もふもふの話


「もふー!」
「おっ……と、おや、ぬしさまでしたか」

見慣れた長髪に、猫じゃらしを差し出された猫がごとく飛びついた。
ブラウザで見ていたときから、小狐丸の毛並みってどうなんだろうとずっと疑問だったんだけど、実際に会ってみて触ってみると、成る程自慢するのも頷ける触り心地だった。

「うー、小狐丸さんもふもふー……! 気持ちいー……」
「ふふ、好きなだけお触りください。ぬしさまでしたら、いくら触れられても心地よいものです」
「もー、そういうこと言うとずっともふるよぅ……」
「ええ、どうぞどうぞ」

背後から抱きついてぐりぐりと長い髪に顔を埋める。髪と言うよりは、どちらかというと動物の毛並みを思い起こさせるほうだ。しかし、と声が降ってきて、小狐丸さんが上半身を捻って私の方へと振り向く。顔を上げてみれば、彼はにやりと笑って、一瞬で小狐丸さんと相対する形になった。つまりは抱きしめられる形になっていたのである。

「……あれっ?」
「やはり、後ろから抱きつかれるよりは、私もぬしさまを抱きしめとう御座います」

さらさらと流れる長い白髪が、顔に当たってくすぐったい。着物越しに感じる生暖かい体温が、じわりと染み渡る。

「……しかし、こうして立ったまま抱き合うというのも、些か風情がありませんな」
「んー、そうかな……」

しばらくもふもふを堪能してから仕事に戻ろうかと考えていたんだけど、と零せば、なんとぬしさまはこの小狐丸のことがお嫌いですか!? と真に迫る表情で言われたのでめっちゃ首を振って否定しておいた。ただ仕事が溜まっているのも事実なんです小狐丸さん。

「なれば、このままぬしさまの部屋にて午睡と致しましょう。でしたら、今しばらくこの毛並みを堪能できますが」
「それ仕事片付かないよ小狐丸さん」
「半刻後には起こして差し上げますので、ご心配なく。それから仕事を片付ければ、間に合いましょう」
「……そうかな」
「そうでしょうとも!」

半ば押し切られる形にはなったが、確かに、小狐丸さんのもふもふを堪能しながらお昼寝なんて贅沢だ。起こしてくれるのを信じて、部屋へと向かうことにした。暖かな日差しの午後、私と彼の足取りは軽い。
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