったと思いますか!」
「ははっ、まあ、そうだな、君にあんなことを言われれば、心の臓も止まるかと言わんばかりの驚きだった、そういうことだ」
「だからどういう……」

ぱ、と解放されて、そら、見てごらん、と言われるままにふり返り、広間を見渡せば、殆どがうずくまるか動かずに固まっているかのどちらかだった。本当にどういうことだ!
一人、けらけらと笑う博多くんが、爆弾のように答えを投下する。

「やっぱり、女の子が博多弁を使うと可愛いっちことやね! 主さんの告白で、みんな撃沈しとうよ!」

そういうことだ、と背後から苦笑する声がする。マジかよ……、と死屍累々の広間を見て、ちょっと引いた。

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