癖の話


幼い頃から、爪を噛む癖だけはどうしても抜けなかった。口寂しいのか、食い意地が張っているのか。指を口に運ぶのは無意識の癖で、気づいたら深爪していたなんてざらにあることで。
おかげで爪が伸びずに握力も少し弱い。がたがたでぼろぼろの爪を見て、清光くんに悲鳴を上げられたこともあったっけ。ちゃんと伸ばしなよ! と言われたのだけど、無意識を意識的に止めるのは難しいのである。

「……いっそ全部の指に絆創膏貼ろうかな」
「逆に生活がしづらくなるよね、それ」

本丸のパソコンで出陣やらレベルやらのデータ整理をしていたのだけれど、色々と考えている間にまた無意識に爪を噛んでいたらしい。近侍で部屋に控えていた光忠さんに指摘されて、ああ、と自身の指を見る。女性の爪とは言いがたいそれに、情けなさすら覚えた。

「ちゃんと伸ばしたいんだけどねー……」
「僕みたいに手袋するかい?」
「それもありだなあ……、向こうじゃ難しいけど」

職場が職場なだけに、常日頃手袋は結構難しい。理由があれば良いんだろうけれど、まさか爪噛み癖直すために手袋しますって、いい年した大人が何をという話である。
……子どもの時に直しておくべきだったよなあ……。
ぼう、と自分の手を眺めていると、黒い手袋に覆われた手が静かに重なる。いつの間にか近くに来ていた光忠さんが、指を絡めるように私の手を握っていた。

「……、光忠さん?」
「やっぱり男としては、女の子の爪は伸びていた方が、格好が付くよね」
「……?」

意味を計りかねて首を傾げれば、光忠さんは指を絡めた手を自身の方へと引いて、ちゅ、と軽い音を立てて口付けた。

「ほら、背中に掻き傷が無いと、男として満足させられなかったみたいじゃないか」
「……、……」
「ね?」
「…………、あっ!?」

そういう意味かと、ようやく思考が追いつく。あまりにも縁の無い話題だったから辿り着くまでにえらく時間がかかったわ!
眼帯に覆われていない左目がにこりと微笑むが、全然笑えないよ光忠さん!

「い、いやいや、……ま、ず、そういう関係じゃ無いでしょ……」
「今はそうだけど、将来的には、ね?」
「えぇ……?」

彼の表情からは本気か冗談か、察することは難しい。
……さて、刀剣男士との恋愛関係についての規定はどうだったか、ちょっとこんのすけ助けて……!
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