大阪城の話


「さて主殿、時計を見て頂きましょうか」
「……20時、30分です……」
「では、あなたの終業時刻は?」
「17時、です……」
「今日は博多藤四郎実装日でしたな? 定時で帰るという、私との約束はいかがされたので?」
「だって……! だって公式がメンテ終了は18時だって言うから! 18時までなら仕事できるかなって!!」
「なんで君はそんなに仕事脳なの」


まあね、6時過ぎには帰るつもりだったんだけど他の仕事をうっかり入れちゃってね。遅くなったよね。

「どうせ君のことだから、他の人に任せても良い仕事を自分から引き受けちゃったんだろう? 全く、人が良いのも時には毒だよ。考えてやらないと」
「う……でも、自分で出来ることはやっとかないと……。私新人だし……」
「新人だからって何でもやらなきゃいけないってことは無いの。出来る人が出来ることをすれば良いんだから。ちょっとは他の人に任せるってことを知らなきゃダメだよ、君は。向こうの仕事にしても、審神者の仕事にしてもね」
「以後気をつけます……」

一期さんと光忠さんに囲まれてお説教なう。ちょっと贅沢だなと思って嬉しいとか言わない。マゾじゃ無いです!! いち兄と光忠さんって言う頼れる人に構って貰えるのが嬉しいだけです!

「さて、いつもとあまり変わらない時間にはなりましたが、今日も出陣しますかな。目的地は、大阪城地下50階でよろしかったですね?」
「もちろん! とりあえず先遣隊として、光忠さん達に一階だけ回って貰おうかなって。あんまり難易度は強く設定してないはずだと思うんだ。たぶん、始めたばかりの新人さんでも回れるようにはなってると思うし。ま、念のためね」
「了解。任せて、しっかりと見てくるよ」

そう言って本丸から出陣した第一部隊の様子を、粟田口ご一行と一緒に本丸で確認する。……が、これは。

「緑……丙……」
「主?」
「むしろこれ粟田口じゃなくってあれじゃない、特付け部隊のレベリング戦場じゃない?」
「と、いうと?」
「敵兵装無しでこのレベルなら、ほら、今特が付くように育ててる第四部隊の周回にちょうど良いかなって。上手くいけば全員に特が付きそうかも。20階を過ぎると高速槍、41階以降で敵兵装っていうから、一期さん達を向かわせるのはもう少し後でも大丈夫だと思う。このステージ、51階から100階までは挑戦ステージらしいし、50階で確実に博多くん、検非違使は出ない、ってことは、前半は休んで、50階前後から皆に出て貰って、51階以降は博多くんを交えてレベルを上げるための出陣で組んでみようと思ったんだけど、どう思う、一期さん?」
「……いえ、最初から私たちを出陣させてくれというのは、些かわがままが過ぎますかな。確かに、使えるものは敵でも使うべきです。幸い、疲労は階を下るごとに溜まるようですし、でしたら、育成部隊に宛がうのも適しているかと」
「うん、ごめんなさい。でも、ちゃんと博多くんを見つけるときは、皆に任せるから、お願いします。さて、じゃあこの辺で良いかな、光忠さん、状況が分かったのでそろそろ撤退お願いしますー」
『ああ、分かった。確かにここは、僕たちが行くにはいささか役不足かな?』
『久しぶりに、遠戦も緊張感もない戦いだったぜ……驚きがなさすぎて退屈だ』
「ふふ、じゃあしっかりねぎらいの準備をしておきますかね」

第一部隊に引いて貰って、第四部隊での出陣を行う。資源マスなんて無かった。ダイスの女神に慈悲などない。

「明日もお仕事だから……、今日は20階で留めます。4割攻略できたし、あとは明日ですかね、明日は次の日が休みなので50階まで一気に下っても大丈夫な気がします。まあ、部隊の疲労度や怪我の具合を見つつ、調整ですかね」
「ええ、そうですね。無理せず、進みましょう。博多が来たときに誰か欠けているのでは、話になりませんからなあ」
「そうだねえ、全くだ。じゃあ、続きは明日と言うことで」
「はい、出陣の命令、我々粟田口一同、お待ちしています」
「ふふ……、楽しみだね、博多くん」
「ええ」

攻略状況の戦績を書き留めつつ、明日以降へ思いを巡らす。うちの本丸へ来てくれる博多くんは、どんな子だろうか。どんなふうに過ごしてくれるだろうか。ここを、気に入ってくれるだろうか。

「通りもんでも買って用意しておこうかなぁ……。あ、筑紫もちがいいかな、とっとーとも良いよね、それとも」
「主、夜の甘味は控えませんと、それ以上は流石に目を当てられませんな」
「辛辣!」


「ちなみに、情報解禁時の感想が『マリオの不思議なダンジョン』だったけど、実際に行ってみてどう?」
「50階クリアかと思ってたら100階まであって、『私は天空の塔を攻略し終わったと思ったら、天空の塔最上階が用意してあった』、みたいな気持ち」
「あ、やっぱりダンジョンなのは変わらないんだね……」
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